アルパックニュースレター192号

『三度戦争に行った父と私の物語』

著者:たなかやすこ 発行者:たなかやすこおはなしの会 紹介者;建築プランニングデザイングループ  鮒子田稔理


本表紙

 昭和30年代半ば、法円坂のマンションで暮らす2組の若き夫婦。一組は私の両親で、もう一組がこの本の著者、たなかやすこさんご夫婦でした。
 今で言うところの「ママ友」です。
 たなかさんはその後羽曳野に移り住みましたが、平成6年に父親の看病をするため、生まれ育った空堀の実家へ帰り、60歳を前にして両親を看取り、その後夫も亡くなりました。残されたたなかさんは30歳代より患っている糖尿病のため、60歳まで生きられないだろうと年金なども解約していました。働きにでる体力もありません。食べていくために自分にできることは何かと考えたとき、晩年の父が好物のエンドウ豆の天ぷらをあてに1合の晩酌で上機嫌になり、澤井亭の寄席でエンタツ・アチャコの早慶戦の面白かったことや戦争体験などをきっすいの大阪弁で語ってくれたことを思い出し、「そうや、これをおはなしにして語ろう」と決めたそうです。
 平成8年から「おはなしのたび」というミニコミ誌を自身で製作し、生まれ育った空堀のことや昔から語り継がれてきた物語などを語るおはなしサロンを築100年の空堀の自宅で月一回開いてました。
 まだ、おはなしでお金をもらうということもあまりない時代でしたが、「私にはこれしかない」ということと、「誰かが語り継いでいかなければいけない」という使命感があったのではないかと思います。
 おはなしサロンは徐々に共感する人が増え、学校や保育園などにも呼ばれておはなしをするようになり、第9回なにわ大賞も受賞されました。
 戦後70年を機に亡き父から聞いた戦争体験や自身の生い立ちをまとめた「三度戦争に行った父と私の物語」を自費出版されました。
 三度の戦争とは上海事変、日中戦争、そして太平洋戦争です。
 太平洋戦争も終わり、自宅はかろうじて戦災を免れ戦後、捕虜となっていた父、茂さんも終戦1年後に無事に帰って来たという喜びも束の間、戦前営んでいた工場は得意先に預けていた機械が焼失したため再開することができず、一家の生活の困窮は続き、駄菓子などを売って生活費を稼ぐ日々が続きました。
 そんな戦中戦後の暮らしぶりは、辛く悲しい物語ばかりでもなく、戦後の混乱を生き抜く大阪人のたくましさやユーモアのエッセンスも含まれています。
 5月には、毎年行っている「おはなし会」が開催され、この本の一部も披露され、約200人の方がたなかさんの柔らかな大阪弁のおはなしに聞き入りました。「たなかやすこおはなし道場」では後継となる方も育っているようです。
 慎ましく生きる人々の夢や暮らしが無残に奪われる戦争の悲惨な現実を語り継ぐことの大切さを感じさせてくれる一冊です。
 樽本修一さんが描く表紙のまちなみのスケッチも心をほっこりさせてくれます。
 自費出版のため、お問い合わせは
たなかやすこさん 06-6765-5571
定価800円(税込み)送料別