アルパックニュースレター162号
地域住民で守る農村コンビニ「(NPO)耶馬渓ノーソンくらぶ」
我が国の農山漁村では、人口減少によって地区の店舗が成り立たなくなり、買い物難民が増えているという。昨年度、当社で関わった「過疎地域における安心・安定の暮らしの維持(国土交通省国土局モデル事業)」のモデル地区である福岡県八女市上陽町上横山地区で行ったワークショップの意見でも日常生活での不安点としては、「通院」「買い物」が多くあげられていた。
このような過疎地の生活環境のあり方について検討しているときに、大分県中津市耶馬渓町の津民地区において住民出資で店舗を維持しているという情報を得た。
耶馬渓町は、菊池寛の小説「恩讐の彼方に」の舞台となった「青の洞門」や奇岩が連なる山々の峰や紅葉で、シーズンには多くの観光客が訪れる地域である。
この耶馬渓町の中央部に位置する津民地区は中津市から車で20~30分の山間部にあり、人口600人弱、世帯数2百数十世帯の地域であり、現在の津民小学校の児童数は14名である。取材を申し込んだ日に現地に行くと代表の鈴木さん、事務局長の中島さんが、「耶馬渓ノーソンくらぶ」の事務局兼購買・休憩コーナーで待ってくれていた。
「なんだか取り残されたみたい」という高齢者のつぶやきから発起
この施設づくりの発端は、市町村合併問題に遡る。現在「耶馬渓ノーソンくらぶ」の理事をされている10名のうちの半分近くは、平成15年から始まった中津市との合併反対を唱えた「合併を考える会」のメンバーなのである。
当時、「合併を考える会」は町内40数カ所でミニ集会を開き、合併反対の活動を行っていた。しかし、平成17年3月には中津市への合併が決定される。
合併反対を唱えてきたメンバーの人たちは、「単に反対だけをしていても自分たちも面白くない。自律したまちづくりは日常の暮らしの中から、何か地域でやるべきことがあるのではないか。もっと自律したまちづくりを地域の住民の人々と一緒に取り組んでいくべきではないか」と思うようになった。
既に、平成15年には市町村合併より先に農協合併が進み、この津民農協支所は閉鎖されていた。かつての津民農協支所には、事務所と並行して購買コーナーもあり、地域の核的な施設でもあった。夜まで施設の電灯が灯り、地区中心部のたまり場であった。この支所が閉鎖されたことで、地区の一人の高齢者が「なんだか私たちは取り残されたみたい」とつぶやいたことが、「合併を考える会」のメンバーの心に突き刺さったのである。
中津市との合併成立後、さっそく「合併を考える会」メンバーと地元の有志が中心となり、旧農協支所を買い取り、この施設を復活させたということが「ノーソンくらぶ」発足のいきさつである。
この施設では、当初から購買コーナー以外に、地域の人々の趣味の活動、学習の場として活用したいとの思いもあった、組織形態としてはNPOで運営している。
このNPOの会員は約80名であり、入会金2,000円、年会費1,000円、購買部の売上げで施設運営を行っている。
日常品等の購買と農産物の大型量販店への出荷の2本柱
「耶馬渓ノーソンくらぶ」では購買事業の他に、中津市と別府市のスーパーマーケットへの農産物の出荷事業を行っている。農産物を出荷している会員は30名、平均年齢は70歳を超えている。夕方4時ごろに軽トラや手押し車で、購買施設に併設している倉庫に運び、翌朝早く、仲買を仕切っている方(NPOの理事)が、スーパーマーケットにまとめて配達するそうだ。
このスーパーマーケットへの出荷システムは、以前から他の地域の農家の方たちとの間で実施されていたそうで、「耶馬渓ノーソンくらぶ」設立と併せて、仲買の人が津民地区の人々にも、この出荷システムを導入したことから始まった。特に津民地区の高齢農家の方にとっては、近くの施設に出荷でき、小遣い稼ぎができるので、農家とスーパーマーケット双方にとってメリットがあるようだ。
