アルパックニュースレター160号
国内初の日本版チケッツ(当日券販売センター)の実験開始
大阪ミナミの道頓堀で実験開始
京阪神のライブエンターテインメント(劇場公演等)の当日券を一括して販売する社会実験が、3月から3ヶ月間(5月末まで)の予定で始まります。既に新聞やテレビでも報道されていますが、TTC(Today’s Tickets Center)という名称で、国内初の取り組みです。場所は大阪ミナミの道頓堀五座の一つ、中座跡の「中座くいだおれビル」の1階、「いちびり庵」という大阪みやげの専門店の一角をお借りして販売ブースを設置します。
取り扱うジャンルは、当面のところ、演芸・お笑い、伝統芸能(能、文楽、歌舞伎等)、ミュージカル、クラシック、現代演劇としていますが、将来的には、もっと範囲を広げていきたいと思っています。
実験を行うのは、近畿経済産業局の支援を受けたNPO法人ライブエンターテイメント推進協議会(略称LEO)で、私はこのNPOの理事として、その準備に取り組んできました。

出典:朝日新聞 2010年1月25日 夕刊 1面
日本版チケッツの必要性
「チケットぴあ」によると、関西のライブエンターテインメント興業の約9割に、空席が発生しているようです。この状態を改善するには、当日券販売システムが、次の理由から必要となっています。
ライブエンターテインメントを鑑賞するには、幾つかの障害が存在しています。例えば、近畿経済産業局が昨年度に実施した調査の中で、大阪市内に勤務されている方へのアンケート調査が行われ、ライブエンターテインメント鑑賞の障害等が把握されています。障害として多い順に挙げると、(1)料金が高い(50%)、(2)前売券を買うには、前もって予定を組まねばならない(直前に予定を決めたい)(31%)、(3)チケットが入手しにくい(30%)、(4)公演情報が把握しにくい(22%)となっています。
つまり、これまで前売券を買う観客だけが相手にされて、当日券を買う観客は閉め出されていた面がありそうです。したがって、当日の公演情報を提供し、当日券を販売するところができれば、これまで鑑賞に二の足を踏んでこられた観客を獲得することができ、新たな需要の開拓が可能となります。
TTCの仕組み
TTCは、ニューヨークの『tkts』を参考にしています。『tkts』は、ブロードウェイの当日残席を集約し、一覧に示して割引販売を行い、年間140万枚も売り上げています。タイムズスクエアにある販売ブースに、多くの観光客が連日並ぶ光景は、観光名物にもなっています。この『tkts』もNPOが運営していますが、そのままのモデルを日本に持ち込むことは難しく、日本型のモデルを工夫しています。
まず、劇場側から当日券を提供していただいて、TTCはチケットを委託販売します。販売ブースでは、モニターで当日券情報を提供して、当日券を販売しますが、当日券は実券ではなく引換券を販売し、購入者は劇場の窓口で実券に引き換えてもらいます。TTCでは、当日券の販売代金から所要の手数料を徴収し、差し引きした精算金を劇場側へ、月に一度まとめて支払います。
販売価格については、割引となるように劇場側にはお願いしていますが、最終的には劇場側のご判断にお任せしています。前売券は割引きするが、当日券は正価という日本のこれまでの商習慣は、一朝一夕には変えられないようです。劇場関係者のご意見をお聞きすると、当日券の割引販売による値崩れの心配や、割引についての社内コンセンサスに時間が掛かるなど、いろいろ障害があり、しかも劇場によってご事情は様々ですので、一律の前提条件とするのは難しいと判断しました。むしろ割引による影響等について、劇場側に検証していただくことを、この実験の狙いの一つに位置づけています。
なお、NPOによる事業としたのは、この取り組みが関西のライブエンターテインメントを振興するというミッションの下で、劇場関係者の協力をいただくソーシャル・ビジネスであることから、NPOとする方が協力が得やすいと考えたためです。
大阪で開業する意義
東京でなく、大阪で始めるのは、販売ブースから30分以内でJR環状線の沿線の何処にでも移動できるというコンパクトさを評価したためです。いずれ梅田に開設できれば、京都や神戸の劇場にも行きやすくなり、実績が上がれば、京都や神戸にもブランチ設置が可能です。なお、当面は対面販売で進めますが、長期的にはネット対応も展望しています。
また、大阪で始めることについては、私なりの思い入れもあります。大阪の文化の歴史と蓄積を考えると、ライブエンターテインメントは、食文化と並ぶ大きな2本柱ですので、この2つを活性化させることが、大阪の都市格の向上につながり、大阪が自信を取り戻して、優れた人材や産業を大阪に呼び込む契機になることを期待しています。大阪が元気にならないと、関西も元気になりません。
TTCの見通し
上手くレールに乗れば、様々な発展の可能性があります。ナイトライフで考えると、食事はセットですから、当日券と一緒に食事の案内等も可能です。観光客や出張客にライブエンターテインメントを勧めるには、ホテル等の役割も重要になります。こうした他産業との連携が有望だと考えています。
様々な可能性はありますが、チケットの揃い具合は、現時点では不透明です。ソーシャル・ビジネスは、関係者からの協力が大前提の事業ですが、そのためには、ミッションとビジネス(リスクマネジメント等)の両面で、関係者から信頼を得る必要があり、ミッションの面では理解いただいているようですが、ビジネスの面では、NPOということもあってか、まだ不安に思っておられるようです。このため、取り組み自体には賛同いただいても、チケット提供については“様子見”の劇場も多く、特に大手になればなるほど、取り扱う枚数も金額も多くなり、リスクも大きくなってきますので、慎重になっておられるようです。
したがって、不安に思われている点について、今後、一つひとつご理解いただく努力を積み重ね、少しでも多くの劇場に協力いただいて、TTCで多様な当日券が販売できるようにしたいと思っています。
|
|
アルパックニュースレター160号・目次
特集「まちづくりと社会実験」
- 周南市中心市街地活性化に向けた社会実験/京都事務所 松尾高志・石本幸良 大阪事務所 山本昌彰
- 国内初の日本版チケッツ(当日券販売センター)の実験開始/大阪事務所 森脇宏
- にぎわいを創り出す景観まちづくりは可能か?~伊丹市の社会実験の取り組み/大阪事務所 中塚一・絹原一寛・羽田拓也
- 雄三通りにおける社会実験を活用した住民参加の道路のあり方の検討/東京事務所 久永誠
ひと・まち・地域
きんきょう
- 日欧エコプロフィット・セミナーを開催しました/代表取締役社長 杉原五郎
- 近況―発信と響き合い/取締役相談役 三輪泰司(NPO平安京・代表理事)
- ひらかれた市場をめざして~大阪市中央市場の見学&料理教室/大阪事務所 大河内雅司









