アルパックニュースレター189号

白井の牧草地で野馬を思ふ

執筆者;都市・地域プランニンググループ 中井翔太


 

 品川駅から成田空港方面へ1時間ほど。北総線に揺られると、沿線に見えてくるのは主に戸建て・共同住宅からなる千葉ニュータウンの街並みです。アルパックでは、現在、千葉ニュータウンの西側を市域の一部とする白井市で総合計画と都市マスタープラン策定のお手伝いをさせて頂いています。市内にある鉄道駅は2つで、どちらもニュータウンの中心部に位置しているため、降車すると住宅地の印象が強いのですが、市内の大半は農耕地や樹林地、その他自然的な土地利用が卓越しています。
 昨年11月の肌寒さが感じられる某日、市内を自転車で散策してきました。市街地の縁辺部の街並みに、違和感を感じました。近年新たに開発された戸建ての住宅地の合間にぽっかりと草原が見えるのです。それは、住宅の建設を待つ造成地の草地とも、手入れを怠った荒地とも違い、天気がよければ寝転がってみたいとさえ思える、どこか柔らかな印象を受ける草地です。実はこの草原、牧草地だったのです。水はけが良い下総台地ならではの風景に新鮮さを感じたのです。特に関西ではあまり目にできません!
 白井市の歴史を紐解くと、この地域はかつて徳川幕府の旗本領で、幕府の軍用馬を捕獲・育成する御用牧であり、年に一度は、野馬捕りが行われていたといいます。この地の有力な農民は牧草地の管理を任され、牧士と呼ばれたそうです。つまり、開発地の合間に見えた草原も、古来より地域の人々の生業と密接な関係にある文化的景観なのです。現在では、虫食い状に住宅地が見られる一帯ですが、かつての大草原に駆ける野馬の情景に思いを馳せずにはいられません。住宅地に変わっていく牧草地の現状を考えると、牧草の生産地としての需要は限られたものとなってきているのでしょうが、何らかの新たな価値を見出して、是非後世にも残していって欲しいものです。
 私は関東・関西間の移動に東海道新幹線を利用しますが、白井の原っぱにまつわるストーリーを知った後は、品川駅から約2時間を過ぎたあたりで携帯電話の地図を開きます。すると表示される地名は「関ヶ原町」。白井で育った軍馬のかつての行軍を想像すると、移動の疲れもちっぽけなものに感じられるのです。


かつて武豊らを輩出した競馬学校:
何かと馬に縁のある地である

白井の集落に見られる長屋門:
かつては、馬屋としても使われたとか