アルパックニュースレター199号
地域から少子高齢化への対応を考える その17
~企業誘致が成功した人口増加自治体とその条件~
普通の自治体にとって参考になる自治体
前々号(197号)では、「人口増加の参考になる可能性がある自治体」として、1995年から人口増加が継続しており、かつ昼夜間人口比率(夜間人口100に対する昼間人口の比率)が95以上(2010年)の基礎的自治体を抽出し、145の市区町村(東京都の特別区も含む)を挙げました。この中から、大都市圏というアドバンテージを持たない地方部の市町村を対象に、増加要因を考察します。なお、対象から除外する大都市圏は、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県の一都七県)、中京圏(愛知県、岐阜県、三重県の三県)、近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県の二府四県)とします。このように大都市圏を除くと、69市町村が対象となります。人口増加の参考になる可能性がある145の基礎的自治体のうち、半数近くの69市町村ですから、地方部において人口面で頑張っている自治体数は、大都市圏と比べて遜色がないと言えそうです。
ただ、普通の自治体にとって参考になりにくい自治体は除くことにします。具体的には、社会経済的ストックが大きい地方中核都市等(県庁所在都市も含む)の16市と、自衛隊基地や大規模発電所等の特殊要因の影響が大きい9市町を除きます。こうして普通の自治体が参考にできる自治体は、44市町村に絞られ、これらについて分析を進めます。
人口増加自治体の多くは企業誘致に成功
こうした44市町村の人口増加要因について、それぞれの自治体の沿革、産業構造(業種別従業者数の構成比や立地企業等)を分析して考察すると、土地区画整理事業や埋立造成等の基盤整備が進められ、製造業をはじめ運輸業や卸売・小売業等が主要産業となっている市町村、すなわち企業誘致に成功した市町村が31市町村と最も多くなっています(図1)。戦後、全国各地で地域活性化のため数多く取り組まれた企業誘致が、一つのモデルを確立していると言うことができます。ただ、あれだけ多くの自治体が企業誘致に取り組んだにもかかわらず、地方部では31市町村しか、このモデルを実現できていないということは、企業誘致を成功させることは、何処でもできる訳ではなく、何らかの条件が揃うことが重要だと思われます。

図1.人口増加の参考になる自治体の抽出プロセス
ベッドタウンと企業誘致の組み合わせ
そこで、対象となる31市町村を眺めると、いわゆるベッドタウン的要素を持っている市町村が多いことに気がつきます。とは言っても昼夜間人口比率95以上の市町村を抽出しているのですから、単純なベッドタウンではありません。近隣の地域中心的な都市に、夜間人口の増加分をベッドタウン的に依存しつつ、同時に企業誘致によって昼間人口も増加させ、昼夜間人口比率95以上を確保しているようです。したがって、近隣の依存できる中心都市がなければ、少なくともこれだけの夜間人口の継続的増加は実現できなかったであろうと考えられますし、昼間人口(従業者)の一部も中心都市の需要に対応していると考えられます。
ベッドタウン的要素の強い自治体を「依存型」、そうでない自治体を「自立型」と仮に呼び、次頁の表1に整理したところ、21市町村が依存型に該当しました。すなわち、近隣に依存できる中心都市が存在することは、企業誘致で成功する重要な要因になりそうです。
なお、ベッドタウンの定式化された判断基準は存在しませんので、本稿では仮に国勢調査(2010年)を用いて、(1)常住就業者の5割以上が流出する市町村、(2)最多流出先への流出率が2割以上の市町村、のいずれかに該当すればベットタウンとして判断することにしました。また、企業誘致に成功した31市町村の中には、企業誘致とは関わりのない農業等も主要産業となっている自治体も含まれています(表1の※印)。このような自治体では、企業誘致以外の成功要因も想定され、より多面的な要因考察が必要であり、今後の考察課題だと思います。

表1.企業誘致が成功した人口増加自治体のタイプ分類
高速道路は不可欠な要素
さらに、この企業誘致が成功した人口増加自治体を日本地図に落とすと、見事に高速道路沿いに位置する市町村に限られています(図2)。したがって、高速道路抜きに、企業誘致に成功することは極めて難しいと認識すべきでしょう。しかも、この地図を眺めると、該当する多くの市町村は単なる高速道路沿いではなく、国土の主軸沿いに位置していることがわかります。そういう意味では、国土の主軸から少し離れた芽室町(北海道)、東根市(山形県)、聖籠町(新潟県)、佐久市・宮田村(長野県)、白山市・川北町(石川県)、時津町(長崎県)などはレアケースかも知れず、これを教訓として活かすことができれば、重要な参考情報になると思われます。

図2.企業誘致が成功した人口増加自治体の位置と高速道路網
アルパックニュースレター199号・目次
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- 書類の山との闘い/移転計画チーム 柳井正義
- 顛末記番外編 移転カウントダウン/移転情報発信チーム 中村孝子







