アルパックニュースレター183号

「あん’ず三山木」が竣工しました

執筆者;建築プランニング・デザイングループ 山崎博央

 近鉄三山木駅の改札を出てコメダ珈琲横の歩道を北上すると、白い板塀に囲まれた2階建ての建物が見えてきます。パッと見は「これが福祉施設?」という感じかもしれません。これが社会福祉法人京都ライフサポート協会の新しいケアホーム「あん’ず三山木」です。
 この施設では主に知的障がい者向けの共同生活介護事業、短期入所事業、居宅介護支援事業、相談支援事業の4つの事業が行われます。メインとなる共同生活介護事業所(ケアホーム)は、5名で1ユニットとなっており、各階に1ユニットずつ、計2ユニットあります。各ユニットにはそれぞれケアホームに必要な設備を配置しており、各々が単独の事業所として成り立つようにしています。また各ユニットには短期入所用の部屋を2室用意しており、計4室で受け入れられます。
 場所は京都府南部、京田辺市の三山木地区特定土地区画整理事業の地区内で、駅前の一帯はマンション、戸建て住宅、銀行、カフェや診療所など、新しい町並みが形成され始めています。
 敷地は近鉄電車の線路のすぐ横で、三方が道に囲まれた少し変形ですが広さは申し分のない土地です。法人の樋口理事長は「駅から歩いて行ける距離感」を大切にしており、その意味でこの場所は、立地として最適な場所でした。

法人の理念、理事長の思い

 樋口理事長とは、知的障がい者入所施設「横手通り43番地 庵」の設計からのお付き合いで、10年以上になります。
 「誰もが地域の中で、ありのままに、当たり前に働き、暮らすことのできる社会の実現に寄与する」という法人理念のもと、10年経ってもぶれない言動は、設計監理させていただく上でとても安心感がありました。理事長の「福祉施設っぽくしたくない」という思いも10年前から変わっていません。例えば、利用者にとっても働く人にとっても、かっこよかったりおしゃれであったり、そんな場所で過ごしたい、働きたいのは誰しも同じです。安全や管理について気を配るのはもちろんのこと、その上で「普通はどうなのか?」を考え、利用者や働く人の立場にたって施設がどうあるべきかを考えていく理事長のスタンスは、設計者のそれととても近いものがあります。
 福祉施設だからといってあきらめるのではなく、やる気一つで実現は十分可能なこと。常に新しいものを目指し具体的な行動でもって示していく樋口理事長には、物事の考え方や進め方についても色々とご教示いただいています。


南側外観:お庭では移動販売車でのケーキやお菓子の販売を検討中

ケアホーム入口:白塀にブルーの門扉が印象的です

西側外観

こだわりの壁とこだわりの庭園

 今回の建物は鉄筋コンクリートの壁式構造を採用しており、柱・梁から成り立つラーメン構造に比べて壁面が多い建物構造となっています。そのため壁をどう見せるかがデザインのポイントでした。
 こだわりの壁なのでありきたりではダメ、街ゆく人に「いいな」と思ってもらえるようなものにしたい、という思いを受けて選んだ素材が「火山噴出物・シラス」を活用した塗り壁材。調湿や消臭など機能的な特徴が注目される材料ですが、100%自然素材で見た目の質感も良い。色調的にもまちの景観に調和して、昔からずっとここにあるような、落ち着きのある風合いとなりました。
 室内はドンドンと踏み鳴らす癖がある方もいるということで、コンクリートの上に厚み12㎜のコルクフローリングを敷き、下階への音を軽減させるとともに、利用者の足腰に負担のかかりにくい素材を選定しました。
 また、庭のデザインはライフポート協会の建物には欠かせないFlowerGardenHanakoの柴田さん。植栽と石とオブジェで表現された庭は「地域の中で、ありのままに、当たり前に」という法人の理念を巧みに物語っています。門扉には「フニクリフニクラ」の楽譜の1フレーズを埋め込みました。利用者だけでなく通りがかりの子どもたちも、つい口ずさみたくなるような楽しげなフレーズです。


植栽と石とオブジェで表現された庭

庭で休む小人

地域の人が気軽に寄れるお庭

明るく開放的なLDK。床は12mm厚のコルク素材

地域とともに

 ホーム責任者の濱村さんは、竣工後ご近所の方に「説明会で言ってた通りになったね。まちに調和してる」と言われてとても嬉しかったそうです。
 地域に根差した事業を目指し、今後は自治会への参加等、地域とのかかわりをさらに深めていくことも考えておられるとのこと。福祉事業を障がい者の為だけのものではなく、広く地域へ貢献するものへ、という考えのもと、地域とより良い関係を築くことが、障がいをもった方の今の生活を、よりよい未来へとつなげられることを信じてこれからも事業を進めていくとのことです。

アルパックニュースレター183号(新年号)・目次

2014年1月1日発行

新年の挨拶

ひと・まち・地域

きんきょう

『創始者に聞く』

まちかど