アルパックニュースレター194号

すべてはだんじり祭りのために

執筆者;都市・地域プランニンググループ 坂井信行



 

 岸和田は言わずと知れただんじりのまちです。だんじりが曳行されるだんじり祭は、海側では9月、山側では10月に執り行われます。最も多くのだんじりが集まる岸和田地区の祭りは、かつては9月14・15日だったのが、近年は土日になったそうです。今年は19日が宵宮、20日が本宮でした。例年、祭りの当日は多くの観光客で賑わいますが、実はだんじりが見られるのはこの2日間だけではありません。本番さながらに試験曳きが行われるのをご存知でしょうか。地元の人たちにとっては、試験曳きも合わせて一連の祭りと捉えられています。むしろ観光客が少ない試験曳き日の方がゆっくりとだんじりを楽しめるのです。
 だんじりのハイライトは、何と言っても道路の曲がり角を勢いよく曲がる「やりまわし」です。スピードを落とさず、いかに速く、格好良く通り過ぎるか、曳き手たちの技の見せどころです。だんじりの前方で綱を引く綱元、梃子を差し込んでコマをコントロールする前梃子、だんじりの向きを変える後梃子、そしてだんじりの上から合図を出す大工方の絶妙のコンビネーションがやりまわしを支えています。試験曳きとはいえ、沿道には見物者も多いのですが、やりまわしが行われる場所では危険なため、ぼーっとしていると誘導係の人に怒鳴られてしまいます。予行演習なのにテンションが非常に高いです。
 岸和田のだんじりの歴史は1700年ごろに遡り、岸和田藩第三代城主の岡部長秦公が京都伏見稲荷を三の丸に勧進して五穀豊穣を祈願した稲荷祭の際に、太鼓打が乗った神楽獅子台が城内に入ったのが起源と言われています。近年は見せ場であるやりまわしをはじめ、法被、地下足袋、ハチマキなどのファッションにもこだわり、もともとにぎやかな神事は、ラテン系のフェスティバルとしての性格がますます強くなってきているのではないでしょうか。
 城下町でかぎ形の道路も多い岸和田は、やりまわしのステージとしては最高のまちであるとも言えます。やりまわしがスムーズにできるように路面は調整され、電線などもだんじりの高さを考慮して配架されています。鍵形の道路を改良して交通の流れを円滑にしようといった、通常の都市計画の発想は、おそらくこのまちにはないでしょう。岸和田では都市の空間も、そこでの日々の暮らしも、全てはだんじり祭りのためにあるのではないかと思えるのです。
※写真はすべて試験曳きの日のものです。


 明日の曳き手を夢見て