アルパックニュースレター199号

延命新地
~昭和のノスタルジックな路地を探訪して

執筆者;都市・地域プランニンググループ 水谷省三


 

 JR大阪駅から新快速で近江八幡駅まで行き、そこから近江鉄道に乗り換え、八日市駅までやってきました。行程約90分で到着です。
 延命新地は、滋賀県東近江市の近江鉄道八日市駅の東側に面した旧市街地です。その地名からも想像できるように、かつての花街で湖東随一の繁栄した街だったようです。今の街の姿は、営業する飲食店もまばらで、店を閉めたスナックやバーの軒先看板が連なっている様子が寂しさを感じさせます。
 こうした街の表情をもつ延命新地は、2~3m程度の細い路地が入り組み特徴的な街を構成しています。一歩細い路地空間に踏み入ると、通りに面してベンガラ色の出格子をもつ町家や二階の手すり窓が特徴的な町家が現れ、昭和初期の趣きある街並みや路地の狭さが地域の生活を間近に感じさせます。これらの町家とかつての飲み屋店舗が混在する、この地独特の昭和レトロな感じが、懐かしさを誘います。また、高密度に飲み屋があるトンネル状の路地もあります。残念ながら大半のお店は閉められており、人の姿は見られないため、通り抜ける時には、ちょっとした冒険心が湧き上がります。
 延命新地の魅力は路地空間だけではありません。東側に面する商店街の中に、ヴォーリズの建築物が残されていたり、今も営業している延命湯という銭湯もあり、生活・文化を感じさせます。
 この他、延命新地の北側の街区を占めるように、老舗料亭の招福楼本店があります。規模の大きな敷地のため道路から中の様子はうかがえませんが、通りから見るこの料亭の表門付近は、鬱蒼とした樹木が並び砂利が敷き詰められ、あたかも庭園や寺院の中に入る印象を受けるような場所です。「日本の料亭紀行」の中でも、霜月の料亭として紹介されており、創業明治元年の格調高い料亭です。
 最近、発表されたことですが、この延命新地に隣接して八日市駅の南隣りに、新たな宿泊施設(ホテル)が立地する予定です。すでに建設が始まっており、この一体の市街地活性化に期待されています。今後、このホテルの宿泊者が延命新地の路地を散策したり、飲み歩きしたりする日がくるかもしれません。


ちょっと老朽化した町家

トンネル路地のなか