アルパックニュースレター159号

水辺のアート発信地“クリエイティブセンター大阪”

執筆者;大阪事務所 森脇宏

産業遺産を活用した複合イベントスペース

 河川筋に発達した大阪港の内港部分、木津川沿いの名村造船所跡地が、いまアートの一大発信地として賑わいつつあります。クリエイティブセンター大阪(略称CCO:Creative Center OSAKA)という名称で、毎週、週末には何かイベントをやっている状況です。
 主な施設(イベントスペース)としては、BLACK CHAMBER(イベントホール、工房、ギャラリー等、様々なジャンルの創作活動に対応できるスペースを備えた複合施設)、STUDIO PARTITA(音楽イベント・ライブに最適なホールで、スタンディングキャパシティ約700名、リハーサルスタジオとしても利用可能)、屋外エリア(RED FRAME、BLUE FRAME、FLOATING STAGE等、野外イベントの他、映画や映像、スチール撮影も可能)などがあり、その他にも幾つかのイベントスペースがあります。
 ここの特徴は、多様な施設があることから、演劇、演奏、ダンス、展示、ディスコなど、様々なイベントが同時に開催できるため、文字どおり複合イベントスペースとして利用できることです。しかも、水辺の産業遺産という特異で非日常的な空間であり、周辺が工場地域ということもあって、音響なども気兼ねしないでいいことから、開設以来、人気が上昇し続けています。こうした特徴によって、海外からの問い合わせや視察も多いと聞いています。
 ちなみに、2007年には名村造船所跡地として、経済産業省の「近代化産業遺産」に認定されています。

アート発信の経緯

 こうしたアート発信地としての展開が可能になったのは、小原啓渡氏(大阪市立芸術創造館館長)の役割が大きかったようです。小原氏は、京都市三条通のアートコンプレックス1928(元大阪毎日新聞社京都支局ビルを活用したアートの貸スペース)を立ち上げるなど、アートを切り口にしたまちづくりに関わるプロデューサーで、日本版TKTS(本号の私の新年ご挨拶をご参照ください)の開業を目指す取り組みでは、私もご一緒させていただいています。以下では、小原氏にお聞きした経緯等をご紹介することとします。
 小原氏の名村造船所跡地への関わりは、土地を所有されている千島土地(株)の芝川社長と2003年に出会ったことに始まります。芝川社長との会話で造船所跡地があることを知った小原氏が、実際に現地を見せてもらい、「これは面白い」という直感から、最初は「何日かイベントに貸してほしい」と依頼し、小原氏が親しくしている元気な制作者やアーティストに声を掛けて、2004年にイベント“ナムラアートミーティング”を開催したところ、全国から何百人も来訪者があって成功したことで弾みがつきました。
 そこで、「単発イベントではもったいないので、貸してください」と千島土地(株)に申し込み、設備投資もお願いして、2005年に常設のイベントスペースとしてオープンし、徐々に利用も増え、賃貸スペースも広がってきました。
 なお、この“ナムラアートミーティング”は、その後も毎年開催され、2034年まで続ける予定です。


ドッグ跡(右手水面)の左のSTUDIO PARTITA(奥の建物)とRED FRAME(手前の鉄骨)
出所:CCOのホームページ<http://www.namura.cc/

利用状況と効果

 イベント利用は、金土日の週末が多く、毎週だいたい何かが開催されています。イベントのジャンルや規模は様々ですが、前述のように複合イベントが得意で、2~3千人規模の大きなイベントでは重宝されているようです。
 なお、特別の宣伝はしていませんが、個々のイベントのチラシが、ここの宣伝にもなっていることから、利用が徐々に増えてきているようです。
 また、クリエイティブセンター大阪では、名村造船所跡地の中ではなく、最寄駅(地下鉄北加賀屋駅)との間に、イベントスタッフや来阪アーティストの滞在用に、アーティスト専用宿泊施設のAIR大阪を2008年にオープンしています。さらに、こうした滞在型だけでなく、この周辺に住みついて、日常的に創作活動を始めるアーティストも登場し始めているようで、こうしたアーティストに適切な物件を紹介することもしているようです。


敷地内MAP
出所:CCOのホームページ<http://www.namura.cc/

今後の方向

 こうした効果もあって、クリエイティブセンター大阪が位置する住之江区も、応援するスタンスを持っていて、北加賀屋クリエイティブビレッジ構想を策定し、アート等の創造産業を育成し発信していこうと計画されているようです。
 クリエイティブセンター大阪には、こうした発展と期待がありますが、課題の一つとしては「遠い」というイメージがあるようです。実際に行って見ますと、最寄駅(地下鉄北加賀屋駅)から徒歩10分弱で、遠いとは感じませんが、工場地域を通るため、初めての来訪者には不慣れでもあることから、アクセスルートの沿道環境やサイン設置等が望まれるところです。アクセスルート沿いに、グランドのある比較的大きな公園、屋内プール(大阪市立住之江総合会館)、神社、スーパー銭湯等があり、上手くつなげると、いい散策ルートができそうです。
 また、週末には賑わうものの、平日はリハーサルや撮影等の利用に限られ、飲食等の来訪者サービスが成立しないことも課題の一つです。アートの発信地から始まって、日常的な賑わいを形成していく試みは、まだ先が長そうですが、小原氏のチャレンジに期待しつつ、私も微力ながら応援できればとも思っています。


アプローチルート沿いの公園と屋内プール
(公園の向こう側、屋内プールの向かいにスーパー銭湯がある)