アルパックニュースレター159号

アルパック建築チーム研修報告「伝統とアートの融合」

執筆者;京都・大阪事務所/建築チーム

はじめに

 建築チームは、久々に研修の旅にでかけました。忙中閑ありか、閑中忙ありか、そこは各自不明ながら、それぞれが調整して「閑」を生み出し全員が参加しました。
 今回は、瀬戸内海に浮かぶ直島が主な目的地です。直島はご存知のように「アート」によるまちづくりを進めており、安藤忠雄氏設計のベネッセハウスや地中美術館の他、石井和紘氏設計の直島町庁舎や古い民家をアートに仕上げる「家プロジェクト」などがよく知られているところですが、私達とは、実は生野鉱山で結びついているのです。(生野鉱山は中世から続いた銀山を中心に、明治以降、フランスから招聘されたコアニエらにより鉱山の近代化が図られましたが、)生野鉱山にあった銅の製錬所を移した先が直島であり、我々は生野鉱山の文化的景観の仕事を通じて直島とも縁をもつことになったのです。いわば直島は生野鉱山の終着点といえるのです。
 さて、折角海を渡るのですから、私達はもう少し足を伸ばし、古い倉庫を活用した高松の北浜アレイや脇町の重要伝統的建造物群保存地区などをみる旅としました。
 今回の旅は古い伝統的な建物とアートが融合する接点に我々が佇むことが大きな目的でしたが、なんといっても公衆浴場(銭湯)とアートの融合である「直島銭湯」は愉快でした。それではこれから、伝統的な建築とアートの世界へご案内します。(高坂)


宇野港

宇野港

 宇野港は、一日約100便ものフェリーが行き交う、24時間眠らない本州側の海の玄関口です。瀬戸内海のほぼ中央部にあり、美しい島々に囲まれ、波穏やかな天然の良港です。古くは、付近より大阪城の築城に使用した石材を搬出したと伝えられており、明治43年の旧国鉄宇野線開通と同時に宇野・高松間の連絡船航路が開かれました。大正6年、川村造船(現三井造船)が操業開始し、造船のまちとして発展してきましたが、昭和63年に瀬戸大橋開通と同時に宇高連絡船が廃止されJR宇野線の支線化により、交通結節点としての地位が低下しています。スペイン風のJR宇野駅に降り立つと、その真正面に鎮座する産業振興ビル、その周辺は緑地として整備されています。宇野港の魅力づくりと港への賑わい創出を目的に、地元に関係する女性達が中心となって平成19年度に「うの港13」という任意団体が設立され、宇野港の活性化についてはたらきかけを行っています。アルパックもその活動の支援のお手伝いに関わり、その成果の一つとして、散策道・ベンチ、案内板・解説板の魅力化として実を結んでいます。東側隣接地にはその名の通り、「駅東創庫」という芸術家の制作工房・ギャラリーがあります。来年度には、港の目の前に浮かぶ直島をはじめとした7つの島で開催される瀬戸内国際芸術祭2010も楽しみです。ところで、どこの自治体にあるかと言えば、“宇野市”は存在しなくて「玉野市」で、知名度が逆転しています。(小阪)


宇野港駅東倉庫の発砲スチロールアート

海の駅なおしま

 フェリーで直島に着くと、「赤かぼちゃ」(草間彌生氏作)と共にまず目に入ってくる建築が「海の駅なおしま」です。妹島和世+西沢立衛/SANNA設計の直島の旅客ターミナルです。伸びやかな水平ラインと細い柱が印象的です。駐車場やカフェ、待合いスペース、観光案内所やホール、WC等が70m×52mの一枚の屋根の下におさまっています。(高坂)


海の駅「なおしま」

海辺に佇む草間彌生作のかぼちゃのアート

草間彌生氏作のかぼちゃのアート

直島町庁舎

 今や直島といえば安藤忠雄氏のイメージが定着していますが、それ以前は石井和紘氏でした。石井和紘氏と聞けば少し懐かしい響きかも知れません(失礼)。直島町庁舎はおよそ25年前の作品ですが、古建築や建築様式、果ては工芸品まで様々な「和」を幕の内弁当のようにちりばめた結果、日本を突き抜けてしまったのがこの作品です。この建築を見ていると「どこかで見たような」という気にさせられます。この庁舎は直島の「家プロジェクト」の中にあるのですが、これもその一つかと思わせるような楽しさももっています。(高坂)


直島庁舎

香川県庁舎

 直島からフェリーに乗って約1時間、高松に着くと久しぶりに香川県庁に向かいました。
 香川県庁は、ご存知のように故丹下健三氏の作品ですが、隣接する新館と比べてもそのコンセプトの明快さや、ディテールが今も印象に残ります。
 十数年前、県庁で打合せをした後に連れて行ってもらった讃岐うどんの店を探しましたが、見つかりませんでした。小さな製麺所だったと記憶しているのですが。(高坂)


香川県庁舎

本村地区アートプロジェクト

 空き家をアーティストが作品化して常設展示するアートプロジェクト。角屋始め7件のアートが点在しています。しっとりした町並みの中に突如現れるポップな「はいしゃ」や中が真っ暗で??の「南寺」など五感を刺激する作品たちでした。作品以外の民家でもカフェや雑貨店も立ち並んでいます。(鮒子田)


本村地区アートプロジェクト「はいしゃ」

地中美術館

 かつては塩田だった場所に環境に埋没する建築が安藤忠雄氏によってデザインされています。クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3人の作品を展示するための建物。作品の持つエネルギーと建物のエネルギーがぶつかり合いながらも調和する空間。ことに印象深いのは、ジェームス・タレルの光の空間でした。光の壁を突き破るという今までに味わったことのない体験です。難を言えばスタッフの対応がもう少し違ったものであれば、もっと素直に感動できていたのではないかとも思いますが・・本村地区を歩いている時に地元のおじさんたちが「『石橋』はそこやで」などとごく自然に声をかけてくれたことに何故かほっとしてしまうのでした。(鮒子田)

