アルパックニュースレター193号

記憶を受け継いでいくモニュメントの話

執筆者;都市・地域プランニンググループ 石川聡史


 

 以前、ある施設が廃止になった後の跡地利用を検討する業務の中で、かつてのシンボル的な建物を残すかどうかが一つの論点になりました。「思い出の詰まった市民の貴重な財産であり、機能はなくなっても歴史的建造物として残すべきだ。」「それほど価値があるとは思えないし、壊して新しい施設をつくるべきだ。」それぞれもっともな意見であり、どちらが正しいかは簡単に判断できるものではありません。どうしたらみんなが納得できるのか悩む中で、あるモニュメントのことが頭に浮かびました。
 大阪市北区の扇町公園には、かつて競泳用の50mプールなどが整備された水泳競技場「大阪プール」がありました。この大阪プールは、水泳の試合や一般客への解放だけでなく、夜間照明や約2万5千人を収容可能な観客席を備えていたため、様々な集客イベントにも使用され多くの市民に親しまれてきました。しかし、老朽化に伴い移設することになり、1997年に取り壊されました。その際、プールの記憶を引き継ぐモニュメントとしてスタート台が公園内に残されました。
 昭和から平成初めの時代に、大阪の中学校や高校の水泳部に在籍した方で、このプールを利用した方は多いのではないでしょうか。私もその一人ですが、このように当時の面影が残されていることは、とてもうれしく思います。コース台なんてどこも同じではないか、と思われるかもしれませんが、素材や色などが独特で、よく見ると当時の記憶がよみがえってきます。モニュメントになってから20年近くが経過しているため、頑丈なコンクリート製と言えどもさすがに傷みが見られますが、子どもの遊びやベンチとしても使われているようです。
 今後、高度成長期に造られたたくさんの施設が老朽化や施設のニーズの低下などに伴い廃止、あるいはつくり替えられる例は増えていくと予想されます。そんなときにこのような当時を偲ぶシンボルとして施設の一部を切り取ったものを残すことは、その記憶を将来に受け継いでいく意味で多くの人に理解してもらえる一つのアイデアなのではないかと思います。