アルパックニュースレター169号

特集

名古屋における協議会型まちづくりの紹介
~広がり始めたエリア・マネジメント

執筆者;名古屋事務所 尾関利勝

広がる名古屋の協議会型まちづくり

名古屋の都心では地元が主体になって組織をつくり、まちづくりの目標とルールを持ち、公民連携を図りつつ、財源を工夫しながら、持続的にまちづくりを進める協議会型のまちづくり=エリア・マネージメントが幾つかの地区で取り組まれている。
エリア・マネージメントは、主にアメリカのメインストリート・プログラム(全米ナショナル・トラストが創出し、“歴史的資産保全と経済開発を融合する地域主体の街の再生の仕組み”で、有償の専任マネージャーを置くボランティア活動が特徴)や、東京の大手町・丸の内・有楽町地区などの取組がモデルとなって各地で取り組まれているまちづくりの仕組みだが、ここでエリア・マネージメントを取り上げたのは、従来の中心市街地等でのまちづくりが、商店街など沿道を基本に、公的助成に依拠する場合が多かったのに対し、最近は生活圏や商業・ビジネス活動が共通する面的な範囲を対象にして、まちづくり組織が、商業者だけでなく、住民や地権者が主体となった取組への変化が見られるからである。
名古屋の都心では、名古屋駅前、広小路セントラルエリア、錦二丁目、栄ミナミ(栄二・三丁目)、栄東(栄四・五丁目)などで取り組みが進んでいる。これに着目して、名古屋都市再開発研究会では5年前から一昨年まで、エリア・マネージメント委員会を設置し、各地区の実情調査と国内外の制度事例研究を行い、現在、各地区のまちづくりを前進させるための制度のあり方などを中心に、各地区との意見交換を継続している。
本稿では様々な名古屋のまちづくりの中で、都心で取り組まれる4地区の協議会型まちづくりの例をご紹介したい。
目新しい話題として、河村市長がマニフェストに掲げ、現在8学区で取り組まれている地域委員会(アメリカの都市の取組がモデル、当初目的は選挙で選ばれた委員会による地域の自主予算配分)がある。読者には関心がおありと思うが、始まったばかりで、成果を評価できないため紹介は今後に譲る。

名古屋駅地区街づくり協議会

JR名古屋駅舎建替えによるセントラルタワーズ建設以来、街区規模の再開発が集中し、全国的に“名古屋が元気”と話題になった名古屋駅前で、“「訪れ・働き・学び・住みたい街」となるための魅力向上策を、共に考え、提言し、活動すること”を趣旨に、平成20年3月、従来の商店街振興や景観形成のまちづくりを発展させ、地権者企業を中心に協議会を設立した。正会員45社、賛助会員、オブザーバーに名古屋市が参加。総会、幹事会のもと、事務局を核に、事業企画(3ワーキング)、都市再生、運営の3委員会を運営、会費を主な財源に、必要に応じて補助を活用し、街の美化活動やイベント、街づくり戦略策定、組織強化・連携に取り組む他、視察や講師を招いたシンポジウムを継続的に開催している。組織の形態は東京の大丸有地区より小さいものの、比較的類似している。
地区は街区規模の建物が多い反面、形状は不整形で、主要幹線道路以外の街路が狭く、常時交通混雑すること、高容積建物が多いが、公園・広場など公共空間が少なく、地下街、鉄道・バスの公共交通と地区を結ぶバリアフリー確保など、まちづくりの課題を抱えており、それらの解決に向けたデザイン・ガイドラインづくりをめざして活動を進めている。

広小路セントラルエリア活性化協議会

名古屋駅から東、広小路を中心東西軸に、東西は堀川~伏見通、南北は錦通~三蔵通に囲まれた栄一丁目・錦一丁目地区で、伝統的劇場の御園座、四季の常設劇場であるミュージカル・シアター、多数のシティ・ホテル~ビジネス・ホテル、オフィスビルが集積し、特色ある飲食街を持つエンターティメント性の高いまちである。
堀川・納屋橋地区再開発をめざし、昭和62年、商店街や企業が参加し、名古屋で最も早く協議会を設立。この間、新聞社、ホテルの入るアムナット(任意再開発)が完成、今後、納屋橋東の組合施行市街地再開発事業(2009年都市計画決定)の実現化をめざしている。
総会・理事会のもと、街づくり、事業、地域振興、プロジェクト21の4委員会と事務局を持ち、新しい建築活動をデザイン・コントロールする街づくり相談室はじめ、堀川の浄化、広小路の美化、イベントを進めている。

