アルパックニュースレター190号

被災地から新たな災害復興に向けた取組を考える
-建築基準法84条による建築制限について

執筆者;取締役副社長 堀口浩司

南海トラフ巨大地震への備え-「今そこにある危機」から考えること

 20年前の1月17日に阪神・淡路大震災が発生し、その翌々日にバイクで尼崎、西宮、神戸と見て回りました。神戸市役所の北側の神戸国際会館で上映していたのは、ハリソン・フォード主演の「今そこにある危機」。映画の内容は地震とは関係なく、CIAを中心としたスパイ映画ですが、半ば倒壊したビルの看板が印象的でした。
 最近では防災コーディネーターという名称の役割があるようです。災害については自衛隊や警察、基礎自治体など多様な公的セクターの公助があり、家族や個人レベルで備える自助、その中間にある膨大な領域を共助という名で近隣や地区、企業単位で補完して行く必要があります。これを全てコーディネートするのは内閣官房長官のような役割かと思うので、防災コーディネーターはどちらかというとコミュニティレベルのまちづくりを防災面から活性化しようという役割を担っているようです。防災士の資格保有者は全国に8万人程度いますから、この人達に都市・まちづくりの技術を講習すると相当な展開が期待されると思う次第です。
 南海トラフ巨大地震への備えについて、先日、高知工科大の大谷先生に案内していただき、高知県下のさまざまな取組をヒアリング及び現地見学させていただきました。
 高知県では津波の遡上高さや到達時間の短さなどから、黒潮町での様々な取組が有名です。一方、県庁所在地の高知市内は広範な範囲が浸水し、長期間浸水が続くと予想されるため、県庁、市役所など多くの中枢管理機能が被害を受けることになります。そのため、国・県や地元の危機感が強く、海岸線や港湾部の防潮堤の強化や避難タワーの建設など、非常に真剣な取組が進んでいることに感心しました。高知県下の各地でも避難タワーの整備が進んでいますが、文化的景観地区では観光(展望台)など日常使いにも役立つような工夫も見られます。


 

阪神・淡路大震災から引き継がれたもの

 建築基準法84条による建築制限区域は阪神・淡路大震災の時には最長2ヶ月、東日本大震災では特別法で8ヶ月間の建築制限が可能となりました。被災の程度の甚だしい地区では、都市計画による復興事業をするため、権利者の自力更新を制限する仕組みです。その期間中に権利者は建築行為が制限され、その間に行政は土地区画整理事業や市街地再開発などの計画をつくって合意形成をする必要があります。しかし、建築制限はする以上、市街地開発事業や都市計画(地区計画等による制限)を必要とするので、建築制限区域では何らかの事業をすることが前提となります。そのため建築制限区域を決める時には既に何らかの計画や方針、時には事業手法まで予め見通しておく必要があります。
 先般、日本都市計画学会関西支部の支部だよりの座談会の聞き手として、垂水英司氏(当時、神戸市建築部長)、と安田丑作先生(当時、神戸大学教授)に阪神・淡路大震災当時の経緯を聞く機会がありました。お二人の先生が当時を振り返って、神戸市役所の職員の動きやさまざまな復興に関する議論について、非常にエキサイティングな話しが紹介されました。詳細は関西支部の支部だより(4月初旬発行予定)を参照いただくとして、特に私から見て興味深い事項について紹介します。
1建築制限区域の地区指定の場所と範囲について
 震災の日(1月17日)から2週間後の1月31日に神戸市は「復興計画の基本方針」を発表し、翌2月1日に6地区233haを「重点復興地域」として建築制限区域を指定しています。この後、制限の切れる3月17日には「強行」と言われつつも都市計画決定を行っています。
 建築制限をかけた段階で、なんらかの市街地開発事業を行う目鼻がついていたか、他の地区と比べて「被害激甚」の程度が説明できるかなど、当時の調査に関わった身として、かねてから疑問に思っていた事柄でした。「昔からの課題地区は被害も大きかった」「基盤や条件が悪い地域に被害が集中した」。結果的に都市再開発方針の2号地区に相当する地区を指定したような結果になっているということでした。
2復興重点地域におけるまちづくり協議会
 発災後、2ヶ月という短期間で都市計画決定を「強行」し、住民の反発もある中でまちづくり協議会が簡単に作れるのか?という質問に対して、以下の3点セットが有効であったということです。
(1)地元に相談所をつくり職員を配置
(2)まちづくり協議会の設置支援
(3)コンサルタントやアドバイザー派遣
 ここで驚嘆すべきは、ヒートアップしている地元に常駐する職員がいたということです。小規模な自治体ならともかく政令市となれば組織も細分化し専門化されます。地元にいけば市の代表として「よろず相談所」「苦情窓口」化するので、担当者はコミュニケーション能力や問題解決能力などを必要とされます。最終的に市街地開発事業を前提とした協議会との対応では、量・質ともに力量があった人材が配置されたということでした。


 

東日本大震災における復興事業に関して

 阪神・淡路大震災における「建築制限区域」に該当する地区は東日本大震災では「復興推進地域」となります。今後、どこかで大規模な災害は起こった場合には、これまでの例にならい、一定期間の建築制限を行い、その後、市街地開発事業などを導入することになります。
 東日本大震災では阪神・淡路大震災に比べて被災地域が広いこと、津波は地震と異なり現位置での建築物の建て替えによって必ずしも安全にならないことから、嵩上げや高所へ移動を伴い、事業が長期化しています。下図は陸前高田市における事業時期を整理したものですが、復興推進地域の指定による建築制限の時期は8ヶ月後、制限区域の範囲は陸前高田市だけで653haとなっています。神戸市での2週間、233haと比べ、時期や規模が大きく異なっています。また、防災集落移転促進事業による進入路工事の着手まで23ヶ月を要しています。近傍に大都市もなく、自治体の専門職員の数や経験も差があるため非常に困難な状況での復興事業であることが判ります。

再び南海トラフ巨大地震への備えについて

 「事前復興計画」という言葉がありますが、地震と津波、あるいは洪水や高潮など災害の種類により、事前に考えるべき復興計画は異なるという意見があります。災害は常に想定外で、事前に考えた通りに被害が起こるとは考えにくいですが、災害にあったらどうなるかは想定できるはずです。今、最も注目される大規模災害は南海トラフ巨大地震ですが、発生したらどう生き延びるか、生き延びた後でどんな地域づくり、まちづくりが可能か?については、人口減少や過疎の市町村では、事前復興ではなくて「今ここにある問題」として考えるべきだと思います。

アルパックニュースレター190号・目次

2015年3月1日発行

ひと・まち・地域

きんきょう

創始者に聞く

うまいもの通信

メディア・ウォッチ

まちかど