アルパックニュースレター174号

暮らしの豊かさを実現するための住まいとは?
~コミュニケーションが魅力のシェアハウスの広がり~

執筆者;大阪事務所 嶋崎雅嘉 

町家の保全・活用を進める不動産事業

 シェアハウス「京だんらん東福寺」を手がける(株)八清(はちせ)さんは、京町家を保全・活用する分野の不動産事業者として注目される企業です。
(株)八清ホームページ
http://www.share-hachise.jp/tofukuji/top.html
 今回、ご縁があり、八清さんに「京だんらん東福寺」の事業についてお話をお聞きする機会をいただきましたので本紙上で報告させていただきます。
 八清さんは、いくつかの事業スキームを展開し、多様な町家の保全を実現化しています。
 町家オーナーが様々な事情により手放さなくてはならなくなった町家を買い取り、または仲介して、新たなオーナーとのマッチングを図っています。その際に、老朽化が進んでいる町家をリフォームして新しいオーナーを募集する形もあれば、現状のままで売買した後にリノベーションを手がける形もあります。
 例えば、裏庭付きの町家物件では「京町家ファーム」として、ナスやキュウリがとれてストーブで焼き芋のできる、畑付きの町家としてリノベーションして魅力アップを図っています。
また、町家に「宿」という付加価値をつけて、収益物件とする「京宿家」という事業展開も行っています。

町家活用型「シェアハウス」という事業スキーム

 そのような事業展開にもう一つ、「シェアハウス」の事業展開が加わりました。
 京宿家の事業スキームと同じように、収益物件として付加価値をつける考え方ですが、より大規模な町家の活用を検討する中から出てきた事業スキームです。大規模な物件は1オーナーの居住用としては大きすぎるため、シェアハウスという展開が考えられました。

住んでみたい「京だんらん東福寺」

 八清さんが手がけられたシェアハウス「京だんらん東福寺」には、6人の入居者が暮らしています。各入居者は6畳程度の個室を確保しているほかに、共用のリビングなどが充実しています。入居者は20~30歳代の社会人であり、入居者の多くは、寝るとき以外はリビングで過ごす時間が多いようです。シェアすることによる家賃の低減の部分ではなく、入居者同士のコミュニケーションが居住の魅力になっています。
 「京だんらん東福寺」のような物件は、収益性に対する評価だけでなく、「京都の町家保全に一役買っている」という観点からも評価され、投資物件としての魅力が高くなっています。
 シェアハウスの日常的な管理として、プライベートスペース以外の共用部については、管理会社が掃除などを行います。実際には近所の主婦を雇用して掃除などにあたってもらうわけですが、近所の方ということもあり、入居者とのあいさつはもちろん、おすそ分けがあるなど、コミュニケーションが生まれているようです。
 「京だんらん東福寺」は、町家の持つ豊かな空間をシェアすることの喜びを共有するとともに、町家保全という京都のまちづくりに貢献している「誇り」や、まちの中に脈々と引き継がれているコミュニティとのつながりを得られる魅力的な住まいです。

「豊かな生活」が評価される住宅市場の視点

 これまでの賃貸住宅は「間取り」「設備」「駅からの距離」でその評価が決まっていましたが、「京だんらん東福寺」のようなシェアハウスは「コミュニケーション」を付加価値として、住居としての魅力が高く、入居者からも評価されています。
 これからの住まいを考える上で、住宅のスペックだけではなく、その住宅に暮らすことでどのように豊かな生活を送ることができるのか、という視点が住宅市場の中で広がることが想定されます。