直島銭湯「I♥湯」(アイラブユ)

 フェリーの発着港(宮浦港)に面した通りを少し入った所に妖艶なネオンの光を放ちそれはある。
 ラブホテルかポルノ映画館かと思わせるそのファサード、アートと一体となった内部空間。その全てが芸術家、大竹伸朗(おおたけしんろう)氏の作品である。(直島の家プロジェクトの1つに、この前身となる「はいしゃ」がある。)
 正面には女性のシルエットから延びる「ゆ」の文字のネオンサインが、まるで深海でアンコウが提灯で獲物を誘うかのように我々を誘っている。少しのとまどいと大きな期待。(果たしてここは我々の知る銭湯なのか、それとも○○なのか…。)建物の中に入ると地元のおばちゃんが番台で出迎えてくれる。(少し安心。)脱衣室では縁台に埋め込まれた映像画面が○○を露わにした海女の姿を映し出している。(島の子ども達はこれを見て大人になるのか?)浴室の壁画には海女が海中に潜り獲物を採っている姿、浴槽の底にも何やら怪しい絵が描かれている。男湯と女湯の境壁の上には何故かゾウのモニュメント。その他にも洗い場の水洗やトイレの便器にまで、ありとあらゆるところに大竹氏の魂が染み込んでいる。果たしてこれは銭湯なのか、それと○○で××なブーな世界なのか。
 紙面の関係でお伝えできるのはここまで。さぁ、ムズムズしてきたあなた、今すぐ直島へGO。(原田稔)


直島銭湯「I♥湯」(アイラブユ)

宿泊はパオでした

イサム・ノグチ庭園美術館

 イサム・ノグチは20世紀を代表する彫刻家で、また庭や公園などの環境設計や、あかりと呼ばれる照明や家具の設計まで行った芸術家です。
 この美術館は、大きく3つの要素から成り立っています。
 1つめはノグチの彫刻を屋内・屋外展示しているアトリエです。有名な彫刻から制作途中の彫刻まで多数あります。石の表現も実に滑らかな磨き上げたものもあれば、粗い仕上げのものなど様々です。またアトリエを円形に囲うように地元の庵治石で盛り上げた石垣も力強いものです。
 2つめはノグチの住まいです。旧家を移築し改造したものだそうですが、内部にはノグチのあかりや彫刻があるべき位置にあるべきものとして配されています。庭の土留めのための石垣も、見ているだけで飽きないほど表情が豊かです。
 3つめは彫刻庭園です。花見や月見のための石舞台、こんもり盛り上げられた小山とそこから見る屋島、小山の裾を巡り流れるような川に見立てられた石など見どころ、というか感じどころが多くあります。
 借景にしている屋島まで含めて全体がすばらしい環境となっています。予約が必要ですがその価値のあるおすすめの場所です。(三浦)

卯建のあがるまち「脇町」

 徳島県の吉野川中流域、撫養街道と讃岐街道が交わる交通の要衝に位置する脇町は、阿波特産の藍の集散地として栄えた町です。中でも裕福な商家が軒を並べたのが吉野川畔の南町で、塗籠めの二階壁面に設けられた卯建が印象的で、間口の大きな平入りの主屋と本瓦葺きの屋根、迫力の鬼瓦、一方で通りに面した繊細な格子が、重厚かつ落ち着いた町並みを形成します。
 脇町は昭和63年、全国で28番目の重伝建地区として選定されました。現在は来訪者も多いようで、地区を貫く約400mの通りには、ついつい足を踏み入れてしまう、町家を利用した魅力的な和菓子屋や藍製品を取り扱う雑貨屋、カフェなどが営まれています。
 また地区の東側には映画「虹をつかむ男」(山田洋次監督)の舞台となった脇町劇場/オデオン座があります。オデオン座は昭和9年に芝居小屋として建てられたもので、閉館取壊しという危機を乗り越えて、現在は市指定文化財として修復一般公開、コンサート等の催しも現役で行われています。(和田)


卯建のまちなみ「脇町」

脇町劇場/オデオン座

うまいもん

 旅の楽しみは、そこでしか味わえない一品を食することに尽きると思います。この研修旅行で出会ったうまいもんたちをご紹介します。
 JR岡山駅から宇野港へ向かう途中の道の駅「みやま公園」に「たまげたバーガー」なるものがあります。「たま」は玉野市のたま「げた」は舌平目のことをこの地方では「げた」というそうです。
 この舌平目をつくねにしてあり、あっさりしながら特製タルタルソースが濃厚さも引き出しています。バンズは紫芋を練り込んであり、ほんのり紫色がおしゃれ。
 夜は直島にて「ばっしゃ鍋」、味噌味の海鮮鍋。ばっしゃとは漁船のことだそうですが、網の中で魚が「ばっしゃばっしゃ」と跳ねる音から由来するとも聞きました。カワハギやイカ、ホタテなどの味がしみ込んで、最後の雑炊まできれいに平らげたのはもちろんのことです。
 高松に渡ればもちろん讃岐うどんです。讃岐うどんはうどんの刺身と言われ、打ちたて・茹でたてが命です。うどんに歯ごたえというのも変な感じですが、まさに歯ごたえと押し戻してくる弾力感と小麦の香りが絶品でした。今回は高松市街の「さか枝」と「丸山製麺所」に行きました。時間切れで3軒目にトライできなかったのが心残りです。(鮒子田)


ばっしゃ鍋

讃岐うどん