アルパックニュースレター193号

『参加体験から始める価値創造-綿花栽培に学ぶコトづくりマーケティング-』

著者:松下隆 発行:同友館 紹介者;地域産業イノベーショングループ 高田剛司


本表紙

 従来から続いてきた個人経営の店が集積する商店街では、この20年間で店舗数が激減しました。これは大型店の影響だけでなく、事業主の高齢化に伴う閉店など複雑な要因が絡んでいます。それでも人の往来の多い商店街では、今も新規出店が続いており、中でも目立つのは「飲食店」です。一方、衣料品や生活用品等を販売する「物販店」は新規出店も少なく、商店街に占める割合は低下してきています。こうした中で、その店ならではの商品や、商店主の知識・サービスに特色がある店は、今も多くの顧客の支持を集めています。
 さて、本書は、今後ますます進行する人口減少社会において、製造業が製品開発に取り組む有効な方策として、「参加体験コトづくりマーケティング」を提唱するものです。主な題材は「綿花栽培」であり、製品としては衣料品やタオル等がわかりやすい事例として取り上げられています。また、それ以外にも、自動車や日本酒などあらゆる業種・業態の商品開発や販売においてこの考え方が取り入れられつつあり、今後のマーケティングに大事な視点として紹介されています。
 著者は、大阪府・大阪産業経済リサーチセンターで主任研究員として活躍し、産業や企業に対する実態調査や統計分析等を行うとともに、地域の現場においても産業活性化の支援活動をされています。事例として取り上げられている「綿花栽培」に関しては、著者自身15年前から岸和田での綿花栽培活動をバックアップし、自らも綿花を栽培するようになったそうです。本書では、全国コットンサミット実行委員会の事務局として活動されている豊富な知識と経験を踏まえ、アンケート調査による貴重なデータも交えながら、3つの事例を通じて「参加体験コトづくりマーケティング」の特徴を紹介しています。
 そこには、これまでの製品開発のあり方から脱皮し、作り手と買い手が一緒に製作工程を楽しむことや、それによる「バックグランド・ストーリー」を知ってもらうこと、事業の広告塔として「フラッグシップ・モデル」を作り、買い手に訴求していくことの重要性などが示されています。これは、冒頭に記した「物販店」においても、マーケティングの視点から貴重な示唆を与えるものだと思います。単なる「物を売る」だけであれば、大型店や量販店の商品と差別化ができず、価格競争や立地環境に負けてしまいます。その店ならではのこだわりのある商品を作り出すことや、製造小売業でなくても、生産者や製造事業者への働きかけとコラボレーションにより、独自の商品を生み出すことは可能です。また、商品そのものではなく、商品の良さに気付いてもらえるよう買い物客の参加の過程も組み込むところに売上向上につなげるヒントが隠されているといえるでしょう。
 そういう意味で、「参加体験コトづくりマーケティング」を理解することは、今後、製造・小売、さらにはサービス業において必要なマーケティング方策の一つを獲得することになると言えます。事業者のみならず、産業振興や中小企業支援などに取り組んでいる自治体職員、産業支援関係者にとっても、大いに参考になる考え方ですので、ぜひ、ご一読されることをお薦めします。