アルパックニュースレター160号

周南市中心市街地活性化に向けた社会実験

執筆者;京都事務所 石本幸良・松尾高志 大阪事務所 山本昌彰

◆はじめに /京都事務所 松尾高志

 全国的に高齢化社会が進展する中、中心市街地の活性化は、高齢者が車に頼らずに日常生活を送れる場所をつくるという意味で、地方都市では大変重要な課題になってきています。弊社でも様々な地域で活性化の取組のお手伝いをさせてもらっていますが、昨年末に、山口県周南市で、市民と行政が協働で活性化の社会実験の取組をお手伝いしましたのでご報告させてもらいます。
 周南市は平成15年に徳山市と新南陽市、熊毛町、鹿野町の2市2町が合併して誕生した市で、瀬戸内海に面してコンビナートが拡がる山口県有数の工業都市です。新幹線停車駅でもあるJR徳山駅前周辺は、かつては山口県一の賑わいを誇る商店街でしたが、郊外型SCの出店により賑わいが低下し、空き店舗の増加等、空洞化が進んでいます。その対応策として、周南市では、老朽化した駅ビルの建替えや駅前広場整備を柱とした駅周辺整備事業に取り組む一方で、平成18年度から市民と行政が同じテーブルで活性化方策を考える公・民連携まちづくり委員会を立ち上げ、検討を重ねていました。そして、今年度は、検討だけでなく、実際に活性化に向けたアクションを起こしてみようということで、活性化に関する社会実験を市民と行政が協働でやってみようということになったのです。弊社は18~19年度に委員会運営を受託しており、今年度も引き続いて委員会運営と社会実験実施のお手伝いをさせてもらうことになりました。
 実験の実施時期は、多くの市民に体験してもらうため、駅前で「ツリー祭り」が開催され、人出が多い12月としました。そして、3つのテーマを設定して、3チームに分かれ、市民参加のワークショップにより、実験内容の検討と準備を行い、社会実験を実施しました。
 今回はそのうち、イベントによる市民の集客に主眼をおいた2つのテーマを紹介します。


多くの参加者を得た市民の手作りによる灯りのイベント「キャンドルガーデン in PH通り」

◆キャンドルガーデン in PH通り /京都事務所 石本幸良

 今回、紹介する1つ目のテーマは、「商店街の通りで市民が積極的に参加したイベントを行い、新たなまつりとして定着を図る」ための実験で、徳山駅に近いPH通りという商店街で、灯りをテーマとしたイベントを開催しました。
 このチームではどんな灯りで彩るかの検討から開始し、京都の「花灯路」の取組なども参考に、ペットボトルでキャンドルホルダーを作ることとしました。ペットボトルを彩る絵については市民の製作への参加とイベント当日の参加を促す目的から市内の幼稚園、小学校に絵画の製作を呼びかけました。
 作業は11月初めから土曜日ごとにメンバーが集まり、ペットボトルの加工作業に集中しました。その結果、ペットボトルホルダー2000個、絵画1400枚、コップ型キャンドル400個を製作することができました。
 イベントは周南まちなかデザインプロジェクト主催の「まちのあかりデザインコンテスト」最優秀作品の点灯式をプレイベントとしました。また、一夜限りの歩行者天国を楽しむため、PH通りの銘店がフードコートを繰り広げ、クリスマス特別メニューで来街者を温かく迎えるイベントも開催しました。
 12月19日のイベント当日は前日からの寒波で雪がちらつく天候でしたが、点灯時間頃には比較的穏やかな天候になり、徐々に観客が集まってきました。5時半の市長の点火を合図に一般参加者にも協力を頂き、キャンドルに点火しました。大勢の家族連れやカップルが色とりどりのキャンドルを眺め、親子で自分の絵を探す光景がとても印象的でした。
 まちかど広場ではライブコンサートを行い、市民による手作りの冬のイベントを盛り上げました。約3000人あまりの来街者は歩行者天国のストリートをキャンドルの灯りに誘導され、冬の夜のまちなか散策を楽しみました。
 今回の社会実験は大勢のスタッフの協力により短期間で企画、製作、開催が実現しました。特に建築士会の30数名にもおよぶメンバーがその中心として活躍されました。
 今回の市民の手作りによる灯りのイベントは大勢の市民の参加を得て、まちなかを楽しむイベントの集客性を確認することができました。スタッフは次年度以降の継続開催と、早期からの準備開始を相互に確認し、再会を約束しました。