この出荷システムでは、仲買をしている人が15%、スーパーマーケットが15%の手数料を取り、残りが出荷農家の手取りとなる。したがって、「耶馬渓ノーソンくらぶ」は、場所を提供するだけで手数料は一切取っていない。
購買コーナーでは、約30坪の半分くらいのスペースに調味料、インスタント食品、お菓子類、日用雑貨(ティッシュ、スリッパ、長靴など)、洋服など約300種類の商品が並んでいる。商品の中には、明らかに子ども用の小さな長靴が陳列されていたので、中島さんに聞くと「孫のために、たまにおばあちゃんが買うらしい」とのこと。
また、ここでは、肉や魚の生鮮品は販売していない。生鮮品は移動販売業者が行っているので、あえて競合しないよう住み分けている。
この地区でしか売れるものを置いていないといった意味では、まさに農村コンビニである。1日当たり約1万5千円の売上げで、平均7~8人の買い物客がまとめ買いをしているようで、客単価は約2,000円と比較的高い。

施設では購買コーナーと休憩・研修コーナーでほぼ半々で使っている
購買コーナーには約300種類の商品がある
これから維持していくためには外からのお客を増やすこと
中島さんは「今の世の中、お客は安価なところへ流れていくのはどうなのか? 少々高くても地元で消費し、地元の店を守っていくようなことをしないと、過疎地域の店はなくなってしまう」「このような農村コンビニが資本提携とは関係なく、全国の過疎地域にでき、横の連携が生まれると面白いなあ。」と言われていた。
私もこの話には共感するのであるが、我が身を振り返るとユニクロや青山で買い物するし、たっぷりと資本主義社会の流通システムの中での購買行動に浸かっている。しかし、8割は大量消費社会の行動でも、残りの2割は、少々高くても地元で消費するようにならないといけないのかも知れないと思った。
中島さんは、「今後、地区の人口が減少すると、当然、購買人数は減るわけで、ノーソンくらぶの維持も難しくなってくる。やはり外から人を呼び込まないといけない」と思案されていた。
現地に来て思ったのは、通過交通量の多い幹線道路(国道212号)から5分程度と近く、道路も整備されているというメリットがある。そこで、外のお客さんを呼び込む大きな方向性としては(1)もっと地元の売りもの(地元の特産品、景勝地、田舎料理の食事の場など)をつくり、幹線道路のお客さんにPRし、呼び込む (2)田舎体験ツアーなどのイベントなどを通じて津民ファンをつくる (3)津民又は耶馬渓出身の人へ津民の農産物通販を行うなどが考えられる。ただし、(3)の場合は、飽きが来ないように品物を増やしていく必要がある。また、送付するたびに、地元のイベントや近況などの情報といった“ふるさと”を感じるような工夫をしないと長続きしないのではないかと思う。
今後は、NPO理事メンバー、地元の人、行政などが一緒になって知恵を絞り、工夫していくことで「耶馬渓ノーソンくらぶ」が継続していくことを期待したい。

旧津民農協支所を復活させた「耶馬渓ノーソンくらぶ」
アルパックニュースレター162号・目次
特集「農村とまちづくり」
- マチとムラとの新しいつながりのカタチをつくる!-堺市と奈良県東吉野村との広域連携-/大阪事務所 原田弘之
- 農村の景観保全に取り組む~景観農業振興地域整備計画モデル地 区の検討~/大阪事務所 森岡武・絹原一寛
- 伊賀の菜種油「七の花」が本格生産を始めます/大阪事務所 高坂憲治
- 地域住民で守る農村コンビニ「(NPO)耶馬渓ノーソンくらぶ」/九州事務所 山田龍雄
- 人材育成講座によるグリーンツーリズムの推進/京都事務所 江藤慎介
ひと・まち・地域
きんきょう
- 西宮市民が考える「暮らしとまちのビジョン(案)」~西宮市都市計画マスタープランの取り組み/大阪事務所 清水紀行
- 大都市圏まちづくりフォーラムを開催しました/代表取締役社長 杉原五郎
- 第44期株主総会を開催しました/代表取締役社長 杉原五郎







