レターズアルパック205号

地域に寄り添って地方創生を考える~その23
地方部の人口増加市町村から学ぶこと

執筆者;代表取締役社長 森脇宏

 ここ2年ほど、本連載において人口増加で参考になる地方部の市町村を成功事例として取り上げ、それぞれの要因を考察してきました。本稿では、これらの考察の小活として、人口増加をめざす地方部の市町村が学ぶべき「まちづくりの方向性」を取りまとめたいと思います。なお、本稿で参考とする成功事例については、次の6つの条件、すなわち、(1)1995年から2015年まで人口増加が継続していること、(2)2015年の昼夜間人口比率が95以上であること、(3)地方部の市町村であること(首都圏、中京圏、近畿圏は除く)、(4)地方中核都市は除くこと、(5)自衛隊基地等の特殊要因の影響が大きい市町村は除くこと、(6)この5年ほど社会減が基調となっている市町村は除くこと、を条件に23市町村を選定しています。

成功事例のパターン分類

 成功事例(考察対象の市町村)には大きく二つの特徴があります。まず一つは、高速道路沿いに位置し、基盤整備によって企業誘致に成功した市町村が多いことです。しかも、その多くは国土の主軸沿いに位置しており、これを「国土主軸型」と呼び、国土の主軸から離れて成功しているのは「離隔型」と呼ぶことにし、これはレアケースと言えそうです。 いま一つの特徴は、常住就業者数の多くが流出する市町村、いわゆるベッドタウン的側面を持っている市町村が多いことです。近隣の地域中心的な都市に、夜間人口の増加分をベッドタウン的に依存しつつ、同時に企業誘致等によって昼間人口も増加させ、昼夜間人口比率95以上を確保しています。なお、本稿では国勢調査(2015年)で「常住就業者数の5割以上が流出する市町村」を「依存型」と呼び、そうではない市町村を「自立型」と呼ぶことにします。以上の特徴を踏まえると、考察対象市町村は下表のような幾つかのパターンに分類でき、パターンに応じて学ぶべき「まちづくりの方向性」は異なってきます。


表1.成功事例(考察対象自治体)のパターン分類

高速道路を活かした成功事例

 まず高速道路沿いの市町村は、企業誘致によって成功しています。ただし、全国の高速道路沿いの数多くの市町村が、この方向性を選択したにもかかわらず、限られた市町村だけが成功していることは看過してはならず、産業用地の地価、広さ、ICからのアプローチなど、かなりの工夫が必要であると推察されます。
 こうした高速道路沿いの市町村でも、「国土主軸型」の市町村は企業誘致が比較的容易で、特に「依存型」ですと、夜間人口の増加分だけでなく、誘致企業の従業員の確保も、近隣の中心都市に依存することができているようです。一方、「自立型」であれば夜間人口の増加を依存する拠点都市が近隣にないことから、企業とともに従業者の誘致も図る必要があります。したがって、東広島市(広島県)のような広域プロジェクト(学園都市)や、袋井市(静岡県)・鳥栖市(佐賀県)のような強力な地理的条件を活かした事例が多くありますが、普通の市町村が参考にしやすいのは、大津町(熊本県)のように大企業の先行立地を契機としつつ、その後も企業立地が続いている事例だと思います。大津町では、確かに本田技研工業の立地が大きかった訳ですが、それ以降も工業団地を造成して本田技研工業以外の企業も誘致し、さらに大津町企業連絡協議会を設置して企業間だけでなく企業と住民の交流を図ってきていることにも着目すべきでしょう。
 高速道路沿いでも、「離隔型」になると、いろいろと工夫が必要になってくるようです。例えば「依存型」の川北町(石川県)の場合では、既存産業の集積がある金沢都市圏という立地条件も活かして企業誘致を先行させ、企業立地で強化された財政力を活かして生活環境整備を進めることで、人口増加(転入増)が推進されるというように、戦略的な取り組みが重要だったと思われます。一方、「自立型」だと依存できる拠点都市もないため、高速道路だけでは企業誘致は難しそうです。その中でも東根市(山形県)は、隣接する山形市や天童市と連携しつつ、空港を活かして高速道路や新幹線を揃えることで企業誘致を進めるとともに、近年は子育て支援を強めて若者層を呼び込んでいますが、このパターンの成功事例が少ないことは、それだけ難しいことを示していると思われます。
以上のように取りまとめると、高速道路を活かしたまちづくりとして、これまで適切な企業誘致を図ることは有効であったと言えそうですが、今後も継続して有効と言えるでしょうか。この点については、産業の将来像に関わる知見が必要であり、拙速に述べることはできませんが、少なくともこの5年間の動向を眺めると、まだしばらくは有効ではないかと考えています。
 例えば、この5年間の我が国における産業別の従業者数の推移を国勢調査で把握すると、表2のように製造業は約1%減とほとんど変わっていません。産業のグローバル化や、サービス産業化の進展などが言われているため、製造業の衰退が危惧される今日ですが、従業者数でみる限りは、ほぼ現状維持で推移しています。さらに、本稿において企業誘致で成功したとしている18市町村に限れば、ほとんどの市町村で製造業の従業者数は5年間で増加しています。すなわち、適切な立地と操業を続ければ、我が国の製造業は地域の産業や人口を支えることが可能ではないかと考えるところです。


