アルパックニュースレター187号

津波被害にそなえた取り組みについて

執筆者;取締役副社長 堀口浩司

地区防災計画制度と地区防災計画学会

 災害対策基本法の改正(平成25年)により、本年4月から地区防災計画制度がスタートしました。東日本大震災では大規模な被害が発生し、被災者を支援すべき行政職員や役所自体が被災し、公共だけの力による被災者支援(公助)の限界が明らかになりました。行政からの速やかな支援が期待できない状況では、被災者自身が自らを守ると共に、隣近所や町内会など地域コミュニティの協力によって、災害を乗り切る必要が教訓となりました。
 この地区防災計画制度は、公助の限界と自助・共助の役割の拡大を踏まえて創設されました。地区や企業協議会レベルでの防災訓練や発災後の活動などをそれぞれの地区防災計画として定め、市町村の地域防災計画の中に位置づけできるという趣旨です。
 アルパックでは各地で地区計画制度の運用や地区計画そのものの策定に関わってきましたが、地域防災計画と地区防災計画は、都市計画と地区計画との関係で考えています。この地区防災計画策定のためのガイドラインづくりのため(一財)関西情報センターと協力して、各地の活動事例やルールづくりなどを調査してきました。
 今年からモデル地区の調査に入ると同時に、行政や研究者、防災士など関係する人達によって、地区防災計画制度の普及啓発や調査研究のために、地区防災計画学会(仮称)が発足しました。いわゆる「学会」としては、一定の活動実績を経て、日本学術会議協力学術研究団体としての指定を目指して活動をはじめています。

日本都市計画学会の3支部の連携事業

 『南海トラフ巨大地震』にそなえ、全国各地でさまざまな取組が進められています。紀伊半島、四国南部、九州東部の沿岸部ではリアス式海岸の地形、漁業を中心とした生業、集落の人口減少や過疎化・高齢化など類似の問題点を抱えており、地震と津波の被害を軽減するべく、各地で行政は高台への移転やインフラの整備、あるいは住民や地域コミュニティレベルでの避難訓練など多様な取組が行われています。
 日本都市計画学会の九州支部、関西支部、中国四国支部では3支部が連携した研究交流活動の一環として、上記の3地域における震災への備えとして、地域振興策とまちづくりの視点から、連続したシンポジウムやワークショップを開催しつつあります。このような公開の議論に先立ち、私が参加する研究会では奥尻島、玄海島、三陸地域など復興過程の研究を経て、発災時の被害軽減とその後の復興にそなえて事前に何をするべきかを検討してきたところです。
 第一弾として九州(大分)シンポジウムを開催し、これから関西(和歌山)と広島(都市計画学会全国大会)でのワークショップ、四国(高知)でのシンポジウムなど連続開催を予定しています。
5月に開催した大分のシンポジウムでは、町内会などコミュニティレベルでの避難活動や防災活動の実践報告と発災後のまちづくりへの課題について地域の活動家と専門家との議論を行いました。このシンポジウムで指摘されたのは、(1)避難対策は非常に重要であり、常に取り組むべきものである。過去の災害経験や復興現場からの報告から、(2)事前の平常時の取組が被災後のまちづくりに役立つ、(3)平常時の準備は地域コミュニティの力が基本である、といった点でした。
 この成果を更に進め、10月には和歌山県で行政職員を入れたワークショップを行い、高台への移転や市街地の再編、地域産業の復興など「生きのびた後の地域再生」に焦点をあてた議論を展開したいと考えています。


シンポジウムの様子

「津波防災に取り組む町」広川町の看板(和歌山県)

都市計画のこと

 将来予想される大規模な災害に対し、その被害を最小化するための準備として、避難訓練や防災対策を行うことが喫緊のテーマであり、当面は避難地や避難路の確保、非常時の避難所や仮設住宅用地の調査など、今すぐに着手すべき課題です。更に中長期的には、安全な高台への道路網の整備、低地部の土地利用転換や中心市街地の再編、森林や農地と都市的土地利用の調整など、都市・地域の構造を大きく変更するような要素を持っています。その一方で、水産業を中心とした地域経済の変化、高齢化や人口減少による山間集落の衰退など、地域の生業と土地利用との関係も密接な関係を持っています。
 地域を支えるマンパワーが乏しくなり再生のための活力が維持できるかどうか、あるいは行政の財政事情が厳しい中、災害に備えた大規模な土木事業を進めるのは困難、災害後の復興まで考えるのは更に難しいといった諦めムードもあります。しかし、このような困難な状況がありつつも、人的被害や市街地の損壊を低減し、被害から癒やされる期間を最短とするため、事前の準備への取組みが必要です。
 リアス式で平野部が少ない土地条件では、災害が起こって最初に必要となる仮設住宅や災害公営住宅の建設、安全な高台などへの移転など、将来のまちづくりを展望し、緊急時に必要となる土地の手当を予め準備していくことも必要です。
 地域の生活と市街地の将来像について、産業、観光、福祉、教育、自然保全など複数の視点から、身の丈にあったまちづくりをじっくり議論しておくことが重要であり、復興まちづくりを今から進めていく上での条件と考えられます。
 災害からの復興を意識しつつ、中長期のビジョンを持って、それを実現するためのアクションを具体的に考えていくことが重要です。地区レベル・コミュニティレベルでそれぞれの将来像、生活像を考えていくことが、地区防災計画の成果を上げ生き延びた後の展望を有意義なものにすると考えられます。
(日本都市計画学会理事、関西支部長/地区防災学会理事)


津波避難場所の標識:臼杵公園

津波避難場所の標識:臼杵公園

避難ループ橋:臼杵城跡