アルパックニュースレター169号
住宅地の住環境マネジメント
郊外住宅地の抱える様々な課題
高度経済成長期に都市近郊に建設された郊外住宅地においては、同世代が一斉に高齢化することによる空き家の発生やコミュニティ活動の停滞、介護サービス等のニーズの急速な高まりなど、全国共通の大きな課題が進行しており、それに対応する取組も進められてきています。
例えば、高齢者の居住に対する住替え支援の仕組みが進められています。これは、坂道が多く生活サービスが不足している(してきた)郊外住宅地において、もっと利便性の高い駅前等への住替えや、サービス付きの高齢者住宅への住替えニーズに対して、適切な情報提供とJTI(一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)のマイホーム借上げ制度の活用などにより、円滑な住替えを支援する仕掛けです。住替えにより活用可能となった住宅ストックを子育て層などへ賃貸し、住宅地の活性化に寄与する視点も組み込まれています。
また、高齢者の住替えや相続が発生することにより、100坪前後の大きな宅地で構成されていた住宅地の街並みや住環境が、敷地分割により変化する状況に対して、地区計画などによるルールを定めることにより住環境の維持を図る例もあります。
対応策と現実のギャップ
このように、個別の課題に対応するための制度や事例は整ってきていますが、これらの取組がバラバラに行われることによって、住民が真に望むまちの姿とのギャップが生まれる場合が考えられます。
例えば、高齢化が進む郊外住宅地において、高齢者が求める「暮らし方」は、「住替え」ではなく、「住み慣れた住宅地で住み続けること」かもしれません。だとすれば、単純な「住替え支援」ではなく、住宅地の中に「サービス付き高齢者住宅」を組み込む視点が必要かもしれません。もしくは、「住み続ける」ために必要な購買・移動・介護サービスの充実が求められているかもしれません。
また、高齢者の住替えが円滑に進んだとしても、その住宅地が若者に対する魅力が不足しており子育て層の転入が進まないかもしれません。その理由として、住環境を維持するために守ってきた「広い宅地面積」が若者の転入にはネックになっているかもしれません。
住環境マネジメントの仕組みが大切な理由
このように、「住宅地の土地利用のルールをどう考えるか」「住民の生活に必要なサービスをいかに確保するか」「魅力的な住宅地としていかに住環境を向上させるか」などの課題に対して、行政が費用を投じて対応することには限界があり、必要なサービスを組み込むための余剰地も少なく、事業者の参入も見込めないケースが多い状況です。
そこで、住民自身が居住する住宅地をより暮らしやすくするための住環境マネジメントの取組が重要になってきます。
一般的に、開発整備された住宅地では、少子高齢化が進み、公共施設や近隣センターの老朽化などが進んでいますが、その変化に対応できる、管理、再生・更新を一連で実施できるマネジメントの仕組みが備わっていません。
また、これまで住民自身も、自らが所有する住宅資産に対する関心は高くても、住環境に対して主体的な関わりを持つ意識が低いといわざるを得ない状況でした。
これからは、前述のような社会環境やまちの変化に対応し、また、望ましいまちの将来像に向けて「住環境を育てる」視点を持ち、個人の領域は個人、公共施設は行政という考え方でなく、住民や事業者が共同・協働して「地域の価値を高める仕組み」を地域で持ち、地域住民自らが主体的に取り組むことが重要です。
住環境マネジメントの推進体制
住環境マネジメントに取り組むための体制は、それぞれの地域のコミュニティの状況によって進め方が異なると考えています。
(1)中心組織型
自治会連合会やまちづくり協議会など、一定のエリアにおいて求心力と行動力を持つ組織が存在している地域は、それらの組織を母体とした取組とすることが望まれます。
この場合、まず住民全体でまちの課題について共通認識を持ち、まちの将来や望まれる暮らし方を描いた「ビジョン(構想)」を共有し、その実現に向けた取組を進めることが可能です。
このような体制の場合は、地域にある既存組織が共有の目的の下で連携した活動ができることで大きな効果が得やすくなるとともに、地域の土地利用やまちなみの形成など、一定の合意形成に基づく取組の可能性があります。
(2)ネットワーク型
高齢者の生活支援や子育て支援など、特定課題に取り組むNPOなどが存在する地域は、組織間の連携を進めることにより、活動の幅やネットワークを広げ、地域住民全体の生活を向上させる活動へ展開を広げることが望まれます。
この場合には、既に行われている活動を基本とするため、利害関係や関心テーマの一致する範囲から活動を進めることが可能です。
(3)関連事業者の支援・参画
郊外住宅地には、開発業者や電鉄会社などにより開発整備されたものが多くあります。
それらの事業者にとっては、住宅地の販売が促進され、人口が増加し、公共交通利用者が確保される状況が望ましく、住宅地の魅力を高め、地域が活性化することについて、地域住民と利害関係が一致します。そのため、住環境マネジメント活動への支援や参画(場合によっては主体として)の可能性があります。
地域にとっては、事業者の資金や人材などを活用できるメリットがあります。
住環境マネジメントのこれから
高齢社会が本格化するこれからの時代において、郊外住宅地が住宅市場から取り残されないように、住宅地としての生活利便性を維持すると共に、魅力を向上させ、まちの持続性を高める工夫がより一層必要となってきます。
特に、高度経済成長期に開発され、40年程度が経過する郊外住宅地が多くなってくるため、今後10年で空き家の発生が増加する可能性があります。この空家の管理や活用をきっかけとした住環境マネジメントの必要性が高まると想定されます。
私たちも、住宅政策やニュータウン再生などの業務の中で、住環境マネジメントの仕組みをまちのシステムとして組み込むことを、積極的に提案していきたいと思います。
![]() 緑が育ち美しい街並みが形成されている住宅地だが急速な高齢化が進行しており、様々な課題が発生してきている(八王子市内) |
![]() 近隣センターの空き店舗を活用した子供の居場所づくりの取組(泉北ニュータウン) |
アルパックニュースレター169号・目次
「まちづくりとエリアマネジメント」
- 名古屋における協議会型まちづくりの紹介~広がり始めたエリアマネジメント
/名古屋事務所 尾関利勝 - 既成市街地における土地利用マネジメント~潮江密集地区のまちづくりの事例
/大阪事務所 岡本壮平・清水紀行 - 周辺市街地の土地利用マネジメント~非建築的土地利用の“状態”のコントロール
/大阪事務所 絹原一寛 - 地方都市の生活拠点のマネジメント~持続的な生活圏構造に向けて/大阪事務所 岡本壮平
- 住宅地の住環境マネジメント/大阪事務所 嶋崎雅嘉
- まちなかバルによるエリアマネジメントの第一歩/大阪事務所 中塚一
ひと・まち・地域
きんきょう
- 文化的転換/相談役(NPO平安京 代表理事)三輪泰司
- 「スマート・シュリンキングによる関西再生」まちづくり技術交流部会に参加しています
/京都事務所 石川聡史 大阪事務所 中塚一・絹原一寛・橋本晋輔 - 守山市でベンガラ塗りワークショップをしました/京都事務所 三浦健史









