アルパックニュースレター175号
陸前高田市の復興事業を通じて
昨年の10月末から東京事務所、大阪事務所のスタッフが陸前高田市の復興計画、事業推進の仕事に関わっています。被災した各市町村の市街地の復興計画は、市町村が独自に立案する復興計画に即して、国費(平成23年度第3次補正予算)によって調査が進められました。被災地の復興にあたって、道路、公園、港湾、河川、下水道などの基盤施設の整備とあわせ、大規模な市街地の嵩上げや移転事業が実施されますが、中でも市街地整備については広範な範囲で改善・整備が必要なため、国は市町村の意見を反映しつつ計画づくりを支援しています。国土交通省の直轄調査「東日本大震災の被災状況に対応した市街地復興パターン概略検討調査(いわゆる(2)調査)」が市町村毎に行われ、市街地復興の基本構想となっています。また引き続き「市街地復興パターン詳細検討調査その(4)」が実施され、対象となる地区毎に土地区画整理事業の基本計画づくり、あるいは防災集団移転促進事業(いわゆる防集事業)の計画づくりが行われました。
昨年度は上記の(2)調査を請け負っていた日本都市総合研究所とプレック研究所のグループに10月から加わり、人口フレームや土地利用計画の検討などを担当しました。それぞれの事業地区での詳細検討を行う(4)調査グループの成果を反映した全体計画へのフィードバックなどを支援してきました。今年になってからは、都市計画決定に関わる計画・事業コンサルタントチームの一員として、人口フレームや地域地区などを担当し、引き続き地域区分や用途地域など土地利用部門を担っています。日本都市総合研究所は土地区画整理事業の企画・立案や都市デザインを得意とするプランニングコンサルタントであり、過去にも高松港の調査や神戸東部新都心(後のHAT神戸)の当初の計画づくりにおいて我社と協働した経験があります。また、代表を務めておられる高見さん(法政大学教授)は、私が都市環境デザイン会議(JUDI)の代表幹事を務めていた4年の間にいろんな場面で相互に協力をいただいた関係もあって、気安く声をかけていただきました。
昨年度の後半以降、上記の国費調査を軸にして市街地復興計画が検討されてきた訳ですが、陸前高田市の場合には、市役所を含む市街地の大部分が津波被害にあったため、市職員も被災、行政資料は流出し、市役所など公益施設も使用不能になるなど、復旧作業や計画検討のプロセスも大変な状況の中で進められました。我々も部分的な分担ではありますが、清水君を始め坂井君や岡本君など専門分野をよくわかった所員が短期間で集中的な検討をする体制で望みました。
復興計画の進捗について
関西の人たちが経験した阪神・淡路大震災では、建物の崩壊とそれに起因する火災が被害の中心となりましたが、東日本大震災は地震に加えて津波による被害が甚大でありました。そのため復興にあたっては、建物の再建に止まらず、津波に対する安全な市街地(宅地)の確保からスタートせねばなりません。津波に対する安全性確保のため、堤防の強化と合わせ、市街地の高所への移転や低地の嵩上げが行われます。そのための手法として土地区画整理事業と集団移転促進事業(防集事業)が活用されます。このような復興事業を通じて安全な住宅地の整備を行うため、用地確保や上下水道など基盤整備に時間がかかっています。
市街地の復興にあたっては、住宅地の安全性を確保しつつ、生活の基盤となる公共公益施設や産業用地などの機能の確保が求められますが、今般の津波被害の経験から、その堤防や地盤の高さの設定が重要な要素となっています。既にご存じの方も多いかと思いますが、堤防の高さは国や県によって広域的に検討されています。明治三陸地震など数十年から百数十年の頻度で発生する津波(レベル1)を対象として堤防高さを設定する一方、今回の災害のような数百年に一度の頻度で発生する可能性のある津波の高さ(レベル2)のそれぞれの高さを設定し、レベル1の高さの津波については、生命財産の保護や地域経済活動の安定化のため堤防や地盤の嵩上げをすることとしています。一方、レベル2の災害については、住民の生命を守るため、避難、土地利用、防災施設等によるハード・ソフトを重ねた多重防御で対応するとしています。
陸前高田市は広田湾に面しており、新しい堤防高さが12.5mとなり、また平野部が大きいため広範なエリアで同様に地盤の嵩上げを行うことになっています。(今時津波の痕跡高は18.3m)
発災前の堤防高さは5~6.5mですから、新しい堤防・嵩上げの高さは、市街地の構造や取り付け道路の位置など幅広い影響があり、また多くの住民が短時間で避難可能な避難路や避難施設、防災施設の整備も必要となり、これらを条件にいれた市街地の復興が求められています。復興市街地の整備にあたっては、防災・減災に十分な配慮を行った都市構造・土地利用を新たに用意すると共に、従前の都市の持っていた魅力や都市機能を復旧し、併せてさまざまな市街地の問題点(土地利用の混在、拡散化した市街地、新たな産業機能の導入など)の問題を解決しつつ創造的な復興市街地を作っていくことが求められています。

図は東海新報(9月4日版)に掲載された整備イメージ
事業と計画の同時並行作業
陸前高田市では高台の森林や丘陵地を開削して宅地化する一方、低地部でも地盤の高いエリアでは嵩上げすることで安全な地盤高さを確保し、高台、嵩上げのそれぞれに住宅地を整備する予定です。海から丘陵部に向かって、垂直方向、水平方向にそれぞれ何メートルか市街地が平行移動することになります。
