アルパックニュースレター166号
造船所跡地で花開くポップカルチャー
大阪港の木津川筋は、大阪の工業を支えてきた地域ですが、その中心であった造船所は高度経済成長期に相次いで撤退してしまい、ほとんど残っていません。その造船所跡地で、一見、無関係そうなポップカルチャーとして、ノンバーバルパフォーマンス(非言語の舞台劇)が花開こうとしています。会場の名村造船所跡地は、近代化産業遺産(経済産業省の指定)でもあり、しかも、その演目は、工場とは切っても切れない「ギア(歯車)」となっています。
この「ギア」の概要や、今後の見通しなどについて、簡単にご紹介いたします。

ギア(出典:NPO法人ライブエンターテイメント推進協議会)
ギアの概要
ギアのキャストは、関西在住のブレイクダンス、パントマイム、バトントワラーの世界チャンピオンが揃い、関西の人材を大いに活用しています。主催は、私も理事を務めていますNPO法人ライブエンターテイメント推進協議会です。ストーリーは複雑ではなく、ロボットたちが働く工場に台風が近づき、不思議な出来事が起きていきます。
現在ギアは、4回目のトライアウト公演を行っています(2月10日~3月22日)。トライアウト公演とは、グランドオープンに先駆けて行う制作過程上の試験的な公演のことで、料金も若干安くなっています(今回は約1時間で3500円[当日券])。ギアの場合は、前述のようなストーリーが大まかに決まっているだけで、あとは公演後、観客の声(アンケート)を踏まえ、改良を重ねることで完成度を高めてきています。
第1回のトライアウト公演は2010年1月に大阪のミナミ、第2回は2010年12月に名村造船所跡地、第3回は2011年1月にハウステンボス(長崎県)で行い、今回の第4回トライアウト公演を迎えています。ちなみに、第3回は、ハウステンボスからの要請に応えた遠征公演でした。こうしたトライアウト公演を重ねるたびに、格段にステップアップしてきています。
名村造船所跡地での新産業育成
前述のように、大阪港の木津川筋は、大阪の工業を支えてきた地域であり、特に造船ブームに沸いた大正時代の最盛期には32社の造船所が群立したと言われています。また、大正末期には、川尻に木津川飛行場が開港され、いわば大阪産業の最先端地域でもありました。その後、高度経済成長期に、船舶の大型化が進み、河川沿いの造船所では大型化への対応に限界があるため、移転、縮小、廃業する造船所が相次ぎ、名村造船所も佐賀県へ移転し、その跡地の有効な利用方法が模索されていました。
こうして一時は忘れられたような存在であった名村造船所跡地でしたが、2004年のイベント“ナムラアートミーティング”が成功したことで弾みがつきました。2005年に常設のイベントスペースとしてオープンし、徐々に利用も増えています(この辺の詳細は、アルパックニュースレター159号「水辺のアート発信地“クリエイティブセンター大阪”」で紹介しています)。
今回のように大阪の工業を支えた跡地(しかも近代化産業遺産)で、文化芸術産業という新産業を育成していくことは、産業政策としても興味深い取り組みだと思います。
![]() ギア (出典:NPO法人ライブエンターテイメント推進協議会) |
![]() 名村造船所跡地 (出典:クリエイティブビレッジ構想HP) |
今後の取り組み
今回の取り組みは、“ポップカルチャーのメッカ・関西”を目指した取り組みの一環としても位置づけられています(取り組み全体は、クールジャパンをブランドにアジア人観光客の国内消費力を取り込み、関西に新たな文化芸術産業の育成と発信の拠点を形成していくことを展望しており、アルパックニュースレター164号「水辺の文化芸術産業拠点“Kansai Creative Factory”」で紹介しています)。
したがって、名村造船所跡地でギアに続く、第2第3のギアの誕生が望まれますし、いずれ大阪市内の他の場所をはじめ、京都にも神戸にも、こうした拠点が形成されることが期待されますが、まずは当面のギアの成功が重要です。2010年12月の第2回トライアウト公演以降、関西のテレビや新聞にも何度か取り上げてもらえるようになりましたが、さらに関西全体に広く認知され、広く支援を受けていくため、今後、様々なチャレンジを積み重ねていきたいと思います。
具体的には、3月22日までトライアウト公演を続けますが、その後しばらく公演そのものは休み、その間に、シナリオの改良、舞台設備の増強などの抜本的なバージョンアップを行う予定です。「ギア」という演目との関係から、大阪の製造業とのコラボレーションも検討しています。また、こうしたバージョンアップの後、内外の旅行会社を招待するトライアウト公演等を積み重ね、今後の誘客の布石を打ちたいと思っています。
過去、数多くの独自文化を生んできた大阪の伝統を継承することは、これまでの伝統文化を守ると同時に、新たな文化を育て発信していくことも含まれると思って「ギア」に関わっています。ぜひ、一度お越しいただいてご鑑賞ください。そして、今後の展開を応援してください。

ギアの紹介記事(2011.1.11日本経済新聞[夕刊])
アルパックニュースレター166号・目次
ひと・まち・地域
きんきょう
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- 就労のインクルージョンをめざして~特例子会社「かんでんエルハート」視察報告
/大阪事務所 大河内雅司
- インクルーシブな「働く」をつくる~その2/京都事務所 廣部出
- さかい緑のフォーラムが開催されました/大阪事務所 絹原一寛
- エコアパートの正体と将来と~花園荘を訪れました~/大阪事務所 嶋崎雅嘉









