アルパックニュースレター174号

歩車共存のまちづくりに向けたワークショップ&社会実験
「パークタウン・ストリート」

執筆者;大阪事務所 山本昌彰・橋本晋輔 京都事務所 松尾高志・三木健治 

「歩車共存のまちづくり」って?

 みなさん、「歩車共存のまちづくり」と聞いて、どんなイメージをもたれるでしょうか。「歩車共存道路」とは、「快適な歩行者空間をつくるために、車道部分を蛇行させるなどして、自動車の速度を抑え、歩行者との共存を図る道路」のことをいい、一般的には、比較的幅員の狭い商店街や住宅街などによく見られます。おそらく、トランジットモール…、コミュニティ道路…、そんなイメージでしょうか。ここ、周南市では、その「歩車共存道路」を中心商店街にもなっている幅員20mの幹線道路において実現させようというもので、実現すれば、おそらく全国的にも珍しい事例となるはずです。

「パークタウン構想」の実現に向けて

 今回紹介する取り組みは、周南市中心市街地活性化に向けた関連のもので、中心市街地活性化計画では、将来イメージを「まちのストックを活かした、豊かな心を育む『公園都市(パークタウン)』の創造」としています。周南市の中心市街地の魅力向上に向けて、街なかに市民、来街者が憩える空間をつくり、「自然と歩きたくなる、ひと中心の街なか」をつくりあげていくこと、これが「パークタウン構想」の目指す思想です。
 近年、人口減少、少子高齢化、空き店舗の増加など、いろいろ言われる時代の中で、周南市でも何か次世代に「これぞ周南」といえるものを継承しようと、地元のまちづくり会社、建築士会などが立ち上がりました。そして、地元関係者が一丸となって、「パークタウン構想」実現に向けてその第一歩を踏み出したのです。

周南市民の『強い思い』と『こだわり』が凝縮したワークショップ

 まず、どんなイメージの道路にするか。ワークショップでは、東京大学の羽藤英二先生にコーディネートしていただき、公募市民、地区内地権者、建築士会の方々、行政職員などに参加いただきました。最初は「こんな暮らし方がしたい」といった “使う側”の市民の視点から話しあい、「ゆっくり歩きたい」「周辺と連携させたゆとりと楽しさ」「人が一番」などのテーマのもと、一方通行…、スラローム…、お洒落な並木…、四季を感じる緑と空間…、ホタルのいる水路…など様々なアイディアが出されました。これを最終的には、班ごと(3班)に200分の1の模型までを作成しました。まさに、周南市民の『強い思い』と『こだわり』がここに凝縮していると思います。

「パークタウン・ストリート」への“扉”~社会実験~

 次のステップとしては、ワークショップで議論した内容の中で、できることを実現していこうという目的で「社会実験」を実施させました。
しかし、もうおわかりのように、ワークショップでまとめたテーマは、どれも“ハードルの高い”問題ばかりです。そこで、あまり無理をせず、3年くらい時間をかけて徐々に社会実験の規模を大きくしていこうということとなり、今回は、テーマを「空間の演出とその使い方」一点に絞り込みました。
 「空間の演出とその使い方」をテーマにするうえで、一番の問題は、より多くの人にどのように心地よい歩行者空間を体験してもらえるかです。今回の実験では、商店街やまちづくり会社等が開催する休日の歩行者天国のイベントに併せて実施するとともに、事前の平日に、隣接する歩行者専用道路となっている商店街でも、緑豊かな歩行者空間を体験してもらうことにしました。「できることからはじめる」です。
 平日は、観葉植物やガーデンデッキを商店街に設置、休日は、歩行者天国の中、ウッドデッキを製作して車道部分に設置し、心地よい歩行者環境をつくり、多くの人に憩える空間を楽しんでいただきました。まだ、車と共存、すなわち「歩車共存」にはなっていませんが、これまで、周南市になかった「新しい憩い空間」として認識していただき、「パークタウン構想」の真髄を、強烈にPRできたはずです。名づけて「パークタウン・ストリート」への“扉”はしっかりと開かれたと思います。

模型を作成するワークショップの様子
模型を作成するワークショップの様子
水路を取り入れた大胆なイメージの完成模型
水路を取り入れた大胆なイメージの完成模型

「パークタウン・ストリート」の実現に向けて

 今回のワークショップと社会実験は、盛況のうちに終えることができ、利用者の方からも「是非このような道路を本当に実現してほしい」などの感想を多くいただいており、先進的な取組みであったと自負しています。
 しかし、まだ扉は開かれたばかりで、社会実験第一段階にすぎず、「パークタウン・ストリート」の実現に向けて、これで終わってしまっては意味がありません。(少なくとも、今回製作したウッドデッキは次年度も使わなくては(笑)。)実現に向けてはこれからが本当の山場を迎えることになります。関係者の合意形成、安全な通行規制と交通処理等、次年度以降いろいろと超えなければいけない大きなハードルがあると思います。
 私たちはこれからも、今回一緒に取り組んできたメンバーと連携しながら、次のステップに向けて取り組んでいきたいと考えています。
 最後になりましたが、ワークショップから社会実験まで通してご尽力いただきました、地元まちづくり会社や建築士会の方々、コーディネートしていただいた羽藤先生方、その他関係していただいた方々には、この場をお借りして御礼申し上げたいと思います。


設営準備の様子

ウッドデッキ廻りで遊ぶ子どもたち

車道にウッドデッキが登場した休日の社会実験の様子

観葉植物で商店街を演出した平日の社会実験の様子