アルパックニュースレター167号

のぞみ保育園と東和保育園が竣工しました

執筆者;京都事務所 山崎博央

 国では、昨今の保育所待機児童解消を目指すべく平成20年度に「安心こども基金」が創設されました。平成22年度までの時限付となっており、この3ヵ年はこの基金を財源とした保育園の建て替えや増築、改修が、特に共働きニーズの高い都市部を中心に多くみられました。
 京都市は全国的にみても古くから民間保育園の割合が圧倒的に多い都市で、老朽化に悩んでいる保育園もあります。そのため、この間、保育所待機児童解消と老朽建物改築事業として、いくつかの保育園の建て替えや改修が行われました。そのうちアルパックでお手伝いをさせていただいた園についてご紹介します。

のぞみ保育園

 地下鉄北大路駅から歩いて1分、小さな教会の庭で子どもたちの遊ぶ声が聞こえてきます。その教会のおとなりに教会と雰囲気がよく似た建物があります。
 のぞみ保育園は昭和45年、社会福祉法人るうてるホームによって定員60名で設立されました。平成21年、現在の園長であり、かつ教会の牧師でもある高塚先生が新しく「社会福祉法人京都ルーテル会」を設立され、0歳~就学前までの子どもを預かる保育園として現在運営されています。


のぞみ保育園:外観

 この、のぞみ保育園の園舎、実は40年前もアルパックが設計したもので、OBもお子さんを預けていたりと、いろんなご縁があって、今回もお手伝いさせていただくことになりました。平成21、22年度の2ヵ年にまたがって、仮設園舎建設、仮移転、旧園舎解体、新園舎建設、園庭整備と延べ14ヶ月間かけて3月末に引渡しを行いました。
 三角形の変形敷地は、都心の保育園の宿命といった狭さで、かつ隣接する住宅と交通量の多い道路に挟まれており、なかなか条件の厳しい敷地でした。園舎の計画に当たっては、園長、主任の先生以下職員の皆さんと意見交換を行いました。狭い敷地を無駄なく有効に使える形を考えていこう、ということで、敷地にそった三角形の形状とし、各辺3つのブロックに分けたプランとしました。階段を中心とし、その周りに廊下を兼ねた少し広めの共用スペースを設け、部屋以外の「逃げ」のスペースを作り出しました。
 また、これまで独立してとれなかったホールを3階に設け、音楽の練習や屋内運動、発表会なども保育室とは別の空間でできるようになりました。その他給食室や事務室、職員休憩室などもこれまでより充実させ、全体的には旧園舎より一回り大きな建物になりました。
 隣接地にあるW.M.ヴォーリズ設計のルーテル賀茂川教会は、地域のシンボル的存在でもあり、今回の保育所新園舎は教会と調和したデザインが施主からも地域からも要望されました。そのため、今回は保育園と教会の一体感がわかりやすいように、できるだけ教会のデザイン要素を取り入れた設計としました。
 あと少しで庭の桜が満開になりそうな4月の日、のぞみ保育園の入園式が行われました。今年からは定員が30名増えて90名の園児たちが、この新しい園舎で過ごし、学び、育っていきます。


のぞみ保育園:ホール

東和保育園

 地下鉄十条駅から徒歩2分、こちらも駅近の保育園です。
 東和保育園は昭和27年に開園された、0歳~就学前までの子ども60名を預かる園です。木造平屋の旧園舎からは50年以上にわたってたくさんの子どもたちが卒園されています。今回の園舎建て替えにより定員が60名から90名に増えました。
 園長の子どもたちに願う思いは、「『自己肯定感』の持てる子どもに育ってほしい」というもの。「自分に自信を持てるような子どもになってほしい、そのために子どもの目線で話を聞くことを大切にし、『手渡す』ように言葉を与え、ひとりひとりの子どもにより添った保育を行っていく」ということが基本姿勢です。
 また、これまで4・5歳児で取り組んでいた異年齢保育を3~5歳児に幅を広げて行うことになりました。互いに認め合いながらおりあいをつけられる力を身に付け、社会に適応できる子どもに育てていきたい、という思いがあります。
 そういったお話から、新しい保育園は「落ち着いた雰囲気」のある園舎がいい、ということになりました。
 毎週、夜遅くまで保育士さんも一緒になって議論をしました。これからの保育をどうしていくか、新しい形(3~5歳児の異年齢保育への取り組み)のためにどのような環境が良いのか、3階建てになることで日々の動きがどう変わるのか、など。熱心な園長との議論は、時には深夜におよぶこともありました。


東和保育園:外観

 繰り返す打合せの中で譲れなかったことが3点。1つは、ホール(遊戯室)を幼児の保育室とは別に、かつ同一フロアに確保すること。管理動線の面もありますが、子どもの移動に上下の動きを極力持ち込まないようにして、シンプルな動線とするため。2つめは、とにかく静かになれる空間構成、建物性能にしたいということ。幼児と生活リズムが異なる乳児―特に0、1歳児の空間に、幼児の保育で発生する音(お歌や運動、おしゃべりなど)を持ち込まないため。3つめは、園庭を充実させること。広さはもとの庭より狭くなりますが、子どもたちが楽しく遊べる園庭にしたい。さらに乳児が安心して遊ぶことのできる乳児専用のお庭を設けたい、ということです。
 この3つを柱に何度もプランの検討を重ねました。
 現場に入っても園長の熱意はとどまることを知らず、とにかくギリギリまで考えに考え抜いて決断をされていました。子育てをしながら、今後の保育方針や運営についても考え、そして建て替えのことにも取り組む、という「まさに寝る暇がない」状態だったに違いありません。敬服いたします。
 この園を建て替えるにあたって、一番悩んだことは、園庭にそびえる大きなイチョウの樹をどうするか、ということ。仮設園舎をつくらずに現地で建て替えようとすると、どうしても既存園庭に建てる必要があります。でもイチョウを残すとなると思い描く保育のための空間づくりが難しくなってしまいます。悩んだ結果、イチョウはやむを得ず伐ることになりました。園舎の壁には、この樹をずっと忘れないように、園児が書いた大きなイチョウの絵を飾っています。これからもずっとみんなを見守ってくれますように、と願いを込めて。


東和保育園:乳児専用園庭

東和保育園のイチョウタイル制作風景

アルパックニュースレター167号・目次

2011年5月1日発行

特集「安全で安心して暮らせるまちづくり」

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