アルパックニュースレター167号
日本大震災が問いかけるもの~ワンパック専門家相談活動に参加して
4月29日から5月4日までの6日間、東日本大震災の被災地である岩手県宮古市・大槌町・釜石市・陸前高田市、宮城県仙台市・名取市、福島県福島市・いわき市を訪ねました。阪神・淡路まちづくり支援機構(1996年9月創設)の付属研究会が主催した「ワンパック専門家相談隊」総勢37名の一員として参加しました。

被災した釜石の中心商店街
東北は意外と近かった
29日の朝、伊丹空港発の飛行機に乗り、10時前に福島空港に着きました。空港でレンタカーを借りて、東北自動車道を一路最初の訪問地・岩手県宮古市に向かいました。大型連休初日ということもあって、須賀川ICに入った直後から渋滞に巻き込まれ、花巻PAに午後4時、宮古市への入り口にあたる遠野市に午後6時頃到着、ということになりました。
空と陸の高速交通体系を活用すると、〈東北は意外と近い〉という印象を持ちました。
大津波によって破壊されたまち
29日の夕方6時過ぎに宮古に向かい、車のヘッドライトで照らしながら、被災した宮古のまちを見て回りました。港の周辺一帯が大津波で大きな被害を被っているのが実感できましたが、宮古駅近くの飲食店は平常営業しており、お客さんで満杯であったのに驚きました。
30日は、朝10時から釜石市教育センターで専門家相談活動を開始しました。「港の近くで住んでいたが、家を流された。土地を県か市に買い上げてもらって、別の家を購入したい。土地を売却できるか、新規に中古住宅を購入した時、被災者としての優遇措置が得られるか」という相談に、税理士さんと一緒に対応しました。
野田武則釜石市長は、「まちは存亡の危機にある」と強調されていました。新張総合政策課長から、3月11日の大地震直後の大津波への市の対応について、いろいろと聞き取りをしました。
![]() 原発・放射能問題の専門家相談風景 (福島県立あずま運動公園) |
![]() 津波の直撃を受けた陸前高田のホテル |
![]() 地震と津波の影響を受けた小名浜港親水公園 (福島県いわき市) |
![]() ワンパック専門家相談隊 (仙台空港の近く、宮城県名取市) |
自治体とまちの機能をまるごと失った大槌と陸前高田
釜石のすぐ北隣にある大槌町を車で見て回りました。テレビで、大槌町長が津波に流されたとの情報を得ていたのですが、大槌のまちをみて茫然自失になりました。第二次世界大戦の末期、東京・大阪・名古屋をはじめ日本の都市は大空襲で焼け野原を経験していますが、大津波で町役場を含めてまちが壊滅的に破壊され、がれきが一面に広がる光景は、言葉になりません。
翌日5月1日、陸前高田のまちに入り、専門家相談活動を行う傍ら、被災したまちを歩いて視察しました。津波の被害をかろうじて免れた、少し高台にある高田小学校から海辺の方角に市街地を眺めると、破壊された消防署やホテルがぽつんと建っているものの、大槌と同様、まちは一面、無慈悲とも言える津波の暴力で破壊し尽くされていました。350年前から植樹されてきた陸前高田自慢の7万本の松林は、根こそぎ津波で流され、奇跡的に1本だけ残りました。
私たちは、伊藤明彦市議会副議長と1時間以上にわたってお話をすることができましたが、伊藤さんは、ぽつりぽつりと被災直後の状況を具体的に説明して下さいました。
◆陸前高田は、震災前から高齢化と人口減少が続き、3.2万人ほどだった人口は2.4万人ほどに減少していたが、今回の震災でさらに1割を失った。
◆市役所の職員300人ほどのうち69人が亡くなり、不明をいれると120人(4割)ほどがいなくなった。
◆両親を亡くした児童・生徒は27人に及んでいる。
◆地元の消防団は6つの屯所があったが、そのうち5つが流された。消防団の中には、被災のショックで一人にしておけない団員もいる。
◆陸前高田の財政規模は一般会計で100億円、自主財源が25%ほどの弱体化した自治体だが、今回の震災で財政面でも決定的な打撃を受けた。
3つの支援機構が復興まちづくりで意見交換
5月2日、仙台弁護士会館で、3つの支援機構(宮城県災害復興支援士業連絡会、東京都災害復興まちづくり支援機構、阪神・淡路まちづくり支援機構)によるシンポジウムが開催されました。専門家相談活動と復興まちづくりのあり方をめぐって活発な意見交換がされました。参加者は、約60名ほどでした。
阪神・淡路まちづくり支援機構から、代表の塩崎賢明神戸大学教授をはじめ、研究者、弁護士、建築家、医師、土地家屋調査士の各メンバーは、阪神・淡路大震災後の復興まちづくりの経験を踏まえて、積極的に発言しました。私は、(1)基礎自治体の再建、(2)住民とコミュニティの再建、(3)漁業、農業、商工業を含めた地域産業の再建、の3つが重要と問題提起しました。
最後に、「東日本大震災の復興支援 専門家共同アピール・仙台」を採択しました。
放射能の不安に直面する福島といわきの被災住民
今回の東日本大震災は、複合震災の様相を強く帯びています。とくに、福島原発問題(冷却水事故)は今も終息せず、放射能汚染の危機は払拭できていません。
5月3日に、福島市内にある避難所・あずま運動公園体育館、5月4日に、いわき市文化センターで、それぞれ相談活動を行いました。原発と放射能に係わる相談には、小野公二先生(京大原子炉実験所教授、専門:放射線医学)と水野義之先生(京都女子大学現代社会学部教授、専門:核物理)のお二人に対応していただきました。2つの会場でミニ講演もお願いし、一般市民にはなかなか理解しにくい問題を専門家の立場からわかりやすく説明していただきました。科学コミュニケーションとメディエーター(仲介者)の重要性を再認識しました。
私も何度かお話を聞いているうちに、シーベルト、低線量被爆などの専門用語も少し理解できるようになり、原発・放射能問題による風評被害に翻弄されている福島県の現状について認識を深め、今後について一定の科学的見通しを持つことができました。
東日本大震災が私たち日本人に問いかけるもの
このたびのマグニチュード9.0という未曾有の大地震と大津波、そして原発事故は、直接被災した東日本地域だけでなく、日本人の私たちひとり一人に重たい課題を突きつけています。私たちに何ができるか、何をしなければならないのか。
アルパックは、1967年に京都の吉田山麓で創業して以来、44年にわたって、地域とともに歩んできました。シンクタンク、都市計画・まちづくりのコンサルタント、建築設計の専門家として、地域課題の解決に努力してきました。これからも、地域社会に「希望の火」を灯し続けていきたいと考えています。今回の大地震という試練を乗り越えて、より一層たくましく成長していきたいと思います。
アルパックニュースレター167号・目次
特集「安全で安心して暮らせるまちづくり」
特集「子どもの空間」
- のぞみ保育園と東和保育園が竣工しました/京都事務所 山崎博央
- スノーピーク箕面自然館とスノーピーク箕面キャンプフィールドがオープンしました
/大阪事務所 原田稔・和田裕介 - だん王保育園の耐震補強工事が完成しました/京都事務所 三浦健史
ひと・まち・地域
きんきょう
- 1日でまちづくりの新しいきっかけができた「さんだの夢・未来を描くワークショップ」
/大阪事務所 小阪昌裕 - 事業所のごみ排出実態を調査しました/大阪事務所 武藤健司
- 新人紹介「分野の壁に水平ドロップキック」/大阪事務所 山崎衛











