アルパックニュースレター168号

「消費税は0%にできる」

著者:菊池 英博 発行:ダイアモンド社 紹介者;大阪事務所/森脇宏

主題は緊縮財政から積極財政への転換

 刺激的なタイトルですが、主張されていることは「現在の緊縮財政から積極財政に転換して景気をよくすれば、税収が上がり、消費税に頼らなくてもよくなる」という内容です。東日本大震災を契機とする復興税(消費税)が議論されている今日、国の財政のあり方を根本的に問い直す好著だと思います。
 著者の菊池英博氏は、豪州東京銀行取締役頭取などを歴任後、文京女子大学教授を務められた経済学者です。
 今年3月23日の参議院予算委員会・公聴会で、東日本大震災対応について、藤井聡先生(京大大学院教授)とともに出席され、藤井先生と波長のあった公述をされていたことで注目し、具体論を学ぶため本書を読み、共感しました。
 菊池氏の主要な論点を、次の3点にまとめてみました。第1に、今日のデフレ下では積極財政を採るべきであり、緊縮財政を採ると不況に陥ることは歴史が証明している。第2に、日本は財政危機ではなく、世界一の債権国であるため、積極財政を取る余力は十分ある。第3に、この十数年間、他の先進国と違って日本の経済はまったく成長できておらず、財政の過ちの何よりの証拠である。以下、これらの論点について、もう少し紹介してみます。

歴史が示すデフレ脱却策は積極財政

 1929年アメリカの大恐慌は、ニューヨークの株式市場の大暴落に始まり、その後の税収激減に際して、当時のフーバー大統領が歳出削減と増税による緊縮財政を取り、大恐慌に陥りました。そして次の大統領に就任したルーズベルトが、ニューディール政策で積極財政を展開し、デフレから脱出できました。
 日本でも、昭和恐慌時に大蔵大臣に就任した高橋是清は、公共投資中心の財政支出を大幅に増加させ、経済成長を実現して、昭和恐慌を終焉させました。
 近年の日本も、橋本政権以降(小渕時代を除いて)緊縮財政が続き、今日の平成不況が続いています。

特別会計を改善すれば投資余力はある

 緊縮財政の理由として挙げられる財政危機は虚像のようです。日本の財政を一般会計と特別会計でみると、2007年度の一般会計の歳出総額は81.8兆円で、このうち約6割の47.9兆円が特別会計に繰り入れられ、歳出超過分の25.4兆円が国債発行されています。一方、特別会計は歳入超過で、33.6兆円の繰越金が出ています。すなわち、繰越金の出る特別会計に、一般会計から繰り入れる必要はなく、逆に繰越金を一般会計に繰り入れれば、国債発行は不要で、さらに数兆円の投資余力も産み出されます。

経済成長ゼロという異常な日本

 こうした不合理な緊縮財政の結果、日本経済は十数年にわたって成長が止まり、名目GDPは、橋本財政改革が始まった1997年を100とすると、2008年の日本も100とまったく成長できず、同様の比較でアメリカは173、ユーロは152と、日本の低迷ぶりが如実に示されます。さらに、一人当たりの名目GDPでも、1994年の日本は世界で1位でしたが、2007年末には19位まで落ちてしまっています。
 以上が菊池氏の論点の大胆な要約です。仮に財政政策を巡る評価が少々分かれても、最後の経済成長に関する厳しい現実は直視すべきでしょう。

大震災を契機に積極財政への転換を

 マスメディアでは、依然として震災復興のための増税という論調が跋扈していますが、被災地の生活再建や産業再建を考えると、景気回復なしの復興はあり得ないし、増税(消費税)と景気回復が両立しないことは、この間の日本が体験してきた事実です。
 震災復興を支える景気回復を実現していく観点から議論が深められ、積極財政に転換されていくことを強く願います。


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