アルパックニュースレター168号

精華町立ほうその保育所が完成しました

執筆者;京都事務所/三浦健史・廣部出

 平成10年に「精華町保育所づくりの構想」の策定をお手伝いしたのを皮切りに、児童育成計画や次世代育成支援地域行動計画の策定など、かれこれ10年以上に渡って、アルパックは精華町の子どもと子育てに深く関わってきました。その道程の、ちょっと大きめのマイルストーンとして、このたび「精華町立ほうその保育所」が完成しました。


精華町立ほうその保育所

設計に至るまでの経緯

 今回完成した「ほうその保育所」は、「旧ほうその保育所」と「旧ほうその第2保育所」という、精華町では最も古くに建てられた2つの直営保育所が統合したものです。
 そもそも町内には、町立保育所が6施設あり、うち直営が4施設、民間委託が2施設ありました。直営4施設のうち、「旧ほうその保育所」は昭和46年、「旧ほうその第2保育所」は昭和51年に開所の施設であり、いずれも開所後相当年数が経過していることから施設や設備の老朽化が著しく、また、増築や改修を重ねていることから日常の保育や施設等の維持管理に多くの問題を抱えていました。
 「旧ほうその保育所」の入所率は町内でいちばん高い一方、「旧ほうその第2保育所」では45人の定員に対して入所率が30%を下回るなど、集団保育を適正な規模で実施できる体制を確保することが喫緊の課題となっていました。
 こうした中で、町では「旧ほうその保育所」「旧ほうその第2保育所」の統合を目指し、平成18年度からは保育所検討委員会を設置して、町保育所再編の方針と併せた検討を進めてこられました。
 その成果を踏まえて敷地要件や規模が検討され、2つの保育所の概ね中間に位置する敷地が選定されました。近鉄新祝園駅から徒歩約8分と近く、送迎にも便利な場所です。

想いをかたちに

 設計の前段では、町内保育所の保育士や調理士の皆さんと2回のグループワークを行いました。公設保育所の計画は、行政ご担当課との協議中心で検討を進めることが多いと思いますが、精華町では、保育所検討委員会がありますので“現場の声”が優先です。保育所づくりに向けて、たくさんのアイデアを頂きました。民間保育所と違って、保育士さんも調理士さんも、町内の直営保育所間での“異動”がありますから、皆さん、それぞれの保育所のいいところも悪いところも熟知されています。新しい保育所の端々に、このときのリアリティある意見交換がたくさん反映されています。
 もちろん、我々も町内の保育所を見学しました。保育を支える周辺機能が充実している点が、都市部の保育所と異なるようです。敷地に余裕があることが大きいわけですが、そうはいっても、厨房廻りの充実などは目を見張るものがありました。今回は、先行事例を踏まえてさらに発展させ、汚染・非汚染ゾーンの区分や給食の受け渡し、搬入動線などを工夫し、衛生管理上の理想型に近いかたちで整備することができました。


伸びやかな屋根と深い軒が形づくる外観

近鉄電車を眺める横長窓

赤茶の外壁と伸びやかな屋根に

 配置計画は歩車分離を基本とし、道路と敷地の間にある水路には、歩行者用と自動車用の2つの橋を架けました。道路側に駐車場を設けて園舎で児童のセキュリティゾーンを区切り、その北側を園庭としています。区切ってはいますが、玄関ホールの南北面をガラスにしていますので、視線は通ります。外壁色は、素敵にシックな赤茶色に決まりました。町の子どもと子育てを応援する中心的な施設だから、ほかの保育所とは違う色に、ということです。近鉄電車からよく見えますが、夕日に照らされると赤色が増してきれいです。屋根形状は東側の山並みに合わせ、大きな円弧の緩く伸びやかなR屋根としました。個性ある外観はきっと子どもたちの記憶にも残るはずです。コンクリートでR屋根を施工するのは大変でした。施工者の方々に頑張って頂いたおかげで美しい屋根ができました。玄関左の幼児棟とは分離して、乳児には独立した静かな環境を玄関すぐ右手に。昼寝用布団の持ち帰りのしやすさなど、保護者負担の軽減も考えての配置です。

子ども目線、利用者目線で

 まず、設計上のテーマとしたのは、子ども目線の空間シークエンスです。子ども目線を意識すると、窓の高さや位置に工夫したくなります。その結果、「厨房は、衛生面から空間的に独立させるけれども、調理の様子は子どもたちに見てもらいたい」という相矛盾するリクエストに応えて、階段の踊り場から調理風景を覗けるようにしました。(写真)ついでに、同じ踊り場の西面には、おとなの腿の高さに横長窓を。田んぼの向こうを走る電車も眺められる、楽しい踊り場になりました。エントランス上部の廊下では、窓の高さを考慮して下枠をベンチとし、読み聞かせやちょっとした談話のスペースなどとなるよう考えています。
 その他、夏の日射を考慮し西側の窓を少なくしたり、日射角度を考慮した庇を設けています。庇は雨掛りを減らすので建物の長寿命化にもつながりますが、送迎時のベビーカー置き場、庇下の多目的利用など機能上の利点が多く、できる限り設けるべきだと思います。
 いよいよ8月から本格運用が始まります。この建物が子どもたちの声で満たされるのが楽しみでなりません。

……to be continued.

 実は、新しい「ほうその保育所」は、保育所が建って終わりではありません。同じ敷地内に、地域子育て支援センターの機能も担う「(仮称)子どもセンター」を整備する予定になっています。保育所と「(仮称)子どもセンター」との連携のもとにこそ、精華町の子ども・子育てを応援する中核的な役割が期待されているわけです。保育士さんなど職員の皆さんの間の情報・交流に係る機能、子ども・子育ての支援・交流に係る機能などの配置が想定されています。保育所という施設では実現が難しい空間づくりや、実験的な試みができる施設となるハズですので、大いに期待しています。


調理風景を覗ける窓

視線と風が抜ける玄関ホール

コルク床の0歳保育室

ベンチになる窓枠