アルパックニュースレター176号
東条川疏水ネットワーク博物館・聞き書きプロジェクト始動
~地域の人生をほりおこす~
聞き書きプロジェクトの始動
平成23年度に兵庫県北播磨県民局を実施主体として、基本コンセプトを「地域の手で次世代ために水の恵みを活かす」とする「東条川疏水ネットワーク博物館構想」が策定されました。
策定にあたっては、小野市と加東市の地域の方など約60名(事務局含む)が参加した「地域座談会」と内田一徳先生(神戸大学農学部教授)を会長とした「東条川ネットワーク博物館研究会」を開催し、地域のみなさんや専門家の方と共に考えました。
「地域座談会」では「東条川疏水や地域の話や魅力を掘り起こしたい」、「水のゆくえをおもしろく伝えたい」など、たくさんの意見が出されました。その構想を具体化する取り組みのひとつとして、平成24年度から地域の人生をほりおこす「聞き書きプロジェクト」がスタートしています。
かつては水争いが絶えない地域だった
東条川疏水は加東市、小野市、三木市に農業用水を供給し、一部は水道用水としても利用され、全国疏水百選にも選定されている疏水です。
東播磨地域は日本でも特に雨の少ない地域で、かつて、この地域に暮らす人々は水を得るための工夫や努力を積み重ねてきました。昭和3年の大干ばつを契機に昭和池築造が始まり、戦後初めての国営事業として鴨川ダムが昭和24年に着工しました。
他にも、建設当時の土木技術では不可能とされていた「船木池」のアースダム、当時の土木技術の粋が集結された「安政池」、大きな谷を渡る1,087mもの曽根サイフォンや、水を公平に分配する六ヶ井円筒分水など、高度な土木技術が集結しています。そして、今日では酒米の「山田錦」を産するなど、優良農業地域へと大きく変貌しました。
![]() 大きな谷を渡る1,087mもの曽根サイフォン |
![]() 建設当時の土木技術では不可能とされていた 「船木池」のアースダム |
地域の人生をほりおこす「聞き書き」
「聞き書き」とは、語り手と聞き手が対話を重ねながら、語り手のこれまでの人生の中での出来事(仕事や生活、地域の風習等)や感じたことなどを聞きだし、「話し言葉」のまま文章化していく取り組みです。先進事例では、今年度で11回目となる「森の聞き書き甲子園」があり、年間50~100名の高校生が森や海・川の名手・名人を訪ね、知恵や技術、人生そのものを「聞き書き」している活動があります。
本地域では、地域の大学生を中心とした若者と地域の方々との世代間交流により、鴨川ダム等の築造時のこと、水と苦労しながら共に生きてきた日々など、地域の人生を次世代につなぐ取り組みとして「聞き書き」を実施することとなりました。
![]() 水を公平に分配する六ヶ井円筒分水 |
![]() 聞き書き研修の様子: 写真を見せてもらいながら、東条湖の歴史を聞く |
聞き書きプロジェクト キックオフ研修会
聞き手は兵庫教育大学の学生を中心に有志が集まりました。研修は1日にわたって行い、午前中は「聞き書き」についての講義を、午後からは地域の方にもご参加いただき、「聞き書き」を実際に体験します。
午前の講義では、南埜猛先生(兵庫教育大学准教授)から聞き書きと学校教育のつながりについて、小野市立好古館の西田副館長からは地域に入っていくための心構えについてこれまでの実践経験を踏まえながら講義をしていただき、事務局から「聞き書き」の基本的な手法について説明を行いました。
午後からはいよいよ研修本番。学生たちは聞き書き計画を作成し、地域の方々にお話しを聞きました。学生たちも、語り手も初めての体験とあり、やや緊張気味ではありましたが、30分もすると学生も自然に次の質問が出てきたり、会話がどんどん進み、時間はあっという間に過ぎていきました。
![]() 聞き書き研修の様子: 聞いた話を悩みながらまとめる学生 |
![]() 聞き書き研修の様子:聞いて感じたことを発表 |
引き継がれる地域の歴史、想い
学生からは「初めて知る話ばかりだった」「地域を愛する語り手の思いを感じた」「自分ももっと勉強したい」など、短時間ですが、着実に、地域の歴史や地域の方の想いを感じたようです。
今後、研修を受けた大学生を中心に地域の高校生も加え、実際に地域の方(90歳以上の方も!)を訪問し、「聞き書き」を実施していきます。
最後に、研修後に学生が書き起こした「聞き書き」からほんの一部ですが、ご紹介します。
(語り手:東条湖で40年、観光業で働かれている方)
私が一番良いと思うのは人間が働いているのが見えないこと。他の観光地、どこ行っても田んぼで草かっとるし、ここはもともと山のてっぺんだけですから工場も見えへんし、遊びに来たもんだけが寄ってる。そんなとこ観光地で他、少ないから良いと思うんです。
(語り手:長年、東条川疏水のフィールドワークを実践されてきた小学校の先生)
人間の作ったものは知恵の塊やねん!それがないと色々困るやろ?そないしてみたら知恵の結晶っていうのは子どもも感動するねん。そういうものの見方を教えるのがフィールドワークやねんな。人間っていうものは工夫するもんやねん。そういう生き方のヒントも教えられるねん。
アルパックニュースレター176号・目次
ひと・まち・地域
きんきょう
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- 商店街に行こう!~生駒駅前商店街から~/大阪事務所 依藤光代
- 京の祭事・催事/名誉会長 三輪泰司(NPO平安京・代表理事)
- アイ・スポットNEWS/大阪事務所 絹原一寛













