アルパックニュースレター174号

遠くて近い、スペインとドイツ
~再生可能エネルギー、環境政策、まちづくりについて考える~

執筆者;代表取締役会長 杉原五郎 

ヨーロッパは、遠かった

 このたび、京都商工会議所会頭ミッション「スペイン、ドイツへの視察」に参加した。視察の目的は、スペインの再生可能エネルギー事情を探ること、ドイツの環境政策とまちづくりの実情を見聞すること、でした。参加者は、立石会頭を団長に、柏原副会頭、福永国際交流委員長をはじめ、京都府、京都市、民間企業、報道機関など多彩なメンバー、総勢26名でした。
 5月18日の夜、伊丹空港を飛び立ち、深夜の羽田を経由して、19日の早朝6時頃にドイツのフランクフルトに到着。乗り継いで、最初の訪問地マドリッドに着いたのは、19日の昼頃で、伊丹からマドリッドまで実質24時間の旅となり、「ヨーロッパは、確かに日本から遠い」と実感した。

スペインの再生可能エネルギー政策はすごい

 21日午前、再生可能エネルギーコントロールセンターCECREを訪ねた。スペインの送電管理会社レッド・エレクトリカ社の警備は厳重で、一人ひとりパスポートチェックを受けた。スペイン全土の電力の需給状況を刻々とチェックし、コントロールしているとのこと。この仕組みがないと、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー(RE)を効率的に活用できない。「日本でもREを最大限に活用していくためには、発電と送電を分離して、電力の需給をコントロールするシステムを確立していくことが不可欠」と理解した。
 22日午前、マドリッドから高速鉄道でバルセロナに移動し、バルセロナの郊外にあるコラデラス風力発電所を視察。地中海を望む山の上に、巨大な風力発電施設が林立し、強い風を受けてプロペラがブルンブルンとうなっている様は壮観で、思わず「すごい」と叫んだ。1981年から風力発電に取り組んでいる発電所の副責任者(欧州グリーンエネルギー協会会長、バルセロナ大学教授)は、日本で風力発電を普及させるために何が必要かとの問いに対して、「本当にやる気があるのか、これが最も重要」と指摘された。日本人としてこの言葉はずしりと堪えた。
 マドリッドではジェトロ所長、バルセロナでは総領事と、それぞれ懇談する機会があった。スペインの経済事情、再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)、バルセロナと日本との文化交流などについてレクチャーを受けた。

石の文化と広場のある街、マドリッド、バルセロナを歩く

 マドリッドでは、プラド美術館、王宮、世界遺産・セゴビア、マドリッド市内を視察した。スペインの歴史、街並み、人々の表情などを観察して、異文化を肌で感じた。「石の文化は、重い」と、紙と木の文化・日本との違いを痛感した。
 バルセロナでは、ガウディのサクラダ・ファミリアを視察し、中心街のランブラス通り、ウォーターフロント地区などを歩いた。バルセロナは、首都マドリッドにはない解放感が溢れ、観光客で賑わい、東京に対する関西と共通した親しみを感じた。

ドイツ・ハイデルベルグの環境政策とまちづくり

 24日、ドイツのフランクフルトに移動し、アウトバーンで2時間ほどのところにある、歴史都市ハイデルベルグを訪れた。環境ジャーナリスト松田さんの紹介で、古い市街地、広場や路地を歩いて街並みを視察。まちの中心には、クルマの乗り入れを制限し、人々が安心して歩き、集い、住むことができる、市民の暮らしをベースに公共の利益を優先する都市計画とまちづくりが息づいていることにかすかな感動を覚えた。
 ハイデルベルグ市は、2050年にはゼロエミッションを実現する(CO2をゼロにする)という挑戦的な目標を掲げているとのこと。鉄道ヤード跡地であるバーンシュタット地区(116ha)の再開発現場を市の環境政策担当者に案内していただき、断熱を徹底的に追求したパッシブ住宅、パッシブオフィスについて説明を受けた。人口14万、学生数3万の大学都市でもあるハイデルベルグでの意欲的な取り組みは注目に値する。  ちなみに、ドイツは、10年後の2022年には電力の原発依存をゼロにする、と宣言している。「原発にはリスクがある。再生可能エネルギーに全面的にシフトしていくのもリスクが伴う。しかし、ドイツは、チャレンジする。」とのハイデルベルグ市環境局担当者の力強い言葉はじっくり噛みしめたいと思った。


ハイデルベルグ中心市街地の街並み

ハイデルベルグの再開発中のバーンシュタット地区

参加者との友好と交流の旅

 このたびの会頭ミッションを通じて、参加された方々と親しく交流する貴重な機会を得た。立石会頭とは、バルセロナでの昼食、ハイデルベルグでの夕食の際、近くで懇談し、オムロンの会社経営のことなど親しくお話をすることができた。柏原副会頭、福永国際交流委員長をはじめ、多くの参加者と、食事の時、移動の飛行機やバスの中、ホテルのロビーや空港、街を歩きながらいろいろな話題で気軽にやりとりさせていただいた。
 今回のスペイン、ドイツの旅は、私にとっては、参加者とのやりとりを通じて人となりを理解し、多くのひとと仲良くなれる、「得がたい友好と交流の旅」となった。

スペインとドイツは、遠くて近い

 5月18日から28日までの11日間は、過ぎてしまうと、あっという間であった。今回の旅行中、いろいろなことを学び、感じ、考えさせられたが、日本のこれからをどうしていけばいいのかということがずっと頭から離れなかった。日本の経済、環境・エネルギー政策、まちづくりのこれからを考えるとき、「覚悟と実践が大切」と痛感した。
 日本とヨーロッパは、最新鋭機ボーイング787に乗っても11時間~13時間という、うんざりするほどの距離にあるが、政治、経済、文化などの面で深く緊密に結びついていることも実感した。ひと、モノ、マネー、そして情報が国境を越えていきかうグローバル時代にあって、地球の彼方にある国や都市の歴史、文化、経験に学びつつ、自国の強みや弱みを自覚して、地球のために、自国のために、自らの住んでいる地域のために、努力していくことがますます重要、と思い知った。
 今回の会頭ミッションは、私にとって、「スペインとドイツは、遠くて、近い」ことを実感する旅であった。


マドリッドの広場にて

バルセロナ郊外のコラデラス風力発電所