アルパックニュースレター166号
就労のインクルージョンをめざして
~特例子会社「かんでんエルハート」視察報告
法定雇用率にみる障がい者就労の難しさ
障がいのある人の働く権利を守り、その労働を保障するために、国連や国際労働機関(ILO)は考え方や基準を示しています。その流れを受けて、わが国では「障害者雇用促進法」で56人以上の事業者に対して法定雇用率1.8%を義務づけ、障がいのある人の雇用機会の確保を図っています。しかし、法定雇用率を達成している企業の割合は45.5%(平成21年6月1日現在、厚労省資料)にとどまっており、障がい者の就労の難しさを示しています。そんな中で、一定の成果を上げている特例子会社、「かんでんエルハート」を紹介します。

メールサービス 関電ビルの郵便局
事業者、障がい者双方にメリットがある特例子会社
特例子会社とは一定要件を満たす子会社を設立し、そこで雇用されている障がい者を法定雇用率にカウントするものです。事業者にとっては、障がいに応じた仕事の確保や環境整備を集中して行うことができる、柔軟な雇用管理ができる、といったメリットがあります。障がい者にとっても、雇用の機会が拡大される、障がいに配慮された環境で力が発揮できるといったメリットがあります。
特例子会社は全国で281社あり(平成21年4月末、厚労省資料)、そのうち大阪府は26社となっています。府下で特徴的な例を挙げると、パナソニック、ダイキン、関西電力は自治体と共同出資の第3セクター方式で、コクヨは水耕栽培を行う農業生産法人方式で、吉野家はユニホームのクリーニングを委託していた事業所を子会社化しています。
108名の障がい者が働く「かんでんエルハート」
かんでんエルハートは前述のように、大阪府、大阪市、関西電力が共同出資した第3セクターで平成5年に設立、平成7年に開業しています。中之島の関電ビル18階の「ビジネスアシストセンター」、住之江区の「住之江ワークセンター」、貸農園も行っている「高槻フラワーセンター」で構成されており、108名の障がい者が働いています(平成23年2月1日現在)。約16億円の売り上げがあり、関電グループからの受注が約9割を占めています。
特例子会社であるという強みを活かした仕事づくり
関電グループの特例子会社であるという強みを活かした仕事として、(1)メールサービス、(2)花卉栽培・花壇保守、(3)印刷・製本、(4)包装、箱詰め、(5)ヘルスケア、が行われています。「メールサービス」は関電内の郵便局として106のポストに社内連絡便や郵便物を仕分けして配達しています。「花卉栽培・花壇保守」は発電所などの事業所の花壇のメンテナンスを行っています。
「印刷・製本」は、グループ企業の印刷を引き受けており、機密文書の保全にも威力を発揮しています。「包装、箱詰め」はグループ企業のノベルティ商品(ブランド名が入った記念品や贈答品)の包装や箱詰めを行っています。「ヘルスケア」は障がい者が所員のマッサージサービスを行っています。障がいに応じた仕事づくりのノウハウが蓄積されており、(1)や(2)は知的障がい者や精神障がい者が、(3)、(4)は肢体不自由者や聴覚・言語障がい者が、(5)は視覚障がい者が担っています。
![]() 車いす利用者対応のコピー機 |
![]() 盲導犬と中之島まで出勤されています |
直面している課題は商品開発
世界的な不況、低成長経済、人口減少時代を迎えて、これまでのような電力需要の伸びは期待できない状況にあります。エルハートでも、発電所の閉鎖などによって花卉栽培・花壇保守の仕事が減っているそうです。障がい者だからという甘えは許されない、新しいビジネスモデルを提案して商品化したい、との声もあり、新たな顧客開拓をめざして様々な取組をしています。
インクルージョンの現実と可能性
特例子会社という特別な形態はインクルージョン(共に包み支え合う社会づくり)なのか?そもそも法定雇用率を定めるという「割当雇用制度」の考え方はどうなのか?といった意見もあります。大企業でも5年後、10年後がみえない時代において、就労のインクルージョンをどのように形にしていくのかは難しいテーマです。
お話を聞いている時に、これからマッサージの仕事につかれる視覚障がい者の方が盲導犬と一緒に出勤してこられました。
大阪の都心、中之島を歩いているとスーツ姿のビジネスマンと一緒に働く障がい者の姿を見かけます。障がいがあっても本人のニーズをもとにして仕事を選択できる、多様な職場が用意されており、働く権利が保障されている、インクルージョンの理念を手放さずに現実と折り合いをつけて少しずつ形にしていければと思いました。
アルパックニュースレター166号・目次
ひと・まち・地域
きんきょう
- 企業立地セミナーが開催されました/大阪事務所 柳井正義
- 就労のインクルージョンをめざして~特例子会社「かんでんエルハート」視察報告
/大阪事務所 大河内雅司
- インクルーシブな「働く」をつくる~その2/京都事務所 廣部出
- さかい緑のフォーラムが開催されました/大阪事務所 絹原一寛
- エコアパートの正体と将来と~花園荘を訪れました~/大阪事務所 嶋崎雅嘉









