アルパックニュースレター164号

水辺の文化芸術産業拠点 “Kansai Creative Factory”

執筆者;大阪事務所 森脇宏

KCF(Kansai Creative Factory)事業

 KCF(Kansai Creative Factoryの略称)と称するプロジェクトが、大阪港の木津川沿いの名村造船所跡地(アルパックニュースレター159号「水辺のアート発信地“クリエイティブセンター大阪”」で紹介)において、民間が中心となって、関係機関のご支援もいただきながら、始まっています。「アジア人観光客が、日本のポップカルチャーを体験できるメッカ」をつくることを目指し、そのための実験として、この12月にはノンバーバル(台詞なしの)パフォーマンスのトライアウト公演を予定し、会場までの観客輸送の手段の一つとして、河川クルーズの就航も検討しています。本稿では、このKCF事業の概要と、当面の取り組みをご紹介いたします。

KCF事業の基本的な考え方

 海外からの訪日観光客数の国別内訳を日本政府観光局のデータ(2009年)でみると、アジアからの方が7割強を占め、急増する中国をはじめとして、アジア人観光客は益々増えていくと言われています。こうした動向を背景に、次の観点からKCF事業は構想されています。
 まず、アジア人観光客を積極的に関西に誘客するためには、ナイトライフの充実が必要だと各方面から指摘されています。特に、関西で最も外国人宿泊 客が多い大阪においてナイトライフを充実させることが、関西の外国人観光客の誘客につながるため、KCF事業のねらいの一つを、ここに置いています。また、アジア人観光客の国内消費力を取り込んで、新たな産業を育成することも期待されています。特に近年、クール(格好の良い)ジャパンと海外から着目されている日本の文化コンテンツを活用することが重要ですが、アジア人観光客にとってのクールジャパンは、日本の伝統文化ではなく、ポップカルチャーであることに着目しています。ポップカルチャーに関するポテンシャルも高い関西において、わが国における新たなリーディング産業として、ポップカルチャー産業の育成を目指しています。
 さらに、これらの取り組みを通じて、関連産業等への波及効果を高め、関西の活性化にもつなげていきたいと考えています。


近代化産業遺産にも認定されている名村造船所跡地

観客輸送に利用する河川クルーズ 出典:一本松海運ホームページ

KCF事業のイメージ

 以上のように位置づけられるKCF事業ですから、一過性のイベントではなく、いつ行っても観られるように継続して取り組むことが重要です。継続することによって、外国人がよく利用するガイドブックやネットで紹介してもらえ、安定的な集客が可能となります。
 また、アジア人観光客にとって、秋葉原は既にメッカの地位を築いていますので、「第2の秋葉原」では対抗できません。独自のメッカ像の創造と、「日本に行かないと観られない」「日本に行かないと体験できない」という集客コンテンツが必要です。
 こうした要件を考慮して、具体的なポップカルチャーとしては、ライブエンターテインメント、ファッション、ミュージック、映像、メガアート、ポップアートなどがイメージされ、アニメやコスプレなどのいわゆる「オタク」的なものに限っていません。
 いずれにせよ、KCFでは、クリエイターが安価で長期間、自由に表現できる場所を提供し、新鮮でハイレベルなコンテンツを継続的に創造・発信することを目指しています。

KCF事業の実現化にむけて

 KCF事業の実現は、意欲のあるプレイヤー(民間のクリエイター等)が推進協議会を組織し、自らリスクを負担しながら進めていく予定ですが、プレイヤーだけの努力では障害も多いため、初期段階は行政や経済界等からの支援を期待しています。ただし、ビジネス(ポップカルチャー産業)として、徐々に自立化することを目指しています。なお、この推進協議会はまだ準備会段階ですが、アルパックはその事務局を担当しています。
 また、プレイヤーが最初から本格的に参画することが難しい場合は、実験的に参画し、実績を積みながら継続コンテンツに発展していけるように工夫しています。こうすることで、先行する継続コンテンツによる集客が、後続する実験コンテンツの集客を支援することになります。
 当面の取り組みとしては、12月17日(金)~19日(日)に、NPOライブエンターテイメント推進協議会(注)が主催するノンバーバルパフォーマンスが、先行コンテンツとしてトライアウト公演を行います。さらに年度末のトライアウト公演を経て、来年度以降のロングラン化を展望しています。
 “ポップカルチャーのメッカ・関西”を目指し、新たな文化芸術産業の育成と発信の拠点を形成していくため、一つずつ実績を積み上げていきたいと思います。

【注】NPOライブエンターテイメント推進協議会
ニュースレター160号で紹介した「国内初の日本版チケッツ(当日券販売センター)」も運営していまして、私も理事として参加しています。ちなみに、この当日券販売については、大阪ミナミ(道頓堀)での実証実験を経て、窓口業務を(財)大阪観光コンベンション協会に委託して継続しつつ、次の新たな展開を検討中です。


12月公演のノンバーバルパフォーマンス
出典:NPOライブエンターテインメント推進協議会

名村造船所跡地に設置されたメガアート、ラバーダック
出典:Het architecture
<http://www.hetgallery.com/>