レターズアルパック202号

地域に寄り添って地方創生を考える その20
~国土主軸から離れ、自立して人口を増やした東根市~

執筆者;代表取締役社長 森脇宏

国土主軸から離れて発展する東根市(山形県)

 これまでの考察では、地方部で参考になる人口増加自治体の多くが、企業誘致に成功した市町村であることを示しました。今号では、これらの市町村のうち、国土主軸から離れていても企業誘致を図り、しかも近隣に地域中心的な都市がなくても(ベッドタウン的でなくても)発展している自治体の教訓を考察します。該当する市町村は、2010年までの国勢調査結果でみると東根市(山形県)と佐久市(長野県)の2市でしたが、2015年の国勢調査で佐久市が人口減に転じましたので、人口増が続く東根市に絞って考察を進めます。
 なお、2015年の国勢調査は、現時点では人口等基本集計結果が公表されているだけで、就業構造や通勤・通学流動は未公表ですので、本考察における当該分析は、いま暫く2010年の国勢調査に基づいて進めることにします。

1970年以降、一貫して人口増が続く

 東根市の人口は、図1にみるように、1970年まで減少傾向が続いたものの、それを底に一貫して増加傾向が続き、その勢いは近年も変わっていません。したがって、この1970年頃に、その後の人口増加の要因が働き始めたと推察することができます。


  資料:国勢調査(各年)

東根市産業を牽引する農業と製造業

 まず東根市の産業構造を、産業別従業者数の構成比でみると表1のとおりです。これによると製造業と農業の構成比が高く、しかも全国や山形県と比べても大きいことから、製造業と農業が東根市の産業を牽引していると推察されます。
 なお、公務が多いのは自衛隊神町駐屯地の存在が大きく、その意味では特殊要因によって人口増加があった自治体として考察対象から外すことも考えられましたが、農業と製造業の2大産業が大きな役割を果たしていることから、その効果を分析するため考察対象とします。
 また、産業との関わりの強い通勤・通学流動をみると、東根市に常住する15歳以上の就業者・通学者の38%(約95百人)が市外に通勤通学で流出しています。すなわち、東根市の人口増加は、市内への企業誘致だけでなく、隣接する山形市や天童市のベッドタウンとして人口を増やしている側面も若干あります。一方、東根市に従業・通学している方の41%(約113百人)が市外から流入していますので、東根市の企業は、市内常住の就業者だけでなく、市外に常住する就業者に支えられているという側面も幾らかあります(流出・流入ともに国勢調査[2010年])。ただ、東根市への流入者数は、東根市からの流出者数より2割ほど多いので、東根市は産業都市としての性格の方が強くなっています。


  資料:国勢調査(2010年)

果樹王国であるが高齢化が進む農業

 東根市のホームページを開くと、まず「ようこそ果樹王国ひがしねへ」とトップページに表記されており、果樹関係が強そうです。また、第4次東根市総合計画(2011年)の最初には、東根市には日本一を誇るものが二つあり、その一つが、質・量ともに日本一を誇る「さくらんぼ」だと記されています。さくらんぼの王様「佐藤錦」発祥の地でもあり、1994年に「果樹王国ひがしね」を宣言し、さくらんぼのほかにも桃、りんご、ラ・フランスなど、果物の生産が盛んなようです。
 それでは、農業と人口増加の関係はどうでしょうか。年齢別農業就業人口の構成比を山形県全体と比較した図2をみると、東根市の構成比の方が高いのは35歳~49歳、そして65歳~84歳の年齢階層になっています。若年層が少なく35歳~49歳が多いことは、Uターン等による農業後継者が比較的多いことを示しているようですが、幾分か多い程度ですので、人口増を牽引するほどの力はないと思います。ただし65歳~84歳の高齢者層が多いことは、高齢者でも元気で働いておられる方が多く、人口減少を食い止める役割を果たしていると言えるかもしれません。


  資料:農業センサス(2010年)

工業団地の立地企業が中心となる製造業

 農業とともに東根市産業をリードする製造業の特徴をみるため、業種別従業者数の構成比を図3にみると、農業との関わりが想定される食料を除けば、機械系、電気系の業種が大半であることがわかります。これらの多くは、山形県や東根市が整備した市内の4つの工業団地(図4)に立地していますので、表2のように工業団地の概要(立地時期や立地企業等)を整理してみました。そうすると、最も早い団地では1970年から立地が始まっていますので、東根市の人口増加が1970年頃から始まっていることと符丁があっており、企業立地が人口増加に重要な役割を果たたと思われます。


  資料:工業統計(2014年)

  

製造業の立地要因(用地、人材、交通)

