これからの「景観」づくりを考える
都市デザイン
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都市デザインと景観
都市計画の中に都市デザインというテーマがあります。都市をデザインすることは、結果として景観を形成することと同義といえます。これまでの都市デザインを振り返ると、1960年代は著名な建築家により大胆な未来の都市像が多く提案され、1970年代は集落のデザインサーベイと保存修景への関心が高まり、1980年代以降は大規模開発における市街地空間のデザインがテーマとされました(1)。現代は短期的な収益を優先した開発の興隆により、デザインは表層のお化粧に成り下がってしまった感があります。
成熟社会におけるこれからの都市デザイン(=景観づくり)は、既存の市街地や開発圧力が大きくない地域において都市デザインの手法をどう実装していくかが問われてくると考えます。
これからの「景観」を考える視座
景観は私たちを取り巻く環境を主に視覚的な面から捉えたものではありますが、それだけで成立しているものではありません。景観を考えるときは物理的な空間だけでなく、背後にある風土や文化、つまり人と自然との関係や人々の営みそのものにも目を向ける必要があります。
このように、景観が物理的な空間論だけで扱うことができないこと、また既存の市街地や新たな建築を前提としない地域を対象とする必要があるという点に鑑みると、これからの景観を考える上では、建築物の景観誘導や公共空間における景観整備によってつくり出すばかりでなく、心地よく過ごせる環境(=景観)を実現していくために、人々自身がいかに関われるのかという点に視野を広げていくべきといえるでしょう。
全身を使って「見る」世界
目の見えない人が美術を鑑賞する方法があります。見える人が絵画を前にして見えているものや見えていないものを言葉で語り、見えない人はその言葉から脳の中で絵画を想像(創造)するというものです。見えているものは客観的な「情報」、見えていないものは主観が生み出す「意味」です。見えない人は触覚や聴覚など全身を使って周りの世界を「見て」います。見える人とのコミュニケーションを通して「見る」ことにより美術を鑑賞することができるのです(2)。
景観が私たちを取り巻く環境(=世界)そのものであり、見る人の主観的な価値観によって捉え方が変わるものだとすると、こうした点はこれからの景観のあり方を考える上でヒントを与えてくれているようにも思えます。
これからの「景観」づくり
景観において物理的な空間論は「情報」であり、見る人の主観によって感じ取るものは「意味」ということになります。景観にとって「意味」が重要だとすると、見る対象の形を整えるばかりでなく見る人の感性を高めていくことこそが重要なポイントであるといえます。
そして、景観は目的ではなく結果です。「景観からのまちづくり」という言葉がありますが、これからはむしろ「まちづくりからの景観」、さらには全身で「見る」景観を人々の営みからつむぎ出し、また自ずと生まれてくるような社会づくりが重要になってくるのではないでしょうか。
(1) 「特集 日本の都市デザインの現在」. 都市住宅、第302号、1984
(2) 伊藤亜紗.目の見えない人は世界をどう見ているのか』.光文社新書、2015
《Profile》
坂井 信行(さかい のぶゆき)
東京事務所長。
入社以来、景観・都市デザイン分野の業務に数多く携わり、幅広い視点から「景観」を捉える取組を続けている。
リベラルアーツへの関心が強く、博物館学芸員の資格も有する。
主な著書に『地域のチカラ』(共著、自治体研究社)、『都市・まちづくり学入門』(共著、学芸出版社)など。
DATA
