アルパックニュースレター192号

地域から少子高齢化への対応を考える その11~「地方消滅」を考える~

執筆者;代表取締役社長 森脇宏

 本稿「地域から少子高齢化への対応を考える」を連載し始めたのが2013年6月号で、翌年の2014年5月、増田寛也氏(元総務大臣)が座長を務める日本創生会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表し、その内容は「地方消滅」(中公新書)として出版され、大きな話題となりました(以下その内容を「地方消滅」と略します)。私が認識している少子化問題は、「地方消滅」で取り上げられている人口減少と問題意識が通底していますので、「地方消滅」の論点を簡単に紹介しながら、その内容について考察してみることにします。

「地方消滅」の人口予測

 「地方消滅」では、「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と警鐘を鳴らして、大きな話題になるとともに、様々な批判がありました。私なりに整理すると、「2005年~2010年の傾向がそのまま続くとして予測していいのか」という批判に集約されると思います。
 我々が携わる地域計画では、「予測=計画」ではありません。このまま推移すれば、どういう問題が生じるかを具体的に把握し、対策を講じるために予測することが多く、予測はあくまでも「このまま推移すれば」という仮定の下での試算でしかありません。したがって、上述の批判は当たらず、もし批判するのなら、「地方消滅」の予測結果を、あたかもそうなるかのごとく煽って報じたマスコミだと思います。
 自治体の人口動態は、自然増減(出生と死亡の差)及び社会増減(転入と転出の差)があわさったものです。一貫して社会減が続いていても自然増でカバーして、緩やかな人口減少が続いている自治体が、自然増減がマイナスに転じるや否や、人口減少が急速に進むという事例は結構あります。そのときになって騒がなくてもいいように、今後の危機を予測しておくことは、とても重要なことだと思います。

「地方消滅」の国家戦略

 それでは、予測された人口減少に対して、どのような対策が考えられているのでしょうか。「地方消滅」では、地方に着目した国家戦略が必要であると記され、東京一極集中対策と少子化対策の両面から論究されていますので、それぞれの内容を簡単に確認しましょう。
 まず、東京一極集中に歯止めをかける国家戦略として、地方からの人口流出を食い止める「ダム機能」を構築し直すと記されています。そして「選択と集中」の考え方から、広域の地域ブロックごとに人口減少を防ぐことを考え、地方中核都市に資源や政策を集中的に投入し、地方がそれぞれ踏ん張る拠点を設けることが、提案されています。
 一方、少子化対策の国家戦略としては、出生率を高めることが重要であるため、出生率低下の大きな原因である経済的基盤に着目し、「若者・結婚子育て年収500万円モデル」が謳われています。そして、非正規雇用などを問題視し、若者世代の雇用安定化のため、非正規雇用のキャリアアップと処遇改善等が記されています。さらに、子育て支援等の諸施策も提案されています。
 以上が「地方消滅」における国家戦略の簡単な論点ですが、これらについて私見を述べてみます。

多様に考えるべき「ダム機能」

 まず、東京一極集中に歯止めをかけるため、地方の「ダム機能」として、広域ブロックや地方中核都市に着目されていますが、ダム機能は、もっと多様に考えるべきだと思います。
 例えば、県庁所在都市の2005年~2010年の人口増減をみると、東京都を除く46市のうち半数の23市が人口減になっています。
 県庁所在都市でも5割しか人口が増加していない実態をみると、地方中核都市だけでダム機能が全国に形成されると考えるのは無理があります。確かに、地方中核都市が周辺都市等を支えている事例もありますので、地方中核都市に期待する場合もあるでしょう。しかし、その期待に応えうる地方中核都市ばかりではない実態もあります。


資料:国勢調査(各年)

 したがって、広域ブロックや地方中核都市のような大規模ダムだけでなく、小規模ダムや遊水池、水源涵養など、多様なダム機能があっていいのではないでしょうか。具体には、地方中核都市のように周辺をリードすることはないが、独自に自律した経済力を持った地域づくりもあり得ると思います。
 事実「地方消滅」の後半で、「地域が活きる6モデル」として2040年までの若年女性人口増加率ベスト20を選定し、それらを6つのモデルに分類していますが、その中で「カギを握る産業開発型」として、地域の特徴ある資源を活かした産業振興を実現し、雇用の拡大や住民の定着を実現しているモデルが示されています。これが多様なダム機能のもう一つのあり様だと思います。


資料:「地方消滅」(2014年、増田寛也編著)より作成

 「地方消滅」では、このようなモデルの例として、秋田県大潟村、福井県鯖江市、北海道ニセコ町、岡山県真庭市が紹介されていますが、これらは地方中核都市ではありません。地方中核都市に依拠するモデルだけでなく、各自治体が経済的自律をめざすモデルも視野に入れるべきだと思います。
 なお、「地方消滅」に対する批判として、「人口減少に抗した取り組みが、全国で数多く取り組まれているのに、その内容を無視している」という論がありますが、こうした指摘も視野に入れると、「地方消滅」の中で紹介されている前述の幾つかの事例に加えて、さらに多くの優れた事例を掘り起こし、全国に広めていくことが実践的な課題だと思います。

結婚できる経済的基盤をつくる国家戦略

 「地方消滅」では、少子化対策として、出生率を高めるため若者の経済的基盤を重視し、「若者・結婚子育て年収500万円モデル」を謳い、非正規雇用などに論究されています。筆者も、少子化対策の分析で同様な認識に至り、最も重要な課題だと考えています。ただ、本稿が「地域から・・・・考える」と地方行政に即して考察していることから、この問題にはこれまで敢えて踏み込んできませんでしたが、「地方消滅」では国家戦略を述べるのですから、この点については、ずばり切り込んで、派遣労働者をはじめとする非正規雇用者を増やしてきた労働政策を転換すべき、と主張してほしかったと思います。

「地方消滅」を乗り越えて

 「地方消滅」の出版以降、「まち・ひと・しごと創生」が急速に政府の重要課題となり、50年後に1億人程度の人口を維持するための「長期ビジョン」と、人口減少克服・地方創生のための5か年計画「総合戦略」が昨年末にまとめられ、各省庁や地方自治体が、これらの施策を先行的に実施しうるような補正予算3,275億円が組まれました。そして、この補正予算の一部を用いて、全自治体が地方版の人口ビジョンと総合戦略を策定するよう、都道府県には一律2千万円、市町村には1千万円の交付金が渡され、我が社も数多くの策定支援業務を受託しています。
 せっかくの検討機会ですので、有意義な成果を出したいと思いますが、全体として、内閣府が求めている策定の取り組みは急ぎすぎの感があり、どこまで深めた提案ができるのか、疑問に思える状況もあります。そもそも人口減少問題は、「地方消滅」が出版される以前からの大きな問題で、地域で頑張る方々を励まし、力をあわせていく取り組みを地道に積み上げていくべきですので、今回の策定支援業務だけにとらわれず、多様な処方箋を工夫し、お手伝いしていきたいと思います。