 立地企業のうち、1970年に立地し、最も敷地規模が大きい山形スリーエムの社長が、東北電力の「企業立地ナビ」というサイトで、立地理由を語っておられまして、(1)税金の優遇措置や地代の安さ(用地面)、(2)地道な研究ができる粘り強い人材が集まる期待(人材面)、(3)将来的に交通網が整備される期待(交通面)、と3点を挙げておられます。東根市で積極的に進められた工業団地の整備は、上記の(1)用地面に関わる取り組みだったと理解でき、(2)人材面では同じサイトにおいて、社員の9割が山形県出身で、最近は山形から親会社の住友スリーエムの要職に就く社員もいると紹介されているように、期待に応えられているようです。


 資料:東根市HPを参考にまとめる

広域交通インフラの整備の経緯

 それでは、山形スリーエムの社長が語られた(3)交通面はどうでしょうか。主要な広域的な交通インフラである高速道路(東北自動車道、山形自動車道、東北中央自動車道)、山形空港、山形新幹線について、その整備の経緯を辿ってみると次のとおりです。
 まず高速道路については、1973年に東北自動車道・川口IC~仙台南IC間が開通しましたが、仙台市から東根市までは、国道48号利用で約60kmを走行する必要がありました。1991年になると東北自動車道の村田JCTから山形自動車道が山形北ICまで開通し、東根市には国道13号を約15km走行して結ばれることになりました。そして、東根市と首都圏が正真正銘の直結になるのは、2002年に山形自動車道の山形JCTから東北中央自動車道が東根ICまで開通するのを待つ必要がありました。
 一方、山形空港は、1965年に第三種空港(ローカル空港)として開港し、1979年に第二種空港(国内幹線用空港)に指定されたのを機に利用者数が急増し、1991年にはピークを迎えています。その後、東北新幹線の福島駅から分岐する山形新幹線によって、東京駅~山形駅間の直通運転が1992年に開始され、1999年には山形駅から新庄駅まで延伸されるとともに、さくらんぼ東根駅が開業されました。なお、この山形新幹線の開通によって、首都圏方面が競合する山形空港の利用者数は激減しました。
 こうした経緯と、最初に確認した東根市の人口動向を図5のように重ねてみると、国土主軸から離れていても、広域交通インフラは次のように重要な役割を果たしてきたと言えそうです。

高速道路の期待感で進む企業立地

 1970年の工業団地への企業立地の開始に伴って、幾分か人口は増えていますが、本格的な増加は1975年以降になります。しかし1975年頃の広域交通インフラとしては、約60km離れた仙台市に到達している東北自動車道だけです。現在の常識では、高速道路のICまで60kmも離れていれば企業立地は難しいと思われますが、当時は企業立地が進んでいったようです。これを理解するため、山形スリーエムの社長の言葉をもう一度振り返ると、「将来的に交通網が整備される期待」と言われています。すなわち、立地の時点では未整備であっても、いずれ整備される期待があれば、立地は可能と理解できそうです。また、そういう期待が可能な時期であったのかも知れませんが、高速道路に限れば、60kmも離れている状態は1991年まで続いている訳ですので、期待感で企業立地が進み、それに伴って人口が増えたと考えることができそうです。


 

空港や新幹線による人口増

 一方、山形空港や山形新幹線の影響は、どうだったのでしょうか。山形空港が第二種空港に指定されるのが1979年、山形新幹線のさくらんぼ東根駅の開業が1999年でして、その前後の人口を図5で確認すると、当該期間で人口増加の傾向が強まっているように見えます。したがって、空港や新幹線の整備によって東京との行き来が容易になることが、企業立地を促進させ、人口増につながっている可能性も考えられます。

まとめ

 以上の考察をまとめると、国土主軸から離れていて、近隣に地域中心的な都市がなくても(ベッドタウン的でなくても)、企業誘致によって人口を増やしている東根市の成功要因は、次の3点だと考えられます。
 まず第一に、企業を誘致する工業団地という受け皿の整備が必要です。低廉な地価の広い用地を、適切なタイミングで提供できることが重要だと思われます。第二には、物流の基盤となる高速道路整備が期待できることです。立地の時点で整備が完了していなくても、見通しがあることが重要だと思われます。第三には、出張などが容易となる空港や新幹線です。東根市の場合は、当初は空港が役割を果たし、その後、新幹線がその役割を引き継いでいますが、企業立地と人口増加の勢いを継続させるのに、空港や新幹線は重要な役割を果たしていると思われます。
 なお、以上の考察は、統計データ等から読み取って行ったものですので、どこまで本質に肉迫できているか、不安な面もあります。可能性であれば、現地をよくご存じの方にお話をお聞きして、さらに深めたいと思います。



レターズアルパック202号・目次

2017年3月1日発行

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