アルパックニュースレター167号
都市と農のよい関係~新たな都市計画を展望して
はじめに
都市とその近郊、特に市街化区域とその周辺では、計画的でない農地転用、スプロール開発、耕作放棄地、農作業への苦情など…、都市と農のあまり「よくない関係」を見聞きします。ここでは、農側と都市側の両方の業務を通じて、都市と農のよい関係づくりについて私見を述べます。
京都府精華町…(都市と農の近居タイプ)
精華町は、京都府の南西端に位置し、関西文化学術研究都市の一角を占める人口約3.7万人のまちです。都市計画上は、既成市街地と学研都市のニュータウンが市街化区域に区分され、市街化調整区域は基本的に農業振興地域として、都市近郊農業が振興されています。いわば「都市と農が近居」するまちです。

農業振興地域には美田が広がる(精華町)
<都市と農村のはざまで生き抜く農業>
ニュータウンでは計画的な都市づくりが進められていますが、その周辺の集落等では都市化のあおりを受け、いわゆる農振白地農地を中心に、年平均10件、4,600㎡の農地転用が生じています。農地の減少と専業農家の減少が進み、現在では兼業農家が大半を占め、農家の後継者不足が深刻化しています。
精華町農業は水稲栽培が主ですが、都市近郊という地の利を生かして、青とうがらし、水菜、花卉、えびいもなどの施設栽培が盛んです。また、減農薬有機米の栽培や観光いちご園も推進しており、特にいちごは府内最大の産地として都市住民を広く集めています。
<精華農業の生きる道=農業ビジョン>
精華町の農業振興地域整備計画をお手伝いする中で、都市と農がよりよい関係で近居できるよう、「精華町農業ビジョン」の策定を提案しています。そこでは、「農業・農地の有する経済、健康、環境という価値を高め、それらの好循環を産み出して精華町のまちとしての価値を高めること」をテーマに、都市と農が共生する新しい都市近郊農業の推進をねらいとしています。具体的には、地産地消を推進するための「精華産表示」、「学校給食ファーム」、「精華の名物づくり」などのプロジェクトを設定しています。そして全ての基盤となる「担い手育成」や「農業ビジョン推進会議」の取り組みを提案しています。
<新旧の壁を乗り越える農の力>
空間的には都市と農が近居していますが、都市住民と農家の交流やつながりは少ないのが実態ではないでしょうか。旧来からの町に大規模ニュータウンが後からやってきた市や町ではいわゆる「新旧の壁」が共通の悩みになっています。実は近くて遠い都市と農村を結びつける…そのためには、都市と農が出合い交流する場や機会が必要です。そこで、精華町では、農産物直売や学校給食、ブランド化、農業体験など、農側からのアプローチが始まっています。都市計画・まちづくりの側でもこれを受け止めて連携する仕掛けが求められます。
![]() 都市近郊の農地:背後の高台がニュータウン(精華町) |
![]() 直売所「愛菜館」:京野菜に力を入れている(精華町) |
兵庫県播磨地域…(都市と農の同居タイプ)
次に、兵庫県播磨地域における市街化区域内農地のあり方調査を例に、市街化区域内農地や都市型営農について考えてみます。いうならば「都市と農の同居」でしょうか。
<市街化区域内農地の状況と問題>
市街化区域は「優先的に市街化を図るべき区域」であり、生産緑地地区を除いて市街化区域内農地は「いつかは宅地化される仮の姿」として存在しています。しかし、新都市計画法公布から40年が経過した今も市街化区域内には多くの農地が残されています。播磨地域(東播・中播・西播の線引き都市計画区域)では、市街化区域の約10%が農地で、中には20%を超える市町もあります。さらに人口減少社会を迎える中で、将来にわたって相当量の農地が市街化区域に存在し続けることが推測されます。
これらが適切に営農・管理されるのであれば良いのですが、農地所有者側も安泰とは言えません。営農者の高齢化や後継者不足の問題は全国的に共通してあり、さらに住宅地と農地の相隣問題、ごみやペット糞など営農環境の阻害、農地保有コストの上昇、相続による不在地主化など、営農を続けるのが難しくなってきています。
