アルパックニュースレター160号

にぎわいを創り出す景観まちづくりは可能か?~伊丹市の社会実験の取り組み~

執筆者;大阪事務所 中塚一・絹原一寛・羽田拓也

都市景観大賞後の景観まちづくりの次の展開

 兵庫県伊丹市の中心市街地に位置する伊丹酒蔵通り地区は、平成20年度に国土交通省の都市景観大賞「美しいまちなみ優秀賞」を受賞された、官民一体で景観まちづくりに取り組まれている地区です(150号を参照)。
 伊丹酒蔵通りは歩行者優先道路ですが、中心市街地の商業地にあり、認定された中心市街地活性化基本計画のいわばメインストリートに位置づけられます。近年、沿道では飲食店を中心に店舗の立地が相次ぎ、歩行者の通行量も増加しており、全国的にも極めて珍しく、通りのにぎわいが出来てきています。
 今回、平成21年度に国の地域景観づくり緊急支援事業を活用し、地域組織である伊丹酒蔵通り協議会と市とが協働で、経済活動と景観形成の両立を目指した様々な屋外広告物の社会実験等を行い、景観マネジメントの確立に向けた第一歩にチャレンジされました。

日除け幕・短のれんの設置とまち灯りによる景観の演出

 第1弾として、10月の「伊丹まちブラ’09」(157・158号を参照)にあわせ、通りのアイストップとなるところに日除け幕を設置し、さらに2軒の郷町長屋と長寿蔵に短のれんを設置しました。
 また、協議会による「伊丹酒蔵通りまち灯り」では、手作りの行灯が通りを暖かく照らしました。加えて、白壁を活用して映像作品を投影する「まちなかシアター」を実施しました。
 来場者にアンケートを採ったところ、皆さん伊丹酒蔵通りのまちなみに好印象を持たれており、回答者の7割以上が行灯や短のれん・日除け幕によって「まちなみの印象が良くなった」と答えています。「また訪れたい」という回答も9割を超え、演出の効果が一定見いだせたのではないでしょうか。


郷町長屋に設置された短のれん

デザイン公募によるのれんの設置・看板のリニューアルとまち灯りによる景観の演出

 第2弾として、12月のクリスマスの時期には、「伊丹酒蔵通りクリスマスのまち灯り」の実施にあわせて、同通りの店舗をPRするのれんのデザインを公募し、制作・掲出しました。和食の店だけではなく、歯科医院・パン屋・クリーニング屋・不動産屋など多様な店舗が協力し、全国からデザインの応募が寄せられ、店主の希望に合ったものを選んでもらいました。
 これもお店の利用客にアンケートを採りました。回答者の7割以上が、のれんによって通りの印象が「良くなった」と答え、その理由として「和のイメージが強調されまちなみにマッチしている」「にぎやか(華やか)になった」を挙げていました。また6割以上の方が「継続してほしい」と答えるなど、好評価を得ました。
 「伊丹酒蔵通りクリスマスのまち灯り」は今回が3回目で、行灯に加えサンタさんなどの光のオブジェが通りを華やかに彩り、道行く人たち、特に子供さんが大変喜んでいました。
 さらに、店主のご協力のもとクリーニング店の看板・雨除けを撤去し、短のれんに付け替える看板のリニューアルを行いました。さらにまちなみの統一感が増し、イメージアップにつながったと感じます。


デザイン公募したのれん(パン屋さん)

まちなみづくりに貢献するバナー広告の掲出の実験

 第3弾として、まちなみづくりに賛同する企業名を入れたバナー広告を街路灯に設置、その広告費用をバナー等の維持管理費などに還元する社会実験を行いました。
 このバナー広告は単なる宣伝の手段ではなく、地域の活動を応援し、企業イメージ向上にも寄与する広告、なおかつ上質のデザインでまちなみにも寄与する広告を目指したものです。
 掲出に際しては、掲出・管理主体の問題や法令上の問題など数多くのハードルがありましたが、伊丹郷町商業会・アリオ商店会の協力を得て、最終的に8つの企業・事業所の賛同を得ることができ、今後の可能性も見えてきました。