錦二丁目まちづくり連絡協議会

都心のほぼ中央、繊維問屋街を中心とする錦二丁目地区は、近代名古屋の活力を支えた地区だが、今は衰退し、空きビル等、土地・建物、地域産業の再生が課題となっている。
平成15年、まちづくりビジョン作成のためのワークショップを開始、翌16年3月に地権者やビルオーナーを中心に「まちづくり連絡協議会」を設立、名古屋市の助成や大学研究室、設計事務所や建設会社の若手スタッフ等との連携の元で、まちづくりのルール化やマスタープランづくりを進めている。
空きビルにベンチャーを誘致した“えびすビル”(現在3棟)を立ち上げ、地域出資の会社で運営している。これを契機に地域活性化イベントの“えびす祭”を始めた。昨年、開催された第一回あいちトリエンナーレには地区一帯の空きビル等を会場として参加した。
現在、事務局を兼ねたコミュニティスペース“まちの会所”をえびすビルに設置し、NPOまちの縁側育み隊の延藤安弘先生や名古屋大学村山研究室がまちづくりに参加している。

栄ミナミ地域活性化協議会

各地の商店街商業地と同様に衰退していた旧来の飲食・商業の街が、地域(栄中部を住みよくする会)の要望で取り組まれた中央高校跡地のナディアパーク開発(アルパック企画)の集客効果で再生したことをきっかけに、平成19年2月、栄中部を住みよくする会を中心に、地域の10町内会、7商店街・発展会など地元の全ての人が参加する協議会を、商店街役員企業を事務局として立ち上げた。
地域の核となるナディアパークと矢場公園をまちづくりに活用しながら、住民、来街者、商業者、地権者にとって望ましい“歩いて楽しいまちづくり”のための公共空間再生をめざし、まちづくり活動を展開している。
その一つは地域ぐるみのイベントで、平成19年、第一回栄ミナミ音楽祭を開催、翌平成20年、矢場公園での栄ミナミ盆踊り、平成21年には矢場公園に本物のアイススケートリンクを設置した“ナゴリン”を始め、今年の秋は名古屋グルメ選手権の開催を企画している。
一方、歩いて楽しいまちづくりに向けては、駐輪対策などを進めるほか、今秋から南大津通の歩行天を復活する実験的取組をはじめ、来年からは本格的に復活する予定である。 事業は住民を含む組織のため高額の会費徴収は難しく、原則として補助金に頼らず、協賛企業の寄付金や事業収入による。
この過程で、まちづくのリーダーと有識者や応援団を交えた栄ミナミ文化フォーラム、まちづくりフォーラムを連続的に開催し、まちづくりの目標やルール、進め方が議論されたが、最大の課題は自主財源の確保で、そのためBID(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト:1970年代にカナダのトロントで始まり、その後全米、イギリス、フランス、ドイツなどに拡大している固定資産税の法定外目的課税)の適用が議論され、行政にその具体化に向けて働きかけている。

協議会型まちづくりの前進に向けて

上記は、地区の事情に応じた都心ならではの様々な展開を示しているが、共通するのは情熱を持った担い手が、ボランティア的にこれを支えていることである。しかし、ボランティアだけではまちづくりは長続きしない。持続するまちづくりを考えると、その担い手の核となる事務局・マネージャーの働き、活動の自己財源確保やビジネス・モデル化、柔軟な制度適用や規制緩和のための行政連携が重要な課題になっている。まちづくりが持続的につながる安定した仕組みとなるためには、これらの課題をクリアーして行かなければならない。そのためにもメインストリート・プログラムやBIDなどの先進例を学びながら、サポートを続けていきたい。

アルパックニュースレター169号・目次

2011年9月1日発行

「まちづくりとエリアマネジメント」

ひと・まち・地域

きんきょう

メディア・ウォッチ

まちかど