結果として、スプロール的開発や耕作放棄地、管理が不十分な空き地などが増加し、営農環境が悪化するだけでなく、市街地環境上も問題を抱えることになります。
<都市政策の方向性の変化>
こうした状況に対して、国の都市計画制度小委員会(H23年)では、都市農地について必然性のある非建築的土地利用として位置づけ、農業政策との再結合により、都市農業を持続的なものとしていくという方向性を示しています。また、兵庫県の都市計画区域マスタープラン(H22年)では、市街化区域内農地を宅地化するものと都市緑地として保全するものに区分するという方針が位置づけられています。
このように、都市政策的には宅地化一辺倒から保全へと舵を切る時代的転換点にあることが分かります。しかし、具体の計画論は追いついておらず、市街化区域内農地は、都市計画からも農振計画からも「扱いにくいもの」とされているのが実情です。
<市街化区域内農地の保全に向けて>
兵庫県では、農地・農業の有する防災・環境・景観などの多面的機能を評価し、市街地環境の質の向上に資するものとして活用することを基本に、市街化区域のあり方の再構築を試みています。ここでは、主として都市計画・まちづくりの観点から、以下のような対応方向の必要性を提案しています。
(1)農地を含む市街地像の提示:農地の存在を前向きに捉えた市街地像を構築することで、都市環境に新たな可能性が開けることを示す。
(2)土地利用計画への位置づけ:都市計画マスタープランなどに「農地を保全する区域」を定めるため、新たな土地利用計画(ゾーニング)制度を構築する。
(3)地区レベルの計画づくり:農地所有者や地区住民の合意を形成し、地区レベルの土地利用計画、農地の保全活用計画を策定するため、新たな計画制度を構
築する。
(4)土地利用規制手法と支援策の導入:実際に農地を保全するため、現行手法の改善を含む新たな土地利用規制手法の創設と、管理・営農のソフト支援及び簡
易な基盤整備等のハード支援の方策を創設する。
<新たな都市計画の展望>
兵庫県播磨地域では、市街化区域内農地の保全・活用を図るため、市街化区域の概念を改め、土地利用計画制度を構築し、実現手法・支援施策を構築しようとしています。それらを通じて、農を生かした豊かな生活が送れる新たな市街地像の形成を目指しています。この先には、三大都市圏の生産緑地地区制度に矮小化されていた都市農業を開放し、新たな都市計画を構築する可能性が展望されます。
![]() 農と共存するライフスタイルが可能となる住宅地 (播磨地域) |
![]() 市民農園は都市と農をつなぐ仕掛けの一つ (播磨地域) |
おわりに
都市のコンパクト化に向けて、都市と農をどう関係づけるかが重要な論点になっています。今は集約拠点をいかに形成するかが議論の焦点になっていますが、表裏一体として、縮退する区域の土地利用を検討する必要があります。緑地や農地を有力候補に考えるならば、上記に示した都市農業の実情を踏まえ、農地を保全する土地利用政策と、業として維持する産業政策の連携と再構築を図る必要があります。
先に、都市と農の「近居」と「同居」の2つの事例を紹介しました。「スープの冷めない距離が最適」などと言われますが、スープを持っていく関係が無ければ意味が無いのと同じで、都市と農のリアルな結びつき(互恵関係)をまちづくりの中でいかに創出するかが、豊かさを実感できる都市づくりにおいて重要だと考えます。
アルパックニュースレター167号・目次
特集「安全で安心して暮らせるまちづくり」
特集「子どもの空間」
- のぞみ保育園と東和保育園が竣工しました/京都事務所 山崎博央
- スノーピーク箕面自然館とスノーピーク箕面キャンプフィールドがオープンしました
/大阪事務所 原田稔・和田裕介 - だん王保育園の耐震補強工事が完成しました/京都事務所 三浦健史
ひと・まち・地域
きんきょう
- 1日でまちづくりの新しいきっかけができた「さんだの夢・未来を描くワークショップ」
/大阪事務所 小阪昌裕 - 事業所のごみ排出実態を調査しました/大阪事務所 武藤健司
- 新人紹介「分野の壁に水平ドロップキック」/大阪事務所 山崎衛











