レターズアルパック204号

地域に寄り添って地方創生を考える~その22
リゾートと第1次産業で発展する恩納村

執筆者;代表取締役社長 森脇宏

 今号では、工場団地や交通インフラの整備による通常の企業誘致ではなく、別のタイプで人口増加を継続し、しかも近隣地域から通勤者を受け入れている地域中心的な地方部の自治体として、沖縄県の恩納村を紹介し、その要因について考察します。

人口増加で流入超過の恩納村

 恩納村は、沖縄本島中央部に位置し、東シナ海の海岸線に沿った細長い村域で、平坦地が少ない地形となっています。海岸部は沖縄海岸国定公園に指定された美しい砂浜と景観を有し、多くの大型リゾートホテルが建ち並ぶ日本屈指のリゾート地で、2000年の九州・沖縄サミットの際には米国やロシアの大統領なども滞在しています。この恩納村の人口推移を図1にみると、1980年以降、増加傾向が続いています。これらの人口増加の契機は、1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会で、その後、リゾートホテルの立地をはじめとするリゾート開発が進み、それに伴って人口も増えています。


  図1

 この間の人口増加は、全体として自然動態と社会動態の増加によるものですが、近年は出生数が横ばいのため、自然減の傾向が出始め、社会増によってカバーしている状況です。一方、社会増の中心は、若年層の単身世帯で、県外からが転入超過となっています。
 さらに、国勢調査(2010年)で通勤通学流動をみると、恩納村に常住する15歳以上の就業者・通学者の39%、約2千人が村外に通勤通学で流出し、恩納村に従業・通学している方の55%、約4千人が町外から流入しています。すなわち、近隣の中心的な都市に依存することなく、流出者の約2倍の流入者を引きつける吸引力を持っており、昼夜間人口比率も120%と極めて高い自立性を示しています。
 なお、これまでは社会増によって人口が増えていましたが、転入者の中心である若年層の単身世帯の未婚率が高いため、合計特殊出産率が沖縄県で最も低く、今後も人口増加を継続していくには、社会増だけでは限界がありそうで、未婚率を下げる工夫が重要だと思われます。

恩納村産業を牽引するリゾート産業と第1次産業

 村外から従業者を吸引している産業をみるため、恩納村の就業者数の産業別構成比(従業地ベース)等を整理すると表1のとおりです。恩納村の特化係数(対沖縄県)※1が高いのは、「宿泊業、飲食サービス業」「漁業」「生活関連サービス業、娯楽業」「農業、林業」の順となっており、恩納村の産業がリゾート産業と第1次産業に牽引されていることが読み取れます。
※1:特化係数(対沖縄県)=恩納村のA産業が全産業に占める比率÷沖縄県のA産業の比率 と定義され、1以上であれ恩納村のA産業は沖縄県では特化していることになります。
 このうち、リゾート産業については、前述のように1975年の沖縄国際海洋博覧会を契機とするリゾートホテルの立地等が、重要な役割を果たしていると思われます。一方、第1次産業の特化係数が高いのは、どうしてでしょうか。結論から言えば、リゾートと上手く連携して、発展していると考えられますので、その辺の経緯を次に述べます。


 

リゾートホテルと連携する漁業

 リゾートホテルと漁業の連携は、当初は敵対から始まったようです。この件に関する研究論文※2によると、リゾートホテルの立地に伴って、無秩序な開発問題、赤土流出問題、生活排水問題、リゾートホテルによる海域の「囲い込み」利用問題が生じ、海域「囲い込み」利用問題では、漁業者による海上デモ(1985年)も敢行されたようです。
 そこで、当時の村長が立会人として両者に話し合いを勧め、行政・リゾートホテル・漁協等の利害関係者による「海面利用調整協議会」が1986年に設置され、リゾートホテル側と漁業側は海面利用に関する協定を策定し、ルールを決めることで和解することになりました。このルールは三つに大別でき、(1)地域振興のルールでは、リゾートホテル側が漁業振興基金を拠出し(迷惑料ではなく)、この基金で技術開発や漁場保全等が行われています。(2)事業連携のルールは、用船ルール(レジャーは漁業者から用船)、労働力優先雇用ルール、事業連携ルール(地産地消等)で構成され、(3)海の「自由」ルールでは、レジャーで海を自由に使用できますが、用船ルールや雇用ルールが同時に適用されるため、伝統的な海面利用ルールは結果として尊重されることになります(図2参照)。


(出典:※2の論文)

※2:「沿岸域の多面的利用管理ルールに関する研究―沖縄県恩納村の取り組みを事例に―」(原田幸子、浪川珠乃、新保輝幸、木下明、婁小波/日本沿岸域学会誌 第22巻第2号 2009.9)

 こうしたルールによって、漁業環境だけでなくリゾート環境の持続可能性も高まり、さらに経済の地域内循環も実現できています。なお、これらのルールはインフォーマルな形で始まりましたが、今日では「恩納村沿岸域圏総合管理協議会」(2005年設置)に、引き継がれているようです。※3

※3:「恩納村沿岸域の利用・保全ルール~豊かな海を次世代に~」(恩納村、2005年)

まとめ

 以上の考察を踏まえると、恩納村の人口増加の要因は、二つ側面から捉えることができます。
 第一の側面としては、1975年に開催された沖縄国際海洋博覧会を契機として、リゾートホテルの立地等が進んだことが大きく、リゾート産業の発展に伴って就業者と人口も増えてきたことです。しかしながら、無秩序なリゾート開発などによって、リゾート環境の持続可能性を損なう事態もみられ始め、これらを放置しておれば今日の恩納村の発展はなかったと思われます。そして、危惧される事態を防ぎ、地域の持続的発展につないでいったのは、漁業者との連携でした。
 第二の側面は、当初は漁業とリゾートホテルの軋轢を解決するために始まった連携です。そうした経緯がありましたが、結果として、それ自体がリゾート環境の保全に効果を発揮するだけでなく、恩納村の経済の地域内循環に貢献しているようです。また、事業連携ルール(地産地消等)の考え方は、農業にも展開可能であり、半農半漁も多いことから、農業も巻き込んだ地域内循環が形成されていると思われます。
 こうしたリゾート地が、地域の第1次産業と結びつくことは重要であり、194号(その13)で触れたニセコ町(北海道)でも、リゾートと連携した農業が元気であることを紹介しました。蛇足ですが、この点では、我が国を代表するリゾート地である軽井沢町(長野県)が、まったく異なる状況を示していることを危惧しています。その就業構造をみると、当然リゾート関係のウエイトは高いものの、農業は全国と比較してもウエイトが低くなっています。一方、軽井沢町の人口は、1995年から2010年まで増加が続いていましたが、2015年の国勢調査ではついに減少へ転じました。その要因は分析できていませんので、仮説でしかありませんが、リゾートと農業との連携が弱いことが影響しているのかも知れません。


レターズアルパック204号・目次

2017年8月発行

特集「涼む」

今、こんな仕事をしています(業務紹介)

地域に寄り添って地方創生を考える

うまいもの通信

きんきょう&イベントのお知らせ

まちかど