アルパックニュースレター189号

京都・久美浜「田園紳士」
~自分の「良心」に厳しく、まじめに農業に取り組む正統派の男たち~

執筆者;地域産業イノベーショングループ 原田弘之・武藤健司

京都・久美浜「田園紳士」が登場!

 昨年の8月の猛暑日、京都・東本願寺前のマルシェに、ピンク色のポロシャツ、麦わら帽子のちょっとしゃれたいでたちで野菜を販売する男たちがいた。ブースには、桃、ミディトマト、枝豆、玉ねぎ、じゃがいも、こどもピーマンなどが並び、「京都・久美浜『田園紳士』」ののぼりがはためく。京都府の最北西端の日本海を望む京丹後市久美浜から早朝に出発し、この地にやってきたのだ。
 平成25年度から、地域活性化のプラットフォームである久美浜まるごとプロデュース協議会の取組として、農家の有志8人が集まり、どうすればより有利に農産物を販売できるかを検討してきた(その過程はニュースレター185号を参照)。そして、平成26年度から久美浜特産の牡蠣殻を肥料として使うことも含む久美浜版GAP(安心安全を基軸とする生産管理の仕組み)を構築・採用し、農産物を栽培してきた。
 しかし、販路開拓の商談の場でもなかなか思う成果が出なかった。何かが足りない。メンバーは議論を重ねた。

「田舎紳士論」から「田園紳士」へ

 久美浜町誌をめくっていると、「田舎紳士論」という言葉に出会った。明治時代の自由民権運動の頃、徳富蘇峰が唱えた「地方における独立自営民」への期待を込めた思想だ。町誌では、その論に共鳴した久美浜の若者が仲間とともにむらづくりの取組に乗り出したとある。
 久美浜は、江戸時代は北前船の寄港地として栄え、幕府の天領であった。明治に入ると、当初は丹後、丹波など広範囲を含む「久美浜縣」が置かれたが、明治4年には廃藩置県によりそれも廃止された。中心地から辺境の地になり、そうした状況もあって、「田舎紳士論」に共感し、むらづくりに取り組む若者が現れたのだろう。
 こうした明治時代の意志を、もう一度、平成の今に引き継ごうというのが「田園紳士」という古くて、新しい農業スタイルだ。自分たちに足りなかったのは何のために農産物をつくっているのかという思いやそれを伝える言葉だった。「田園紳士の約束」を3つ決めている。(1)自ら「久美浜版GAP憲章」を定め、安心・安全な農産物を子どもたちに届ける。(2)海風に運ばれるミネラルなど、海のある久美浜のロケーションを活かし、品質にこだわった農産物を育てる。(3)誇りを持ち、農業にまじめに取り組み、社会や地域に貢献する。


久美浜在住のアートプロデューサーによるマルシェの演出

野菜を飾り・つくり・食べる「ベジタブルアレンジメント体験」との連携

 昨年の11月、久美浜に10組以上の親子が集まった。「田園紳士」と一般社団法人ベジタブルアレンジメント協会とのコラボによる食育講座だ。お花は家で目立つところに飾って楽しむが、野菜は冷蔵庫など目立たないところにしか置かれない。でも野菜にも花があり、根っこがあり、茎があり、葉がある。美しいものやかわいいもの、味わい深いものもたくさんある。けれど、一般的には必要な部分だけをカットして売られている。もったいない。
 こうした問題意識で、くらしの中で、「野菜」をもっと見える化し、食べるだけではなく、飾りとしても活用したり、野菜の世界の豊かさを子どもに伝えられるようにしたいという、新しい食育の観点から発案されたのが「ベジタブルアレンジメント」の発想だ。こうした考え方に、「田園紳士」も共鳴し、一緒にイベントをやることになった。
 はじめに食べものに関する楽しい講座。野菜に関するクイズや消化器系の模型がついた特殊なエプロンを使って身体の中の食べものの動きの実演。その後、田園紳士の野菜を使ったアレンジメントによる作品づくり。そしてトルティーヤとバターナッツケーキの料理体験、最後にみんなで試食という盛りだくさんな内容。このように「田園紳士」は共感できる相手とイベントなどを通じた連携を図る。


濃厚なトマトジュース。飲むと体の中で血に変わる気がする...

消化器系の模型がついたエプロンで講座。小腸が伸びる。

「売る」んじゃない「届ける」んだ

 現在、久美浜まるごとプロデュース協議会では、農産物の販路開拓のために、東京や大阪、京都などで商談活動やマルシェなどでの販売活動を行っている。その事務局として、平成25年度から、都会からやって来た青年1人が久美浜に住みながら、農家や販路などを日々動き回りながら全体調整を行っている。
 今年は正念場の年だ。上記の活動を軌道に乗せて、事業活動として経済的に自立することが目標だ。条件のよい、安定した販路を探し出す一方で、出荷してもらえる農家をスカウトし、全体の生産量を増やさないとビジネスにはならない。加工品開発も検討を始める。その際、品質の維持や、「田園紳士」という思いも共有する仲間であることも条件だ。大事なことは、農産物の単なる「販売」ではなく、思いも含めて「届ける」という姿勢だ。難しい課題であるが前に進むしかない。
 一年後には、久美浜のたくさんの農家の間で、そして都会のマーケットで、より一層「田園紳士」という言葉が広まっているはずだ。


子どものつくった野菜アレンジメントの作品。キラキラが好き。

野菜アレンジメントは親しみと温かみを感じる。

田園紳士のロゴ。飾り文字の中に 野菜が隠れている。さていくつ?