アルパックニュースレター196号

第9回CITÉまちづくりシンポジウムが開催されました

執筆者;地域再生デザイングループ/中塚一・羽田拓也

 今年度のCITÉさろん主催のCITÉまちづくりシンポジウム「大都市戦略と地方創生~大阪が取るべき都市の戦略とは~」が2016年2月9日に開催されました。
 基調講演として昨年8月に策定された「大都市戦略~次の時代を担う大都市のリノベーションをめざして~」の内容を中心とした国の大都市戦略に係る考え方などを国土交通省の英直彦(はなぶさ なおひこ)市街地整備課長に基調講演としてお話いただきました。その後、大阪の都市再生に携わる官民様々な立場の方々によるパネルディスカッションで、大阪における大都市戦略の方向性と取り組みについてご議論いただきました。

関西圏・大阪の都市再生に向けて

 英課長の基調講演では、大都市戦略策定に係る検討のプロセスで議論された、都市政策を取り巻く状況や方向性についてお話いただくとともに、都市再生に関わる国の施策についてご紹介いただきました。以下、主な内容をご紹介します。
<都市政策を取り巻く状況>
 人口減少が進む中で、街区の再編や建物の更新・不燃化、防災力強化などを通して、いかに市街地の密度や魅力を保ち、公共交通を維持・機能させていくのかというこれまでと全く違う局面に入っていくことになる。
 その中で、大阪を中心とする関西圏の課題として、時代に合った開発をすすめるための街区の再編、災害対策としての南海トラフ地震への対応や木造密集市街地の改善などが挙げられる。魅力としては、大阪が研究開発分野で国際的に高い評価を得ていること、世界文化遺産や国宝が関西に多数あるなど、関西発祥の伝承文化が多いこと、医薬品関係を中心とした集積やトップレベルの研究が行われていることなどがある。
<都市政策の方向性>
 昨年策定された「国土のグランドデザイン2050」では、(1)都市再生の好循環、(2)大都市「コンパクト+ネットワーク」の形成、(3)災害に強い大都市の構築の3つの基本方針をもとに取り組むことが示されており、それに基づき、都心部の国際競争力の強化、高齢者の急増等への対応、大都市の防災機能の強化、大都市圏内の機能分担、役割分担等の観点で展開していくために、制度改正等を含めて進めていくべきである。
<都市再生に係る国の施策>
 民間開発の誘導につなげるための規制緩和や税制、金融支援を行っての計画的都市開発を進める都市再生緊急整備地域などの都市再生制度がある。また、民間デベロッパーによる事業計画を国が認定することによって、金融支援や税制支援が受けられるようにするなど、都市再生特別措置法等の一部改正が行われた。

大阪における大都市戦略の方向性と取り組み

 パネルディスカッションでは、橋爪紳也大阪府立大学21世紀科学研究機構教授をコーディネーターとして、川田均氏(大阪市都市計画局長)、野島学氏(公益社団法人関西経済連合会産業部長)、勝見博光氏(株式会社グローバルミックス代表取締役)にパネリストとしてご登壇いただきました。
 冒頭、橋爪先生から「『次の時代を担う大都市のリノベーションをめざす』ということが重要。我々はこれから、従来とは違う大都市をつくっていかなくてはならない。東京が世界の各都市と対抗し、急成長するアジアの都市に負けない存在感を示そうとしているなかで、大阪は大都市戦略をもってどう将来を描いていくのか。」という投げかけがなされました。
 各パネリストからは、大阪・関西において進行中、あるいは、構想段階のプロジェクトなどについてご紹介いただきました。あわせて「先駆」「国際・広域」「長期」的な視野での都市再生の展開、まちづくりと産業政策を一体とした大都市戦略の構築、これまでの都市再生で培ってきたノウハウを生かした官民連携の取り組み、産業分野を中心としたイノベーションが生まれるプラットフォームづくり、IRなどのプロジェクトを進める場合スピード感ある進め方、などが重要なキーワードとして語られました。
 大阪及び関西はいま、インバウンドによる観光産業が賑わいを見せています。しかし、大阪全体の経済を俯瞰すると、やはり、観光戦略とともに早急に新たなイノベーション産業を創り出していく戦略が必要であると考えます。モノや情報が世界を駆け回るスピードは、さらに加速している時代だからこそ、「年収は『住むところ』で決まる-雇用とイノベーションの都市経済学(著:エンリコ・モレッティ)」で提示されているように、ローカル・グローバル・エコノミーが重要であると今回のシンポジウムで再認識しました。

英課長による基調講演
英課長による基調講演
パネルディスカッション
パネルディスカッション