アルパックニュースレター160号

日欧エコプロフィット・セミナーを開催しました

執筆者;代表取締役社長 杉原五郎

 2月16日(火)の午後、大阪・天満橋にあるドーン・センターにて「日欧エコプロフィット・セミナー~オーストリアの経験を学び、日本の環境経営について考える~」を開催しました。名古屋工業大学の小竹暢隆准教授を代表世話人とし、アルパックと(株)フルハシ環境総合研究所が事務局を務める「エコプロフィット研究会」が主催し、大阪市と大阪府中小企業家同友会の後援をいただきました。行政、企業関係者、経済団体、産学連携組織、専門家、市民団体から多彩な方々20数名のご参加を得ました。
 ちなみに「エコプロフィット」とは、1991年にオーストリアのグラーツ市で開発された、企業及び地方自治体向けの環境改善プログラムです。
 セミナーの冒頭で、小竹先生から今回のセミナーの趣旨説明と講師のトーマス氏(オーストリア・グラーツ市出身の経営コンサルタント)のご紹介をしていただき、その後で、トーマス氏から逐次通訳を含めて約2時間余りご講演をいただきました。報告の柱は、(1)持続可能なマネージメント(考え方~価値観~行動)(2)エコビジネスプランに基づくウィーンでの取り組み事例、(3)アジアでのエコプロフィットアプローチ(フィリピン、韓国など)。
 トーマス氏は、グラーツ大学時代(化学を専攻)から今日まで約20年、行政と中小企業が一体となった環境改善プログラム・エコプロフィットの開発と普及に取り組んでこられました。現在43才の新進気鋭の経営コンサルタントですが、このプログラム開発の初期、経験と実績のない中で相当苦労されたとのことでした。最初は、グラーツ市や州政府から公的資金によるサポートがあったのですが、企業の自発的な意志で環境と資源効率の改善に注力し、コスト削減など企業経営の向上に目に見える改善効果が実感できる内容とすることで、多くの中小企業(大半は従業員9人以下のマイクロ企業)の参画が得られたとのことです。
 ウィーン市(人口160万人、オーストリアの首都)では、1998年から2008年まで11年間で680企業に経営コンサルティングを行い、4000万ユーロ(約50億円)を上回るコスト縮減を達成しました。具体的には、節水、天然資源の削減、廃棄物の発生抑制、CO2の排出削減、エネルギー使用量の削減、交通・物流の発生抑制など。ウィーン市での取り組みでは、3つの原則(「環境保護は経済的に成り立ち、短期間で投資回収が可能」「企業・行政・専門家などすべてのパートナーとの連携が重要」「小さなところからPDCA(Plan・Do・Check・Action)を回して、継続的な改善に導くことが重要」)を明らかにしています。
 トーマス氏は、いろいろな業種の企業に共通する改善課題(70%)は、ワークショップによる体験学習(Learning by Doing)で改善策を支援、残り30%はそれぞれの企業に固有な改善課題を個別コンサルティングによって改善していく、という2つの方法を駆使することが有効であると強調しました。
 当日参加された方々がどのような印象と感想を持たれたかに関心があり、出席者にメールや電話でフォローしました。
・日本ではやっていない取り組みで、新鮮な印象を受けた。(商工会議所職員)
・日本では、環境と経済が共同でシステム化を進めることの重要性はわかっていても、なかなか縦割りでうまくいっていないのが実情。コンサルタントが接着剤となって、小手先ではない抜本的なシステム化を検討しないとどうにもならないと感じている。(行政職員)
・環境は、やっても儲かるはずがないとの認識でしたが、オーストリアの事例ではそうではないことが理解できた。ただ、日本で具体的にどのようにすればいいのか、宿題が残った。(ものづくり企業の経営者)
・エコプロフィットは実効性の高い環境改善プログラムとの印象を受けた。顧客である事業者へのきめ細かいフォローが大切と感じた。(エネルギー会社の社員)
・楽しいセミナーであった。企業の経営をまるごと支援する専門家人材(コンサルタント)を育てることも、コンサルタントの役割であるという点が強く印象に残った。(アルパックの若手所員)
 今回のセミナーを通じて、オーストリアのグラーツ市とウィーン市を中心とするエコプロフィットの貴重な経験と教訓を学ぶことができました。同時に、日本の地域でどのように環境改善と中小企業の経営支援に取り組んでいくのかについては、乗り越えなければならない課題があることも事実です。アルパックとしては、地域経済の根幹として重要な役割を担っている中小企業・小規模事業者と幅広くお付き合いをして、それぞれの企業支援を効果的に進め、衰退の危機にある地域経済の活性化につなげていくことが大切と実感しました。


セミナーの様子

トーマス氏の講演の様子