アルパックニュースレター174号

監査役のしごと

執筆者;名誉会長・顧問 三輪泰司(NPO平安京・代表理事) 

 5月・6月は、団体・企業の総会シーズン。それに先だって、監査役のお仕事が忙しい。監事とか監査役とかは、会長や社長を勤めた後、少し丁重に扱うが、ひまな隠居しごとくらいに思っている向きも居られるようですが、そうは行きません。責任があるのです。

減価償却費の不思議

 現在、法人の理事・取締役・顧問5。監事・監査役5。すべて、無報酬。まず、一般社団法人京都建築設計監理協会は、監事が一人でしたので、会計監査からまじめに勤めました。その他に、親族が経営している料理店と、温泉旅館の役職もあります。
 いろいろな業種・業態を経験すると面白いことに気付きます。
 アルパックや、業種の近いソフト開発の会社では、減価償却費は殆どネグレクティブ。飲食業になると少し大きくなり、旅館業ではものすごく大きくなります。まさに設備産業。
 「償却」したお金は、消えてなくなるのでしょうか。資産の部の現預金に入っています。預金が増えていると安心するのは早い。性質が違うのです。学校法人の監査をすると判ってきます。
 学校法人になると、会計の様子が変わります。学校法人会計の資金収支計算書では、教育研究費にも管理費にも減価償却費が計上され、非常に大きい。大学等も一大設備産業。それで「消費収支計算書」で、減価償却に見合った額、時により、はるかに大きく、施設設備基金として、積むことができます。利益が上がっても税金は払いませんし、基金つまり自己資本を強化し、再投資して行けます。
 大学は学生募集に失敗して“消滅”することはあっても倒産しないように出来ています。社会福祉法人会計もほぼ同じ。「基金」を見て事業をするか判断すべきです。

“投資”の概念があるか

 役所の仕事ばかりしているとこのあたりの原理に疎くなってきます。一般会計には、減価償却の概念はありません。ちょっとした旅館でも、減価償却の計算は大仕事。府県の資産は膨大。とても計算できないでしょう。
 上下水道・交通等公営企業は、税金はないのに、減価償却できる。遠慮なく儲け、再投資する。高槻市の公営企業審議会を20年も勤めて勉強したことです。積極的に出れば、サービスを向上し、黒字経営にすることができるのです。

アルパックではどうしたか

 アルパックは、レッキとした株式会社。ところが償却資産は僅かしかない。利益を上げたら税金が大きくかかる。ヘンなのは、税理事務所などが、税金をなるべく払わないように指導すること。「節税」のうまい税理士がもてる。一方、経営で一番しんどいのは、資金繰り。アルパックのように、官公庁の仕事が多いと、入金に波がある。年度末近く、1・2月には資金が枯渇します。中小企業経営者の悩みも同じで、果てしなく資金繰りに追われるのです。
 西山夘三先生は、西淀川の鉄工所の生まれ。「税金は払え、それ以上に稼いで、蓄えろ」と教えられました。36歳くらいで創業した若造に商売のツボを教えたのです。
 経常利益が上がれば、税金を払い、利益金処分で、任意積立金を積みました。経理の専門家は、「次期繰越にしても同じです」と言います。そうかも知れません。同じく貸借対照表の右欄の資本の部であり、それに見合って左欄で現預金が増えます。しかし、同じお金でも、性質が違うのです。利益金処分は株主総会議決事項。資金繰りのために簡単に取り崩せない。
 定期性預金にしておいて、これを担保に短期借入します。利息が少し掛かりますが、自己資本は減りません。経理として見るか「経営」として見るかで違ってきます。
 この財務政策は、良かったのかどうか、気になっています。以後、社長は資金調達に走り回る経験をしなくて済むようになりました。
 おかげで、中小企業のオジサン・オバサンの苦労が判らなくなり、「あんたら結構な身分ですな」と距離が出来てしまったのではないかと。

「反対側」に興味をもつ

 ちょうどバブル期でした。配当もはずみましたが、それ以上に、任意積立金に回しました。コンビを組んだ歴代の総務部長。尾関・金井君は技術系ですが、いずれも商売人の出で、あたりまえと処理しました。サラリーマンの家庭の出ですと、説明に手間が掛かったでしょう。
 毎月決まった所得があるサラリーマンと、来月は生活費が出せるかどうか判らない中小零細企業の家庭では、経済観が全く違ってきます。「稼ぐに追いつく貧乏なし」「金は天下の廻りもの」は、商売人の経済観。サラリーマン家庭の財布は、エンドユーザーというように終着駅。「廻す」という観念がないし、投資といえば、株を買うとか、他人頼みで、自分で事業を起すための投資ではありません。
 でも、心配するのは早いです。 自分と「反対側」に興味を持つかどうかです。なるべく若いうちに。
 商店街のおじさんと駄弁って、なんとなく売上高を聞きだすなどできます。しかし、いい歳して、しかも社長などの肩書きがあると鳶や大工さんに「これは何?」と気軽に聞けません。下手に聞くと、逆に会社ごと信用を無くします。
 中小企業経営者も一律ではありません。「社長」になって、それが借金であっても、お金がたくさん動くのをみて、舞い上がり、何をしてもよいと思い込む人もけっこういます。借りた金は返さないといけません。借金取立て、税金徴収、取られるのはけしからんとなります。口で簡単に「中小企業の経営支援」と言っても、日々直面する信用金庫の貸出掛や支援係は、たいへんなご苦労と思います。
 西山先生は、私の実家にも来ておられて「こいつは、老舗の商売人のせがれ、経営のことは、ちょっと教えたらわかる」。それより、若いうちに技術、それも「手に職」を勉強させんと、と思われたのでしょう。東京へ「修行」に行かされたのですが、それはまたの機会に。
 あと2つ、監査報告書作成のお仕事があります。監事や監査役は、事業監査の責任があります。経営政策の評価から、提案にまでおよびます。GROSS/NET管理や、従業員1人当たり収支といった原単位を使う分析法などを駆使して、欠陥を見抜く仕事が手早くできるのは、アルパックでの「修行」のおかげです。