アルパックニュースレター166号

『「農」と「食」のフロンティア~中山間地域から元気を学ぶ~』

著者:関満博 発行:学芸出版社 /紹介者 代表取締役社長 杉原五郎

関満博先生は、「歩く研究者」

 1月19日(水)、学芸出版社のセミナーで、関満博先生(一橋大学商学部教授)が京都にこられ、「農と食のフロンティア~中山間地域から元気を学ぶ~」をテーマに講演されました。関先生は、これまで「ものづくりの地域産業」を研究テーマに、日本国内で約6000社、海外で約1000社の企業調査をされ、フィールドワークを得意とする「歩く研究者」として有名です。

農産物直売所、農村レストラン、農産物加工所が人気

 いま、日本の中山間地域で、「農産物直売所」「農村レストラン」「農産物加工所」が注目を集めています。そこには、高齢の農家女性(農村のおばちゃん)が輝いて仕事をしています。
 限界集落を含む日本の中山間地域は、市町村合併が進み、顕著な人口減少と高齢化の中で、たいへん厳しい現実に直面している、というのが通り相場でした。そんな中、関先生は、島根、高知、岩手、栃木、長野、岡山など全国の中山間地域約300ケ所を訪ね歩いて、現場で生き生きと働いているおばちゃん達を取材し、幾つかの「発見」と「感動」をレポートされています。
 農産物の直売所は、1980年代中頃からバラックに戸板一枚で始まりました。その後、「道の駅」が各地に設置され、「そこに行けば、地域と出会える」という農産物直売所は、いま、全国で、1万3000ケ所に増えています。
 「農村レストラン」の府県別ベストテンをみると、栃木県が70店とダントツに多く、次いで宮城県42店、広島県37店、大分県30店、埼玉県28店(2007年)。東日本の「そば屋」、西日本は「バイキング」という特徴があると言われています。
 農山村地域では、味噌やもち、パンなど、農畜産物の「小さな加工」が農家女性によって活発に取り組まれています。高知県馬路村のゆず加工のように、地域資源を活用して食品のブランド化に成功した地域もあり、「農商工連携」によって全国規模の食品加工を行っているところも出てきています。

中山間地域の構造変化と日本の未来

 上記3点セットが急速に増えている背景には、日本の中山間地域で劇的な構造変化が進行している現実があります。「集落営農」が進んで、農家女性は家事・育児・介護などとともに重荷となってきた農作業から開放されて、新たな働き口を創り出し、現金収入を手にしたことで、「生きがい」と「働きがい」を得たことが大きいと言われます。関先生は、独自のフィールドワークを踏まえて、「集落営農」と「農家女性の自立」こそ3点セット進展のキーワードと結論づけています。
 いま、日本の社会は、グローバル化と少子・高齢化の中で、国づくりと地域づくりのあり方が問われています。関先生の本書から、日本の中山間地域の未来を考える上で幾つかのヒントと示唆が得られます。同時に、私たちが働き、生活している大都市圏の産業、雇用、暮らし、そして地域づくりのこれからを語るためにも、必読の書と言えます。


本表紙