アルパックニュースレター170号

「コミュニティ再生のための地域自治のしくみと実践」

編著者:中川幾郎 発行:学芸出版社 紹介者;大阪事務所/田口智弘

本書の「はじめに」で、編著者である中川先生は、地域コミュニティの都市部における文化的な内部崩壊、郡部における人口減少による物理的崩壊の兆しをあげています。中川先生にはのっけから失礼ですが、「事態は更に深刻」と感じました。郡部においても都市部と同様、文化やシステムに起因する内部崩壊が起きていると、農山村に育ち、帰省や仕事で都市と農山村を行き来する私は感じているのです。
本書は、「地域自治システムを形成する動きについて、広く一般にもわかりやすくまとめて紹介することを目的とする初めての書籍である」と、「はじめに」で紹介されているとおり、「コミュニティ政策と地方自治の概観」、「地域自治の実践事例」、「今後の課題と展望」の3部から構成される、実証的で読みやすい書籍となっています。


1.地域作りのこれまで、これから

第1部は「地域自治の概観」ともいえるページで、コミュニティについて“おさらい”したい読者には、ありがたい教科書となっています。今後、コミュニティ政策に携わる実務者や研究者だけでなく、実際に地域自治を担う方たちの傍らで活躍するはずです。これからの地域自治を担う世代、それは団塊の世代が中心になるだろうと言われています。彼らの多くは郡部、都市部のかつての密度の高いコミュニティ―郡部では「となりのトトロ」、都市部では「三丁目の夕日」の背景に見え隠れするコミュニティのイメージ?―を体験しており、彼らが地域自治に携わるとき、本書が良き道しるべとなります。一つの心配事は、特定の世代が地域自治を仕切ること、なので若い世代にはテーマ型のコミュニティで地域自治に参画していただきましょう。

2.地域自治の実践に学ぶ

本書の大きな特徴である事例編では、各地での実践経験と深い観察力・分析力を持った諸氏の執筆からなっており、現在、地域自治の現場で活躍中の研究者や実務者にとって、のどから手が出るほど欲しい情報がてんこ盛りになっています。私も重宝しています(笑)。阪神・淡路大震災とコミュニティの関わりから始まり、宝塚市、朝来市、伊賀市、名張市、京都市、豊中市等の紹介は、成功例ばかりでなく、問題点や課題を浮き彫りにした報告の集大成になっており、肯くことしきりです。また、事例の選定は、大都市、大都市近郊都市、地方都市、中山間自治体と典型的な都市のタイプをカバーしており、地域や制度の差異による地域自治の姿のありようは多くの実務者の気づきを促すはずです。

3.今後の課題と展望

私は総合計画の策定支援に携わることが多いのですが、近年の傾向として、分野別計画と地域別計画の両頭立ての構成を目にするようになりました。総合計画が自治体で策定され始めた頃、地域別計画は均等な地域の発展を目指すインフラ整備のための計画として位置づけられていました。しかし、インフラが整備から管理の段階に移行しつつある今日、総合計画から地域別計画は姿を消していたのです。近年の地域別計画の中身は、地域の課題を解決するための地域の計画、つまり地域がめざす将来像と実現の方策が示されています。
本書の締めくくりとして、地域自治を推進するための10箇条が記してあり、その2番目に、地域自治を総合計画に位置づけるとあります。総合計画が行政計画から住民協働の計画になる、地方自治が大きな転機期を迎えていることを実感します。