アルパックニュースレター171号

堺市中区で広がるまちづくりの輪
(地縁型とテーマ型の緩やかな融合へ)

執筆者;大阪事務所/岡本壮平・清水紀行・大河内雅司・依藤光代

はじめに

住民参加から住民主体へ、そして多様な主体の連携へと、まちづくりのあるべき姿(理論)は進化していきます。一方で、まちづくりの足下(現場)では、住民の関心がない、リーダー不在、ネットワークが広がらない…などの問題を抱えています。自治会等を主とする地縁型活動と、NPO等によるテーマ型活動との連携・調整に苦労する、というのもよく聞く話です。
堺市中区では、自治会からまちづくり委員を選出し、主体的に活動する「まちづくり考房」という仕組みがあり、「関西まちづくり賞」(都市計画学会関西支部より)を受賞するなど、実績を挙げています。一方、区のまちづくりビジョンの作成・実現を担うための協働の場として「中区まちづくり会議」が設置されました。いわば地縁型とテーマ型の2つの仕組みが併存しています。
ここでは、両者の融合によるまちづくりの輪=緩やかなネットワークの拡大を目指した試行錯誤の一端をご紹介します。

地域へつなぐ花のバトンリレー(魅力分科会:依藤光代)

魅力分科会では、「まちの魅力の再発見と創造」をテーマに、まずは「中区を花いっぱいのうるおいのあるまちにしよう!」を当面の目標として活動しています。
◆花苗のバトンリレー
平成22年から、実践グループ「まちづくり咲(サ)ークル花輪」を立ち上げ、種から花苗をつくり、地域の方々に花苗をお渡しして育ててもらう、いわば「花苗のバトンリレー」を行っています。これまで、春と秋の年2回の種まきをつづけ、延べ2万粒の苗を育てました。
平成23年夏には、花を通じた地域との関わりを目に見える形でまとめようということで、お渡しした花苗が育てられている場所や育てている人を地図上で紹介する「HANAPPU(ハナップ)」を作成しました。全21箇所に分科会委員や花輪のメンバーが訪問し、取材を行いました。これを通して、花苗のバトンリレーが、地域で花づくりをされている方々と分科会の、顔の見えるネットワークになりました。
また、深井駅(泉北高速鉄道線)の前に設置してあるフラワーボックスに花苗を植え、そこに区内の小学校児童に飾り付けをしてもらう取り組みなど、花を活用して様々な人たちと連携し、ネットワークしています。
◆花づくりから人づくりへ
これからの取り組みとしては、花を育てるよろこびとともに、元気に育てるスキルも身に着けてもらおうと、区民を対象に花づくり講習会を開催していく予定です。また、せっかくできた地域の花づくりの担い手とのつながりを活かして、花づくりの現場をつなぐウォーキングコースをつくる案や、1月に始まる「まちづくりカフェ」の場に招いて、さらにほかの人たちとも交流の輪を広めるというプロジェクトも進行中です。
積極的に地域の方々や他の団体と関わり、交流の輪を広げることで、まちづくり・花づくりの担い手が増えてくれることを願って、委員のみなさん、区役所と一緒に取り組んでいます。


種まき作業の様子。小さな種に花いっぱいの夢を
託します(約4,000粒)

HANAPPUづくりのため、 地域の方々に取材をしました

地域で子育ての輪づくり(子育て分科会:清水紀行)

子育て分科会では、「まちが子どもを育てる」を合言葉に、“地域で子育て”を実現するための地域のつながりづくり・ネットワークづくりに取り組んでいます。
◆第1回交流会の開催(H23.2.26)
「中区ではどんな団体がどんな子育て支援活動をしているのだろう…?」実は、自治会や子ども会など地域に密着した子育て支援活動はよく知られていますが、NPO等のテーマ型の活動団体については十分に知られていないのが実情でした。
そこで、活動テーマが異なるいくつかの団体をお招きし、活動内容やその活動を始めたきっかけ、活動上の問題や課題などについて率直に話し合い、お互いを知り合う交流会となりました。
◆子育てカフェの開催(H23.9.13)
「会議は堅い、気軽に話そうよ」カフェのような雰囲気のなかで、気軽に子育てに関する率直な意見や悩みを話し合うことのできる場として「子育てカフェ」を開催しました。
初開催ということで、今回は区内の小中学校PTA役員の方々にお集まり頂き、今後のカフェ実施の練習の意味合いもありました。「普段、交流機会のない他校区の方々や世代の異なる方々の意見を聞くことが出来て非常に新鮮だった」「美味しいコーヒーとクッキー、かわいい花がテーブルに添えられており、非常にリラックスして話が出来た」など、好意的なご意見を多数頂きました。
子育て分科会が掲げる「地域で子育て」を実現するには、地縁型とテーマ型の枠をさらには世代や組織の枠も超えて、まずは「地域の人と一緒に考える」というスタートラインに立つことが非常に重要だと思います。子育て分科会は、まさにそれを一歩ずつ着実に実践していこうとしています。
現在、子育てカフェでのご意見をもとに、第2回交流会を企画中です。子育て分科会の次なる一歩も、後日ご報告したいと思います。