キャンドルガーデンin PH通りの様子

自分の絵を見つけて親子で喜ぶ小学生

◆夜間動物園とカウントダウンクルーズ /大阪事務所 山本昌彰

 2つ目のテーマは「新たなレクリエーションの提供」です。「市民の暮らしの質を高めていく」ためには、市民が街なかにくりだし、楽しい時間を過ごせるような環境が必要です。
 そのために、他都市にない周南独自の資源を活用した新しい“風物詩”となるような新しいレクリエーションをつくろうという試みです。
 我がワークショップの班では、このためにできるだけ話題性があり、「あっと驚くような」社会実験を企画しようということになりました。
 「周南」といえば、まず「コンビナート」。新幹線の車窓から見えるその夜景は全国的にも有名です。それから、頭を抱えるポーズで有名な「マレーぐまのツヨシくん」のいる徳山動物園。社会実験では、市中心部からはやや離れますが、この2つの資源を活用した内容を検討しようということになり、最終的に定まったのが、「夜間動物園」と「年越しカウントダウンクルーズ」です。「周南のまちは夜が寂しい」と言われているため、「夜」をテーマにした社会実験としました。

「徳山動物園Night」(夜間動物園)

 夜間動物園は全国でもあちこちで実施されていますが、冬季開園となると、寒さのために見せられる動物が限られてしまい、集客も極端に減少することが予想されるため、よほどの“目玉企画”がないと難しいそうです。
 しかし、冒頭にいう“あっと”驚く企画としては、恋人同士のデートスポットなどとして、「あえて集客を狙わなくても…」と、冬季の夜間開園の実施に踏み切りました。
 結果、集客は(予想通り?)上の写真のとおりです(泣)。この日、市中心部では、周南市最大のイベント「冬のツリーまつり」が開催されたため、集客をそちらに奪われた格好になってしまったのです。しかし、同日に実施したアンケート結果などより、その利用者の多くからは、「普段見られない夜間の動物の状況が楽しめた」「イルミネーションがきれい」などの評価をいただき、“狙い通り”(?)、「恋人と静かな所で楽しめてよかった」などの感想もいただいています。


夜になると活発に動く?動物

当日の園内イルミネーションの様子

夜間動物園の園内の様子

「年越しカウントダウン徳山湾クルーズ」

 このテーマのもうひとつの社会実験は、文字通り、12月31日の夜から船上でコンビナート夜景を楽しむ「年越しカウントダウンクルーズ」です。
 周南のコンビナートは前述のとおり、その夜景の美しさで有名で、とくに、例年ならば年末年始の帰省に合わせてライトアップが最大規模(100%点灯)となるらしいのです。しかし、今年は運悪く、企業のエコ対策の関係で見送られた格好になり、照明は60%程度でした。
 当日は非常に寒く、「どたキャン」がありましたが、それでも70名の参加をいただき、以下の写真のとおり、無事に「カウントダウン」を実施し、その他、ビンゴ、写真撮影、対岸のイルミネーション&花火大会など、盛況に社会実験を終えることができました。
 参加者の多くからは、「夜景がきれい」「実施日がよい」「楽しい」「来年も是非実施してほしい」「スタッフの熱意が伝わった」などの好評をいただいています。


カウントダウンで新年を祝う参加者

船上から見る周南コンビナートの夜景

検証及び今後の継続に向けた課題

 なにはともあれ、社会実験は無事終わりました。「大成功」といっていいでょう。これも前述のクルーズの評価にもあったように、スタッフの熱意の“賜物”と考えており、関係していただいた周南市市民、行政、動物園関係者、大津島巡航(船)、防長交通(シャトルバス)など協力していただいた多くの方々に感謝しています。
 しかし、今後「周南市の名物イベント」として定着させ、継続させていくためには、集客などの面でまだまだ検討しなければならない反省材料は多く、中心市街地との連携方策、採算面、人材面、体制づくりなど多くの課題が残っています。
 今回は、いわゆる“行政主導型の社会実験”という形でスタートさせましたが、最終的には「なんとかこのまちを元気にしたい」という周南市市民の熱意によって成功しました。しかし、次年度以降は、その市民の方が主体となっていただく必要があります。今回の社会実験で得られた人的なネットワークとその熱意を生かし、是非、何らかの形で継続させていってほしいなと考えています。

◆おわりに/京都事務所 松尾高志

 3つ目のテーマは、「新たな店舗立地を誘導し、事業意欲を持つ市民の誘発を図る」ための実験として、期間や場所は様々でしたが「とくやまマーケット」と銘打って、5つの実験店舗を開店しました。
 今回の社会実験は、3カ月という短期間で内容決定と準備を行うというハードスケジュールでしたが、参加した市民の皆さんの力により無事終了することができました。個々のテーマについては、今回の実験を通して、今後継続していくために様々な課題が浮かび上がってきましたが、今回の実験の最大の成果は、中心市街地の活性化を願う多くの市民の存在を確認でき、今後もその力を結集させる人的なネットワークができたことでした。
 周南市では、現在、中心市街地活性化計画を策定中ですが、活性化の中心となるのは市民の力であるということを再認識し、今後も引き続き中心市街地活性化の取組を応援していきたいと考えています。