アルパックニュースレター187号

小学生たちが、地域の営みについて「聞き書き」をしました

執筆者;都市・地域プランニンググループ 依藤光代・絹原一寛

 和歌山市の山東盆地は、市の南東部に位置し、里山にぐるりと周りを囲まれています。そのため市街地とは風景が全く異なっており、田園が広がり、谷間の斜面にはみかん畑のある、独特の景観が見られます。
 これまで山東盆地では、まちづくりや風景づくりのために、地元の方々が「山東まちづくり会」を結成し、田園や自然にぴったりのイベントを開催されてきました。例えば、藁でつくった案山子を募集する「案山子コンテスト」や、切り出した竹2万本を並べて火を灯す「竹燈夜」などです。
 これらの地域の活動を応援するために、和歌山市が「景観まちづくり地区」の創設に向けて検討を始めており、その第一号の地区指定に向けたワークショップを開催しています。アルパックは、これらの取り組みをお手伝いしています。


 

 農村での暮らしは、周りの自然と共生しながら営まれてきたもので、一見するだけでは分からない意味が隠されています。そこで、まずは地域の営みを掘り起こすため、小学生による「聞き書き」を行いました。8月下旬の夏休みも終わる頃、和歌山市立東山東小学校の「若竹学級」の児童15人に参加してもらい、地元のおじいさんに「語り手」として、地域の昔の暮らしと今の暮らしをお話ししていただきました。
 少しだけ内容を紹介しますと、むかし男の子たちはウサギを追いかけて野山を走り回ったこと。雨が降った後の川には大きな魚が流れてきており、それを捕まえたこと。田植えの時期に田んぼにコイを放して成長させ、稲刈りの時期につかまえて売ったこと。年に一回、北池の水を抜いて、大きな網で魚を獲ったこと。
 若者がたくさんいたころは、伊太祁曽(いたきそ)神社の祭りでは神輿3台がぶつかり合い、勇壮な眺めだったこと。地域のこどもはタケノコを傷つけない上手な掘り出し方を教わって、親を手伝ったこと、など。話しを聞いていたこどもたちの中にも、タケノコの掘り方を知っている児童がいて、地域の知恵は受け継がれていることも分かりました。
 色々教えてもらい、こどもたちは熱心にメモを取っていました。そして最後は、「聞き書き新聞」として、まとめてくれました。
 これまでも山東まちづくり会が中心となって、小学校のこどもたちに田んぼでのどろんこ遊びを体験してもらうなどの取り組みを続けてこられています。今回の「聞き書き」も、こどもの地域学習の一つとして、今後も継続していくことができればいいなという声も出ています。
 わたしたちを取り巻く生活環境は大きく変わっており、地域の営みも意識的に受け継いでいかないと、長い年月をかけて蓄積された自然との関わり方や生活の知恵の継承が途絶えてしまいます。営みの意味を共有し、次に伝えるための第一歩として、こどもによる「聞き書き」は役に立つのではないでしょうか。
 農村地域の景観もまた、営みの結果として立ち現れるものであり、地域固有のものです。営みの意味を語り継ぐ中で、風景の大切さを認識し、地域のみなさんで風景づくりに取り組んでいくことも、大切なことだと思います。