車座形式で活動紹介と意見交換を行った
第1回子育て交流会

コーヒーを飲みながら気軽な話し合い

公助と共助をつないでいこう(防災分科会:大河内雅司)

防災分野の取り組みは、公助(行政がすること)、共助(地域で支え合うこと)、自助(区民自らがすること)が一体となった実践が課題となっています。
防災分科会では「行政(公助)と地域(共助)のつなぎ部分の体制づくり」をテーマに、防災に関わる区民組織の代表者と区の職員が共に活動しています。
◆中区の地域防災の現状を学ぶ(H23.1.27)
中区の地域防災の現状について、「行政と地域の間にすきまがあり、両者の役割分担が不明確。」「行政と地域のつながりをはっきりと。」などの問題点が出されました。「行政(公助)と地域(共助)のつなぎ部分の体制づくり」が課題として明らかになり、これを分科会の取り組みテーマにしました。
そして、地域(共助)の取り組みとして、まちづくり考房・防災グループの活動を学びました。考房が作成した意識啓発マニュアルを活用した出前講座、防災マップづくりやマップを活用した避難訓練の実施の他、上之自治会の自主防災組織づくりの報告もありました。
◆東日本大震災の発生を受けて(H23.6.6)
3月11日に東日本大震災が発生し、区役所職員も被災地支援に追われる状況となり、分科会メンバーの防災意識も高まりました。そこで、東日本大震災の職員派遣報告と要援護者の災害時支援をテーマに学びました。
消防署の職員からは、「想定にとらわれない」「状況下において最善を尽くす」「率先避難者になる」といった避難3原則を守り抜いて、市内の児童・生徒のほぼ全員が無事に逃げ延びた釜石の奇跡について紹介されました。また、避難所に派遣された中区の職員からは、自主運営組織の立ち上げに関わった経験から、避難所運営を支援する職員の役割や、行政と地域の連携の大切さについて紹介されました。いずれも現実味あふれる勉強会となりました。
◆堺市危機管理室の出前講座(H23.10.26)
公助の司令塔、堺市危機管理室を招いて、堺市の防災体制について学習会を行いました。 災害発生時における市役所の危機管理センターや災害対策本部、区役所における区災害対策本部の立ち上げの流れが紹介され、地域に派遣される職員である災害地区班員による指定避難所の支援等について説明がありました。発災初動期は、行政は地域の支援ができない、共助や自助で乗りきるしかないこと、行政と地域の連携が必要であることを再確認しました。
◆「行政(公助)と地域(共助)のつなぎ部分のマニュアルづくり」へ
これからの取り組みとして、共助(地域)と公助(行政)のつなぎ部分の問題を抽出し、解決策を出し合うことによって、ガイドラインとしてまとめることをめざしています。分科会の議論をとりまとめた後は、カフェ形式で幅広い区民の意見を求めることによって、ガイドラインを充実したものにしていくことを考えています。

まちづくりの輪を広げる仕掛け(まちづくりカフェ:岡本壮平)

上記3つの分科会は、テーマ別の団体やグループをつなぎ合わせ、中区全体として活動を充実していくことを基本としています。これと併行して、より幅広い住民にまでまちづくりの輪を広げていくために、「まちづくりカフェ」の開催準備をしています。
◆まちカフェのねらい
「地域活動に関心はあるけれど…」、あるいは「少しぐらいは手伝ってもいいなぁ」という思いはあるものの、まだ団体やグループに参加していない一般の住民の方が、地域について知り、まちづくりへの参加の入口になるような仕掛けとなるものです。
実験的にやってみた子育てカフェですが、「カフェで知り合った人同士で別テーマの活動が始まった」という後日談を聞きました。参加者は、子育てというテーマは共通していますが、個々人は背後にもっといろんな関心事やテーマも持ち合わせているので、偶然の出合い(きっかけ)さえあれば、別のテーマのつながり→まちづくりの協働へと派生する可能性がある、ということに気づかされました。
この経験を踏まえ、「興味・関心を惹くテーマで、気軽な雰囲気のカフェを、できるだけ多く開催する」、これによって、いろんな背景を持った多様な人々を集め、「偶然の出合い」や「共感できる出合い」を生み出す。これがまちづくりへの参加の入口になり、輪を広げる端緒となり、住民主体のまちづくりに向けた土壌づくりにもなると考えています。
◆まちカフェ開店準備中
1月25日(水)を皮切りに、毎週水曜日の午後(2時から)、中区役所で「まちカフェ」が定期的に開店します。1回目と2回目は、「中区waiwaiカフェ」と銘打って、中区の魅力について「和気あいあい」とお話しをします。中区のお花見名所、お散歩コース、デートスポット、パワースポット、名物、有名人などなど… どんな話題が飛び出すかは、来てのお楽しみ。中区の方も、そうでない方も、出入り自由・飛び入り自由なので、どうぞお気軽にカフェを楽しみにお越し下さい。