アルパックニュースレター178号
東日本大震災から学ぶマンションの防災対策
東日本大震災で仙台市は、震度6強~6弱の揺れに見舞われ、多くのマンションに被害がでました。
(社)高層住宅管理業協会の調査によると、仙台市内のマンションの31%の住棟において「受水槽・高架水槽の被害」が発生し、そのうち、7割で水槽本体の破損・傾きが生じました。また、全てのエレベーターが震災時に停止してしまい、当日復旧したエレベーターは約3%にとどまっています。
このように、大地震の発生時にはマンションならではの被害が発生し、住民の避難やその後の生活に大きな影響を与えます。
今回、東日本大震災で被災した仙台市内のマンション管理組合の方に、被災した当時の状況や、その中で得られた防災に対する視点について、お話をお伺いすることができました。
そのお話の中から、マンションの防災対策として大切な視点を含むいくつかのエピソードをご紹介します。
エピソード1:「想定外」を想定することが必要である
○この地域は実は上水道は止まっていなかったんです。ただ、停電になってしまったので受水槽へのポンプアップができなくなったんです。私たちのマンションは非常用の自家発電機がありますので本来は電源が切り替わり、水道は止まらないはずだったのですが、地震の影響で火災報知機が誤作動したため自動的に水道が消火ポンプに接続されてしまったんですね。そういう想定外のことが起こってしまいました。
○そのため、高架水槽の水はすぐになくなり水が止まってしまいました。トイレも使えなくなったので地下の非常用タンクの水を配ることとなりました。また、中庭の池の水は共用部のトイレに利用しました。
○そんな対応をしているうちに洗車場の蛇口が実は水道本管に直結していることがわかったため、地下まで降りなくても水を給水することができたのです。
○このような自分のマンションの設備や配管に関する情報を事前に調べ、マニュアルとして整理しておくことが何よりも役に立つと感じました。
エピソード2:日頃からのお付き合いやイベントを通したつながりが大切である
○震災の前年度から、マンションのコミュニティを活性化するために「芋煮会」を開催していたんです。こういうイベントを実施することで住民全体で一つのことに取り組めるようになり、それぞれの住民のスキルがわかるため役割分担がスムーズになります。例えば、焼き鳥を焼くなら「焼く人」や「火を起す人」などが見えてきます。
○このような人のつながりや役割分担を通じて、震災時には炊き出しを行うことができ、大変な時期を乗り越えることができました。今では、それをきっかけとして生まれたお茶会の取り組みが行われ、現在でも月2回行われています。
○これは震災後、炊き出しに参加していた女性たちが、避難生活が終わったあとも不安を抱える人が多くいたことから自発的に「おしゃべり」のできる場をつくろうということで始まった取り組みです。
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エピソード3:周辺地域とのつながりも大切である
○電気はエリアによって復旧のスピードが異なっていました。私たちのマンションは復旧が遅かったのですが、地域の連合会にも入っていたおかげで、つながりのある連合会の会長さんに頼んで電気を借りることができました。
○また、周辺の自治会からは、バナナ、乳製品などの差し入れがあったり、住民の中に飲食業の方もいらっしゃって麺類などを大口で提供してくれたりしました。
○住民の中からボランティアを募った際には、住民である高校生のお友達がボランティア活動をさせてほしいと来てくれたことはうれしかったですね。
○また、地域の避難所である小学校にも、4月3日までボランティアを派遣しました。地域とのつながりもある中で権利だけではなく地域の一員として義務を果たすことができたと思います。
エピソード4:防災マニュアルはつくるだけでなく運用が大事
○防災マニュアルは作成することがゴールではないので、それをうまく「運用」していくことが大切です。うちのマンションでは、2フロアごとの班長が集まる班長会でマニュアルの内容を管理組合から詳しく説明しています。班長は持ち回りで1年で交代するので、班の中のマニュアルについての知識と意識が徐々に高まっていくわけです。しかも、班別懇親会の場では班長さん自身に班の方々へのマニュアル説明をお願いしていますので、班長会で説明を聞く班長さんも真剣にならざるを得ない。というわけです。
今後の防災対策に向けて
私たちに必要なことは、このような経験を共有するとともに、そこから得られる教訓を活かし、今後発生する大地震に対する備えをすることです。
住民一人ひとりが防災意識を持って自らの命を守るとともに、マンション管理組合や自治会など、自分たちが居住するコミュニティの中で、協力し合うことでできる「備え」について、是非一度考えてみませんか。
アルパックニュースレター178号・目次
ひと・まち・地域
きんきょう
- 芝田2丁目のまちづくりが動き出します~未来都市芝田2丁目協議会の設立&記念イベント「マルシェ」の開催/都市・地域プランニンググループ 清水紀行
- アイ・スポットのイベント報告/都市・地域プランニンググループ 絹原一寛
- 大阪市港区ワークス探検団の取り組み~小学生による中小企業訪問活動/代表取締役会長 杉原五郎
- 第6回CITEまちづくりシンポジウム「大阪をブランディングする~新たな都市魅力を創造し、世界・アジアに発信する~」に参加して/地域再生デザイングループ 中塚一・羽田拓也