表2.全国の産業別就業者数の推移 (単位:千人)資料:国勢調査

高速道路に頼らない成功事例

 高速道路に頼らなくとも成功している成功事例は、数は少ないですが存在しています。
 「依存型」の事例としては、南風原(はえばる)町(沖縄県)があります。沖縄県特有の高い出生率に支えられた自然増とともに、隣接する那覇市のベッドタウンとしての社会増がみられますが、同時に昼間人口も着実に増加させています。この発展は、比較的規模の大きな医療機関の集積が大きく貢献していますが、医療機関だけでなく、大規模ショッピングセンターや、協同組合による印刷団地、(人口3万数千人の町ながら)県立高校2校の立地、特徴的な娯楽施設等、多様な事業所の立地も補完していると思われます。すなわち、那覇都市圏の中で独自の都市機能を強める形で実現できていると考えられます。
 高速道路も依存できる拠点都市もない場合は、ニセコ町(北海道)やや恩納村(おんなそん)(沖縄県)のようにリゾート産業を梃子に発展している事例があります。ニセコ町は通年型リゾート地として発展し、リゾート関連産業の集積が、就業人口の増加をもたらし、転入人口を受け入れています。またこのリゾート地としての高い知名度が、地域ブランドを醸成し、このブランドを活かした農産品販売が広がるとともに、リゾート客に提供する食事の材料も相まって、ニセコ町の農業と人口も支えています。恩納村では、沖縄国際海洋博覧会を契機としてリゾートホテルの立地等が進み、リゾート産業の発展に伴って就業者と人口も増えてきました。当初は無秩序なリゾート開発などによって、持続可能性を損なう事態も生じましたが、危惧される事態を防ぐため、リゾートホテルと漁業との連携が始まり、結果としてリゾート環境の保全だけでなく、恩納村の経済の地域内循環に貢献しています。このように両町ともリゾート産業だけでなく、リゾートを活かした地域ブランドを形成し、1次産業とも連携して地域内循環を高め、安定的な発展を確保しています。
 一方、東川町(北海道)は不思議な成功事例です。常住就業者の流出率が40%ですので、本稿では「自立型」としていますが、隣接する旭川市に依存している側面もあり、「依存型」と「自立型」の境界領域に位置し、成功要因も複合的だと思います。すなわち、大雪山等の自然環境を活かしたブランドを形成し、「東川町国際写真フェスティバル」等を契機に育成したフアンの移住を受け入れ、移住者の働く場は、旭川都市圏内の需要に応える事業所の立地で確保する形になっています。なお、東川町の場合、旭川空港が近いことも重要で、これによって東京への出張も容易となり、国際的に活躍する人材も移住可能になり、これが東川町の価値をさらに高めています。なお、筆者が東川町へヒアリングに行ったのは2015年の秋ですが、同時期に東川町に興味を持たれた方もおられて、翌2016年3月に「東川スタイル―人口8000人のまちが共創する未来の価値基準」(産学社)という優れた書籍が出版されています。東川町への評価に共通する面が多いので、参考に読まれることをお勧めします。
 以上、考察した限られた成功事例から言えそうなことを取りまとめてみましたが、ここで述べた方向性だけが今後の選択肢ではないと思います。たまたま、これまで成功した事例が、こういう方向性を持っていたというだけですので、これらを参考としつつも、その本質を読み込み、地域特性に応じて創造的に適用していくことが必要だと思われます。


レターズアルパック205号・目次

2017年9月発行

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