アルパックニュースレター178号

交野市のパッチワーク的風景~迷路的集落、七夕伝説、磐船の巨岩~

執筆者;都市・地域プランニンググループ 依藤光代

 学生時代に交野市でイベント運営のお手伝いをした帰り道、交野市駅までのほんの1キロくらいの道のりで、突然細い路地が連続する集落に迷い込みました。人ひとり通ることのできる路地は生垣や板塀に囲まれていて、集落の穏やかな暮らしの様子も見え隠れし、なんとも居心地のよい空間でした。歩いても歩いても抜け出られない、いやむしろ抜けたくないような気分だったのを覚えています。市役所のすぐ裏側にあるこの「私部」の他にも、集落は市内に点在しており、山麓にある「寺」は集落の周りに棚田が広がっていますし、「倉治」は共同の水汲み場が残っていて、それぞれに味わい深く特徴的です。


細い路地が連続する集落

 集落や市街地の周りには広々とした田園があり、これらは「天野川」がもたらす肥沃な土の恩恵を受け営まれてきたものです。稲作の他にも、古来に機織りの技術が持ち込まれたことにちなんで、「機物神社」もあります。また、昔流れ星が落ちてきたという場所が3か所伝えられており、「星降伝説」になっています。平安時代にまで話は遡りますが、京の都にはないのどかな風景が広がる交野に、歌の題材を求めて盛んに訪れた貴族たちが、味わい深い交野の景観や自然と「七夕伝説」を重ね合わせるようになり、いつしか伝説にちなんだ名前があちらこちらに付けられたようです。


機物神社

 そういえば、交野のまちを歩いていると、通りの向こうに青々とした山々がいつも目に入ることに気付きます。交野のシンボルとして愛されている「交野山」をはじめとして、山地の中の代表的な自然スポットを「交野八景」として市民が親しみをこめて選定しています。実は山地も奥深く、天野川の上流に行くと、そこには古代にニギハヤヒノミコトが磐船で天から降り立ったという伝説の残る地「磐船神社」があります。取材のため写真を撮ろうとすると、神聖な場所であり、かつ集中しないと怪我をするような修行場だからやめておくように言われました。なるほど「岩窟巡り」では、巨岩が積み重なり、その隙間を半ば這いつくばるようにくぐり抜けていきます。途中、岩の間の真っ暗な空間に出たところで、厳かな雰囲気の高まるようなブツブツという効果音が聞こえてきました。と思ったらなんと、行者さんが着るような服装のおばあさんが正座していて、ろうそくの灯りが揺れる中で、一心にお経を唱えていらっしゃいました。先ほどまで交野の市街地にいたとは思えないような、異界体験でした。
 交野は、異なる時代の異なる世界が唐突にパッチワークされたかのような、全く一言では言い表すことができない魅力的なまちです。一度当てもなく訪れてみることをお勧めします。


田園風景

岩窟巡りの一場面(入口付近)