アルパックニュースレター173号

特集

和歌の浦景観ワークショップ

執筆者;大阪事務所 清水紀行

和歌の浦ワークショップの様子


鏡山から南方を望む

毎年5月に開催される和歌祭

前号では、和歌山市景観計画策定業務に関連し、和歌山城からみる和歌山の景観まちづくりに関する記事を書きましたが、今回は引き続き和歌山の話題で「和歌の浦景観ワークショップ」についてご紹介します。

万葉の地・和歌の浦

「和歌の浦」は、国の名勝指定(平成22年)を受けた、和歌山市有数の観光スポットです。かつて、その海岸美は東洋一といわれ、その美しさは全国に知られていました。現在でも、和歌山市民の愛着は高く、景観計画策定時に実施したアンケート結果でも、市内のお気に入りの景観資源のNo.1に輝いています。
また、紀州・万葉の地として古くから多くの詩人に愛された地でもあります。
「若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして 鶴(たづ)鳴き渡る」
この山部赤人の歌はあまりにも有名で、海水浴場の「片男波(かたおなみ)」の地名は、この歌の「潟をなみ」からきているとも言われています。
このように、他に類を見ない美しさと歴史的な由来を兼ね備えた、和歌山市が誇る景観上重要な地区という事で、現在、重点地区指定に向けた検討を進めているところです。

歴史的な趣を残す「和歌浦・新和歌浦」と漁村集落「田野・雑賀崎」

和歌の浦地区は、歴史的な趣を残す「和歌浦・新和歌浦」と漁村集落である「田野・雑賀崎」の2つに大別されます。前者は、不老橋、天満宮、東照宮をはじめとする歴史的資源や往時をしのばせる旅館街を中心とする地区で、後者は漁業を生業として今も生活が営まれている地区です。
そのため、外からみると「和歌の浦」とひとくくりにされがちですが、実際に暮らしている生活者の視点から見れば、まちの成り立ち・歴史が全く異なり、現在においても微妙にそのずれは感じられているようです。そこで、景観重点地区指定に向けたワークショップを始めるにあたっては、「和歌の浦」地区をフラットな気持ちで改めて見つめ直すということから始めました。

「和歌の浦」の魅力や価値を共有する

4つの地区からの参加者と公募市民(和歌山大学の学生等含む)がランダムにグループに分かれ、それぞれの視点で互いの地区の魅力や課題について率直に話し合いをしました。そして、その意見を踏まえて、新たな気づきを求めて地域に繰り出しました。
参加者からは「学生さんに言われて、はじめてそういう視点に気づいた」、「いろんな人と地域を語り合うことで、改めて魅力的な場所だと感じた」といった意見も聞こえてきました。
このようなやりとりを繰り返すことで、地域住民の方々が自然と「和歌の浦」の魅力や価値を共有し始めたと感じました。

生活者の思いを大切に……

先行して景観重点地区に指定した和歌山城周辺地区は、どちらかと言うと市が戦略的に顔づくりの一環として取組み、重点地区指定を行いました。
一方、「和歌の浦」では平成23~24年度の2ヵ年をかけて、重点地区指定に取り組んでいます。これは、「和歌の浦」という地が様々な生活者/生活感を抱える地だからです。
一律に規制・誘導をかけるのでなく、生活者の視点でこの地をどういう場所にしたいのかをじっくりと考える必要があると市の職員の方々も感じているのです。
「海岸美をどう守るのか」「生業をどうするか」「観光をどうするか」、景観だけでは対処できない課題が山積しています。
重点地区指定は所詮、制度・枠組みにすぎないかもしれませんが、そこに至るプロセスの中で生活者の思いが浮き彫りになり、共有されていくのではないか…それが「和歌の浦」でワークショップに取り組む目的のひとつであると考えています。

新たな交流やつながりの場への発展を期待

今回のワークショップではもうひとつ目的を持って取り組んでいます。
実は、私たちがこの地域に出向く前から、この地域では様々な地域活動が展開されています。清掃活動はもちろんのこと、地域の伝統的な祭り「和歌祭」を保存するための活動や地域の歴史を学ぶ学習会、最近では景勝地としての立地特性を生かした「空き家バンク」の取組みなど、多種多様な取組みが行われています。
しかし、聞くところによると、これら活動は意外と連携されておらず、個別バラバラに取り組まれているようです。そもそも、こういった活動を「つなぐ場」自体が存在しません。これだけの活動が精力的に行われているのですから、もっと連携して取り組めばきっとより良い地域づくりにつながるのでは…そんな可能性を感じずにはいられません。
「和歌の浦」でのワークショップは夏ごろまで予定しており、現在はちょうど道半ばといったところでしょうか。この先、どういう展開が待っているのか、私たちも期待半分・不安半分といったところです。
ただ、「景観重点地区を指定する」「規制・誘導のためのルールをつくる」といった目的を達成するための手段にとどまらず、新たな交流やつながりのきっかけづくりとなればという期待を持って、鋭意、取り組んでいるところですので皆さんも大いにご期待下さい。

アルパックニュースレター173号・目次

2011年9月1日発行

特集「進化・深化・多様化するワークショップ」

ひと・まち・地域

きんきょう

  • 精華町総合計画策定の取り組み~対話が拓く、次代の時代~
    /京都事務所 廣部出・大阪事務所 高田剛司
  • 三重県で「環境CSR講座」を企画・運営しました/大阪事務所 高田剛司
  • 淀屋橋にお越しの際は、アイ・スポット(大阪市のまちづくり情報発信施設)へ
    /大阪事務所 絹原一寛・坂井信行
  • 明石まちなかにぎわいセミナーを開催しました/大阪事務所 橋本晋輔・岡本壮平
  • 東大阪によい文化ホールを/代表取締役社長 杉原五郎
  • ふるさと回帰行/相談役 三輪泰司(NPO平安京・代表理事)
  • 九州と関西をつなぎます!/(株)よかネット 山﨑裕行

まちかど

  • ほっこりできる町家の空間でバウムはいかが?/大阪事務所 中村孝子