当然のことながら安全な高台の住宅地への移転意向が強く、嵩上げ地はやや人気がありません。嵩上げの盛土高さも5~8mと厚みがあるため、地盤の安定や基礎工事などで建設時に新たな費用も発生することから人気がなく、土地利用面の需給関係の調整が重要なテーマとなっています。
復興市街地の建設にあたっては、全体として市街地が高台へ移動することになりますから、移転先用地の確保が重要です。昨年の国費調査では主として土地区画整理事業を中心に検討が進みましたが、今年は移転用地の確保、被災者の移転需要、新しい都市の骨格となる道路網の検討、土工量や事業費など宅地開発の検討といった事業面の検討が進められています。
このようなフィジビリティの高い事業化検討の一方で、人口や産業、雇用や地域コミュニティの有様といった被災後の将来目標を具体化する検討作業も併行して進みつつあります。平時であれば自治体の基本構想や総合計画、産業ビジョンや都市計画マスタープランなどの上位計画に基づき、その具体化手段として市街地開発事業などが進められます。市街地の大部分が被災した陸前高田市のような場合、前提となる全体計画や上位計画も大きな変更を余儀なくされます。このような非常事態では、土地区画整理事業など実効性のある「事業」と地域住民が目標とする「計画」とが同時に検討されつつ逐次調整するといった過程を辿りつつあります。
人口の減少や製造業の海外移転など全国的な動向を背景にして、都市の復興に向けた土地需要を生み出していく必要があります。単純に従前の市街地を高台に置き換えるだけでは済まない筈ですので、新たな都市の価値を生み出すような努力が求められると思います。
![]() 嵩上げを待つ旧市役所より海岸線を望む |
![]() 外周部に立地する仮設店舗群 |
新たな市街地形成は時間との戦い
土地区画整理事業の事業期間中は建物建設がストップしますから、仮設の住宅は学校の校庭など公共用地に立地し、民間の商業サービス施設は、開発整備の予定がない市街地のフリンジ部などで仮設店舗の建設が進んでいます。
土地区画整理事業が長期化すると、これらの仮設店舗は半ば本設化し、事業が完了して都市機能の受け皿となる新たな市街地が整備された時期には既に外周部の土地利用が固定化している恐れもあります。商業施設は隣接地域との競合もあり、製造業等は事業継続・雇用継続のため、一度、市外へ転出した企業が戻ってこないなど、あまり長期化すると宅地が用意された時には既に需要が乏しくなっていることも想定され、大規模な市街地整備を短時間で行うことも要求されています。
土地利用計画の技術的な課題としては、新都市開発として当面の需要や将来の発展を展望したバランスのとれた計画を実現するという一方、事業地区外では自力再建や仮設的な市街地形成を許容しつつ、中長期的に(あるいは最終的に)まちの形が整えられるかどうかというところにあります。
![]() 陸前高田市仮設市庁舎 |
![]() この一本松は海水により枯死し、モニュメントとして保存するため9月12日に伐採されます |
専門的ヒューマンリソースの限界
陸前高田市は市街地の枢要な部分が被災し、市役所などの公共施設も全壊したため、職員の死亡や行政資料の損失などにより行政機能の回復にも時間を要しています。市内には住宅や宿泊や飲食などサービス施設も不十分なため、被災された住民と同様に日常的な生活や就労のための環境を確保しながら、復興のための仕事を進めています。陸前高田市は人口規模に比較して、短期間に多くの事業を実施する必要があり、これまでに経験のない都市計画の作業もあることから、岩手県や県内の近隣市、それに福岡県・福岡市・久留米市や名古屋市などの自治体からの出向者も復興業務や土地区画整理事業に関与しています。また都市機構も支援に入っています。
アルパックのスタッフは常駐ではありませんから、まだ苦労はありませんが、このような市職員やコンサルタントも隣接する住田町や大船渡市、背後の遠野市などに居をかまえ通勤されています。多くは民家・農家の空屋などを借用して事務所にしているようで、それぞれ不自由な業務環境を余儀なくされています。
コンサルタントについては、現在は土地区画整理事業や防集事業など宅地開発を専門とするスタッフが中心です。これから測量、用地取得、運土計画など事業費に直結する技術的検討が目白押しです。一方、町全体の復興を考えると産業や雇用、教育や福祉など幅広い分野にわたって、解決すべきテーマがあり、新しい市街地空間づくりと併行してまちづくりのソフト面を充実していくことが必要です。こういった分野についても復旧から復興への段階に来ているように思います。さまざまな分野の専門家の支援がますます必要になってきています。
アルパックニュースレター175号・目次
ひと・まち・地域
きんきょう
- まちに“小規模な連鎖”を生み出す「まちづくり会社」~ 「(株)みらいもりやま21」
清原健社長へのインタビュー /京都事務所 三木健治・大阪事務所 三浦健史 - 景観を楽しむアプローチ:近況3題/大阪事務所 絹原一寛・依藤光代
- 福井県高浜町に「はまなすBBQパーク」がオープンしました
/京都事務所 武藤健司・原田弘之 大阪事務所 高田剛司
- 西宮市のまちづくりガイドブックが出来ました~西宮市・あなたの暮らしを豊かにする12のヒント
/大阪事務所 清水紀行
- 飛翔するタイ・アジア経済と日本の中小企業/代表取締役会長 杉原五郎
- アイ・スポットNEWS/大阪事務所 絹原一寛・中塚一