掲出されたバナー広告

景観マネジメントフォーラムの開催

 2月2日には、東京大学教授の西村幸夫先生をお招きして、景観マネジメントフォーラム~にぎわいを生み出す景観まちづくりをめざして~を開催しました。
 西村先生からは、全国各地の先進的なまちづくり事例をご紹介頂き、伊丹では、新旧の折り合いを上手く付けながら、文化の薫りがする「ここ」にしかないストリートづくりを、とのアドバイスを頂きました。
 パネルディスカッションでは、地域の景観づくりは商売にとってもプラスの効果を生み出すこと、京都や金沢のような全国的な観光都市と違う伊丹のようなまちでは、地域の人たちが主役となって楽しみながらまちを創っていくことが大事であること、そして、景観を一つの「旗印」として地域経済の活性化や地域力の向上、さらにはまちの愛着づくりへと進めていく都市経営の戦略が重要であること、が提起されました。

通りのにぎわいづくりに寄与したかを検証

 この事業の総括として協力頂いた店主へのアンケートを実施し、今回の取り組みが通りのにぎわいづくりや商店・企業のイメージアップ、さらには来店者の増加に寄与したか、を検証しました。その結果、本事業がまちなみの印象の向上、さらには通り全体のにぎわい(通常と比べた来街者の増加)にも「貢献した」という回答が出され、屋外広告物を活用したにぎわいづくりの効果が一定示せたのではないか、と考えています。

持続的なまちづくりへの第一歩

 地域の皆さんは伊丹酒蔵通りを愛し、誇りを持って色々な新しい取り組みにチャレンジされています。国のモデル事業等は期間が短く、単年度であるケースが多いのですが、事業のプロセスにおいて次の展開への財源を確保していくしくみを構築できるかどうかが、事業の継続性を決めると考えます。そのため、企業の広告活動や店舗の営業活動等の地域経済活動と景観形成とが連携し、地域で話し合って地域内でうまく資金が循環するようなしくみを創っていくことが、にぎわいを生み出す景観まちづくりを広げていくための重要なキーワードであると考えています。


旧岡田家酒蔵にて行われたフォーラム

◆寄稿◆とれとれの旬を演出する景観づくりは、にぎわいを生み出す
 (株)バード・デザインハウス 鳥山大樹・竹岡寛文

 今回の社会実験は、これまでの「計画」を実際にまちの中に埋め込んでいく実践的なプログラムであり、非常に刺激的なプロジェクトでありました。
 デザインでは、伊丹市のメインカラーに定めた「伊丹オレンジ」とそれと対比的に日本の和の代表色である「藍(紺色)」の2色を基本色として、にぎわい感を演出しつつも華美に走らず上品で洗練された伊丹のイメージを表現するよう心がけました。その中で「短のれん」は当初、計画になかったのですが、10m以上の水平なラインが景観を形づくる大きな要素となり、同時に「風」を視覚化し、自然をひとつの景観要素として取り入れることができ、予想以上に大きな効果を上げたのではないかと思っています。
 また、公募作品の「のれん」を選定・監修し、制作するという役割でしたが、取りまとめは、なかなかキビシイ作業でした。紙上のデザインチェックでは「まちなみ」になじむデザインになっているか不安もありましたが、いざお店に掛かってみると布のもつ柔らかさにより、個性的な魅力が生まれてきました。改めて布素材の力を実感した次第です。
 街灯に付けるバナーは、東の「芭蕉」、西の「鬼貫」と評される伊丹の俳人鬼貫のイラストと四季それぞれに詠んだ句を配し、「ことば文化都市・伊丹」を表現するデザインにしました。
 今回の事業をきっかけに、これらが来訪者を楽しませる「まちなみの装置」として役立ち、地元商店が支える仕組みを一過性の社会実験に終わらせず、まちへの愛着を深め、誇れる景観として今後も育てていっていただければと強く願っています。