アルパックニュースレター183号

「入り待ち」の風景、宝塚・花の道

執筆者;都市・地域プランニンググループ 坂井信行


 阪急宝塚駅から宝塚大劇場前にいたる道は、車道より一段高くなった歩道部分が樹木や花、彫刻などで彩られ「花の道」と呼ばれています。宝塚歌劇へと続く花道という意味だそうです。ある休日、花の道を歩いて行くと大劇場のまわりで人だかりができていました。楽屋口あたりにカメラを持ったたくさんの人が並んでいます。劇場に入るタカラジェンヌをファンが待ち受ける、いわゆる「入り待ち」です。お目当てのタカラジェンヌが来るとみんなが一斉にシャッターを切るのです。
 宝塚大劇場ができたのが1924年(大正13年)、この風景がいつ頃から見られるようになったのかは定かではありませんが、このあたりの名物風景になっていることは間違いありません。近くには大劇場の他に、宝塚ともゆかりの深い手塚治虫記念館、英国風庭園を中心にした宝塚ガーデンフィールズ、宝塚音楽学校の旧校舎を活用した宝塚文化創造館などもあり、休日には結構にぎわっているのですが、その中でも入り待ちの風景は際立っていました。
 宝塚はもともと温泉地でもありましたが、箕面有馬電気軌道(現阪急宝塚線)の開通後、リゾート地・娯楽地としての開発が進み、花の道の周辺は宝塚新温泉、宝塚ファミリーランド、宝塚ガーデンフィールズと変遷してきました。また宝塚歌劇は阪神間モダニズムのいわゆるハイカラ文化のイメージとも結びついて、「タカラヅカ」の独特の文化を生み出してきました。花の道はこの界わいでもこうした雰囲気をもっとも感じさせる場所ではないでしょうか。
 実は、宝塚ガーデンフィールズは2013年のクリスマスイブをもって閉鎖予定です(原稿執筆時点)。跡地利用の内容によっては界わいのイメージにも大きな影響を与えるかもしれません。このため、跡地利用を考える際にはこれまで受け継がれてきた場所の記憶を大切にしてほしいものです。場所には様々なものが宿り、そこに記憶の風景が生み出されます。人々の行為も場所と結びついて印象的な風景となります。「入り待ち」の風景はこの地に受け継がれてきた記憶の風景といえるでしょう。


宝塚のシンボル「花の道」

アルパックニュースレター183号(新年号)・目次

2014年1月1日発行

新年の挨拶

ひと・まち・地域

きんきょう

『創始者に聞く』

まちかど