アルパックニュースレター182号

エネルギーシフトと地域づくりを訪ねる旅

執筆者;代表取締役会長 杉原五郎

 10月12日(土)より20日(日)まで、中同協(中小企業家同友会全国協議会)主催のドイツ・オーストリア視察に参加しました。スイスのチューリッヒに現地集合し、ドイツのフライブルグとミュンヘン、オーストリアのウィーンとツヴェテンドルフ・ギュッシングを訪れました。
 環境首都・フライブルグでは、土木工学を学び、都市計画・まちづくりを専門にしている村上敦さんの案内で、フライブルグでの環境・エネルギー政策を中心に、都市計画、住宅政策、都市交通政策、地域産業政策、社会政策を統合的に進めている実践事例について深く学びました。ボーバンという有名な住宅地を実際に歩いて、環境先進都市のすばらしさを実感しました。
 ミュンヘンでは、市の産業労働部門の担当者から、エコプロフィット事業(環境経営の取り組み)について、その目的と経緯、成果などについて説明を受け、環境経営の実践事例として14世紀にできたビール工場を見学しました。ドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹さん(元NHK記者)から、EUの中で一人勝ちするドイツ経済の実情と中規模企業(ミッテルシュタント、従業員500人未満)がドイツ経済の中で果している役割についてレクチャーを受けました。
 オーストリアでは、首都・ウィーンからバスで2時間ほどの所にあるツヴェテンドルフの原子力発電所を視察しました。ここは、1972年に建設に着手して、1978年の国民投票において157.6万人の賛成、160.6万人の反対という僅差で、完成した原発の稼働を取りやめた所です。原発の炉心や圧力容器の中をつぶさに見て回るという体験ができました。
 最後に、オーストリアの南部にあるギュッシング市を訪れ、バイオマス(森林と牧草)を活用したエネルギーの地産地消と地域経済活性化の取り組みについて関係者から詳細な説明を受け、現地の施設見学と地元市長との会見が実現しました。ギュッシング市は、人口4000人にも満たない小さなまちで、オーストリアの中でも最も貧困な過疎地域でしたが、バイオマス発電や地域暖房の取り組みを通じて、「ギュッシングモデル」といわれる成功事例のまちとして有名になりました。ちなみに、ギュッシングは、最近出版された「里山資本主義」(藻谷浩介著、角川新書)に詳しく紹介されています。
 全体として、今回の視察テーマは「エネルギーシフトと地域づくり」であったと実感しています。それは、フライブルグ市に典型的なように、化石燃料に依存した従来のエネルギー政策から再生可能エネルギーへのシフトを、単なるエネルギー面での転換にとどめず、都市計画・まちづくり、住宅政策、交通政策、地域産業政策、社会政策との関連を含めて、戦略的、統合的に進めている点が印象的でした。エネルギーシフトを推進していくためには、草の根からの市民運動、国および自治体の政策、それを担保する政治の力、これらの3つが大切ですが、案内をしていただいた村上さんに、もっとも重要なのは何かと質問したところ、草の根からの市民運動であるとの回答でした。地域を変えていくのは、住民・市民の熱い思いと粘り強い取り組みであると改めて痛感しました。
 今回の視察は、中同協による3回目の視察でした。2008年のブリュッセル(ベルギー)とヘルシンキ(フィンランド)視察は、「Think Small First(小企業を最優先に考える)」EU小企業憲章がテーマでした。2010年のワシントンとニューヨーク視察(米国)では、「Mind Shift(小企業中心に政策の力点を変える)」米国の中小企業政策を学びました。そして今回の視察は、私にとって「エネルギーシフトと地域づくりを訪ねる旅」となりました。


フライブルグ市(ドイツ)のボーバン住宅地

ギュッシング市(オーストリア)の
バイオマス施設の見学