アルパックニュースレター186号

アルパックセミナー 都市における『農地を活かしたまちづくり』~都市と緑・農の共生に向けて~を開催しました(その2)

執筆者;都市・地域プランニンググループ 岡本壮平・絹原一寛

 前号に引き続き、4月に開催したアルパックセミナーの後半、パネルディスカッション・意見交換の内容をご紹介します。
<パネラー>
神尾 直治氏(明石市都市整備部都市計画課係長)
長田 佳津彦氏(高石市政策推進部経済課農水振興室参事兼室長)
岡本 壮平(アルパック都市・農村プランニングチーム長)
< コーディネーター>
柴田 祐氏(熊本県立大学環境共生学部居住環境学科准教授)
※以下、敬称略

都市計画における農地のゾーニングの検討について

柴田: 根本的には「より良い都市の中における土地利用のあり方の一つとして農地をどう考えるべきか」という議論で、空き地の問題も同じ根を持つもの。その上で、明石市、高石市どちらも農地の多面的機能に期待があり、農地の存続を前提とした都市のあり方を模索している。
明石市は生産緑地地区の指定を進めているが、都市計画の中でゾーニングとして位置付けていく上で特に苦慮した点、配慮した点について、地元の反応も含めうかがいたい。

神尾:農家への説明会の中で、「土地区画整理事業区域内でも生産緑地地区を指定してほしい」という意見を頂いた。人口減少下でコンパクトな都市を実現したい思いがあり、土地区画整理事業は宅地化を目的とした事業なので、生産緑地地区は指定しない考えである。加えて、農地の面積や接道などの要件を付加し、計画的な誘導を図りたい。

都市農地に取り組む専門部署設置のきっかけについて

柴田:高石市が専門部署をつくられて都市農地に積極的に取り組んでいくこととなったきっかけは。

長田:高石市は農地面積が市域の2.64%しかなく、かつ20年間で半減した。毎年農地が減っている一方で人口も減少しており、農地は確保していかねばならないという思いがあった。副市長の強いリーダーシップもあって農水振興室が創設された。

都市農地の多面的機能は本当に期待できるのか

柴田:両市とも農地の多面的機能への期待が大きいが、実際に各現場で、期待に応えられるものなのか。

神尾:明石市では農地は市街化区域内にもたくさん残っており、あるのが当たり前。のどかな田園風景の中に適度に住宅等が配置されている景色が明石らしい景観として認識されている。

長田:大学の先生によると「雨水貯留には河川の流域面積の30%以上の農地が必要」ということで、都市農地の雨水貯留に関しては緩和機能しかないようである。
防災協力農地の事例を調べると、指定看板の設置により、住民が農地に対して「何かあったら私はここに逃げられるんだ」という意識が生まれ、農業への理解も進み、「営農がしやすくなった」という話も聞いた。
市民農園においても、コミュニティ広場等を設けて、コミュニケーションが生まれて市民が健康で楽しく過ごせていけるような取り組みを進めていきたい。

都市農地の存在の価値、必要性をどう説明していくのか

柴田:都市農地として保全していくためには、多面的機能の効果や、農地であることの必要性を主張していかなければならないが、この点についてコメントを。

岡本:多面的機能が市街地の住環境として効用があることを説明しないといけない。それが良いものだと思われたら農地の存在価値を認めて応援してもらえる。そのヒントは高石市の事例などで分かりやすく表現され、モデル事業として効果的だった。
その上で、防災協力農地や学校農園、福祉農園をいかに地域の中で実現させていくかが重要。多面的機能を発揮するには多面的なプレイヤーを大事にしないといけない。

柴田:農地法も「所有から利用へ」と改正された中で、都市計画側から農地は都市住民も含めて広く使っていきたいということを上手く制度論的に展開していければ、可能性が広がってくる。

都市農地に関わる税制の問題をどう考えるか

質問:講演の中で税制の話題があったが、納税猶予制度が適用されるのかされないのかということが、農地の利用を妨げる最大のネックになっていると思われる。その点はいかがか。
柴田:おっしゃる通り。税制の話はまた別の機会に議論していきたい。納税猶予と生産緑地に伴う固定資産税減免を混同しがちで、理解を難しくしている場合がある。

市民農園にどこまで期待できるのか

質問:市街化区域内の市民農園は増え続けていたが、ここ最近は減り始めている。そのような状況下で市民農園を新たに開設するのは大変だと思うが、いかがか。

長田:実証調査の中で農家を一軒一軒訪問し、多面的機能の説明をした上で、営農意向や市民農園への貸し出し意向、防災協力農地の意向をうかがったところ、ある程度は農地の大切さをご理解頂き、高齢の方でも「自分でできなくなった時には市民農園に貸す」と仰る方もおられた。

営農支援やブランド化などのソフト戦略とどう連動させていくのか

質問:都市農地は生産性も悪い。消費地に近いということでのブランド化、ソフト戦略をあわせていくべきだがいかがか。

柴田:関連して、都市計画部局と農政部局との連携が、営農支援を含め取り組んでいく上で非常に重要であるが、市街化区域内農地、生産緑地に対する都市計画と農政との連携はどのようにできるか。

神尾:農政部局としては市街化区域内農地に対する行政支援はなかなか難しい状況で、都市農地基本法等といった舞台が整えば参加できるかと思われる。一方、生産緑地指定とあわせてJAと営農支援などでの連携を前向きに検討していきたい。

長田:市内の農地はほとんどが水稲で、それを切り開いてまでブランド化に取り組もうということは現実には難しい。

柴田:営農支援を含めた都市部局と農政部局との連携、そこへの都市住民の関わり方がポイントになってくるが、一方、市民農園で都市農地を全てカバーできない現実があり、具体的にまちづくり、地域づくりの問題として考えていく必要があると、今日の話を通じて感じた。

都市農地の今後に向けて

 時間の制約もあり、また都市農地にまつわる問題が錯綜しており、十分な議論は難しかったのですが、当日アンケートでも「続編を希望する」というご意見を頂いており、継続して考えていくべきテーマだと認識できました。都市農業・都市農地にかかる基本法案の議員立法が検討されているという報道※もあり、また、府下でも昨年度に続き、第二京阪道路沿道や八尾市などで、国実証調査に選定され検討がスタートするなど、都市農地をめぐる議論がさらに加速していく予感があります。
 我々は計画論・制度論のアプローチからスタートしたわけですが、実際に都市農地でどのような活動・ソフトが展開できるか、両面をにらみながら、ざっくばらんに意見交換できる場を設け、そこから情報発信していくことを検討していきます。引き続き関心を寄せて頂ければ幸いです。
※全国農業新聞:平成26年1月25日記事、毎日フォーラム:平成26年5月9日記事など


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